投資家の目線

投資家の目線113(先週の2題)

1. 日本経済新聞朝刊の法務インサイド
 8月6日の日本経済新聞朝刊の法務インサイドでは、いわゆる村上ファンドのインサイダー取引事件判決が特集されていた。

基準か原則か
 昨年7月、日本航空は巨額の公募増資を行った。2006年5月10日、1,500億円規模の第三者割当増資実施報道に対し、次期社長に内定していた西松専務(当時)は「全然考えていない」と否定した(毎日新聞2006年5月10日夕刊)。しかし、その年の株主総会の直後に巨額の公募増資が発表された。この件で第三者割当増資か公募増資かという観点で見れば、西松氏の発言は正しいといえる。しかし、第三者割当か公募かに関わらず、巨額増資を行ったことに焦点を当てれば、増資の可能性はゼロでなかったのに否定の発言をしたのは虚偽説明をしたようにもとれる。
 個人株主が求めた日本航空の増資差し止め申請は却下された。裁判官に裁量権を与えたところで必ずしも株主利益が守られるわけではない。未だに、日本航空の株価は増資発表前の価格を上回っていない。また、株式市場は公衆に広く開かれている。一部の人間の価値観に基づいた裁定が行われるより、明確な基準が決められている方がよほどすっきりする。

M&A業務への影響は
 ゴールドマン・サックス証券のM&A統括責任者は、この判決がM&A助言業務への影響は少ないという。当該証券会社が株を売買することがないためだそうだ。しかし、ニッポン放送事件で鹿内氏保有株に対して見られた、信託受益権を介して売買するような取引はやりにくくなるのではないだろうか?そして、資本政策に関してはフジ・サンケイグループのような怨念話がつきまとうのは珍しいことではない。

2.ブルドッグソースの買収防衛策
 8月7日のブルドッグソースのニュースリリースによると、買収防衛策による新株予約権消却損及び公開買付け関連費用の合計額が28億円に達するとのことである。新株予約権の消却損が約21億円なので、弁護士費用や証券会社への財務アドバイザー報酬等の公開買付け関連費用は約7億円ということになる。それらの金額が税法上どれだけ損金参入できるか否かでも影響が異なるが、同社の発行済み株式数(自己株式、新株予約権分を除く)は約1,870万株だったので、公開買付け関連費用と同額で一株当たり37円(=7億円÷1,870万株)の増配が可能だったと計算できる。そして、公開買付け関連費用に現金を使うのに比べて、増配はすべての株主に平等に利益になる。経営陣がそのような合理的な決定を行えば、スティール・パートナーズのようなアクティビスト・ファンドから責められることもないだろうに。
 結局この件でおいしい思いをしたのは、リスクをとって投資したスティール・パートナーズではなく、ブルドッグソース側の弁護士事務所と財務アドバイザーとなった証券会社ではないのか…?

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