「【焦点】SPACが再びブーム、今度は法廷で」の記事にある、大学教授の起こしたSPACの一部が1940年投資会社法に違反しているという訴訟は興味深い。同記事によれば、著名投資家ウィリアム・アックマン氏が設立したパーシング・スクエア・トンチン・ホールディングスや、経験豊かな起業家ノーム・ゴッテスマン氏が共同創業したゴー・アクイジションやEマージ・テクノロジー・アクイジションが含まれるといい、「訴状によれば、ゴー・アクイジションとEマージ・テクノロジーはそれぞれ創業者に特別な株式を付与し、発行済み株式の少なくとも5分の1に相当する持ち分がある。わずか2万5000ドルで購入した株式が、1億ドルを超える価値を持つ可能性があるとされている」、「訴訟に近い立場の関係者によると、両氏が訴えの対象にするSPACは、異例の長期にわたって(たいてい1年余り)国債やマネーマーケット・ファンド(MMF)に投資している。またアックマン氏のSPACを訴えたもう一つの理由は、未公開会社の買収ではなく、米大手音楽会社ユニバーサル・ミュージックに10%の株式取得を持ちかけるなどしたためだと両教授は言う」と報じられている。
適当な投資案件がないと判断して安全性が高いがリターンの低い資産に投資したままではSPACの設立目的が達成できないだろうし、現在は未上場企業とはいえ近々上場する計画があるユニバーサル・ミュージックに投資することはSPACの設立目的に適うものだろうかと思う。また、「SPACは通常、設立から2年で買収先を見つけられなければ解散となる。設立者は買収成立で多額の報酬を得られる仕組みになっており、期限内に何とか案件を作ろうとする。競争は激しく、買収価格はつりあがる」(『バフェット氏「SPACは厄介者」 総会で投機に警鐘』 2021/5/2 日本経済新聞WEB版)とされ、無理して高い価格で買収すればSPACのリターンが低くなる(負のリターンを含む)可能性があるのに、設立者は高い報酬を得るという懸念もある(「ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)はこれまでに、SPACの内部関係者は、たとえ株価が低迷しても巨額の利益を手にするようになっていることを報道してきた。」【焦点】SPACが再びブーム、今度は法廷で)。
「【焦点】SPACバブル崩壊、750億ドルの価値吹き飛ぶ」の記事には、運用会社のマネジングメンバーの「不確実な企業への投機の代償だ」という声が載せられている。株式を、企業価値を原資産とするコールオプションと見做すマートンモデルに従えば、SPAC価格の高騰はボラティリティの高さが要因であると考えられる。
菅政権内でSPAC解禁を主導したのは、経済産業省の新原浩朗氏(『特別買収目的会社「SPAC」 空箱上場の解禁、その期待とリスク』 2021/8/9 SankeiBiz)とされるが、周回遅れではないかと思う。
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