投資家の目線

投資家の目線812(社債保有者のユニゾHDへの質問状)

 旧日本興業銀行系の不動産会社で、昨年6月にEBOで非公開化したユニゾホールディングス(ユニゾHD)の社債保有者が同社に質問状を提出した。「米ファンドに資金を優先に返済し、財務が悪化していると主張している。」(『ユニゾ 財務で質問状 香港ファンド 「優先返済で悪化」』 2021/2/11 日本経済新聞朝刊)という。昨年11月には、同社の社債について債務不履行懸念で社債価格が急落していると報じられた(「ユニゾ債、投資家保護置き去り 不履行懸念で6割安」  2020/11/26 日本経済新聞WEB版)。株式会社日本格付研究所は同社の長期発行体格付けを昨年9月10日に「BBB+/ネガティブ」から「BBB/ネガティブ」、12月21日に「BBB-/ネガティブ」、28日には投機的等級の「BB+/ネガティブ」と急速に引き下げており(株式会社日本格付研究所HP)、同社の信用リスクは増大している。社債には配当制限条項や担保提供制限条項など、財務上の特約がつけられることが多いが、ユニゾHDの社債はどうなっているのであろうか?ユニゾHD側は、「当社は債務超過ではない」(『ユニゾ 財務で質問状 香港ファンド 「優先返済で悪化」」)とも述べている。コーポレートガバナンスは、残余財産分配請求権をもつ株主の立場から語られることが多いが、社債保有者からの質問状は、社債権者によるコーポレートガバナンスと言えないだろうか?

 ユニゾHDの第44期半期報告書で連結貸借対照表を見ると、現金及び預金が2020年3月末の1635億円から9月末には550億円に1085億円減少している。連結キャッシュ・フロー計算書を見ると、キャッシュアウトフローの金額が大きいのは、貸付けによる支出2571億円、長期借入金の返済542億円(短期借入金は37億円の純減)、配当金支払い531億円があげられる。貸付金の回収額が411億円、有形固定資産取得額40億円に対して有形固定資産売却額が406億円と、現預金に有形固定資産売却額を加えて得た資金を、貸付けや長期借入金返済、配当支払いに回しているイメージだ。非公開化の際、ユニゾ従業員と米投資ファンドのローンスターがチトセア投資を共同で設立し、「ローンスターから約2000億円を調達してユニゾHDの全株式を取得した。」(『ユニゾ 財務で質問状 香港ファンド 「優先返済で悪化」』)という。ユニゾHDの買収総額は2050億円とのことなので(「ユニゾHD争奪戦、従業員側のEBO成立で幕-総額2050億円」 2020/4/3 Bloomberg)、チトセアは数カ月で資金の約4分の1を回収したことになる。昨年、傘下のユニゾホテルが大量閉館したり(「ユニゾホテル、2020年12月までに半数を閉館-旧・興銀系大手ホテル、都内から完全撤退 2020/10/19 都市商業研究所)、かつては山一證券の本社もあった東京駅前のユニゾ八重洲ビルを売却したりした。新型コロナウイルス感染拡大によるホテル需要の減少もあるのだろうが、ユニゾHDの資金需要の影響が大きかったのではないだろうか?EBOと言いながら、今回の非公開化は従業員のためになっていない。

 「ユニゾのメインバンクは、もともとみずほ銀行だった。同社は旧日本興業銀行系の常和不動産を母体とし、当時から社長や役員を受け入れていたほか、主要株主にもみずほの親密先が名を連ねていた。しかし、複数のみずほ銀関係者によると、2019年12月末時点で463億円と残高が一番多かったみずほ銀の融資は、昨年7月にゼロとなった。みずほ幹部によると、ユニゾからの返済の申し出で完済された。」(「ユニゾに融資する6割が地銀、65行の損失リスク握る借り換えの行方」 2021/2/10 Bloomberg)。2020年6月下旬の定時株主総会で退任した小崎哲資代表取締役社長(当時)は日本興業銀行出身である。借入金の返済は主にメインバンクだったみずほ銀行分だったのではないだろうか?一方、「地銀の融資総額は約1124億円で、県信連は約317億円となっている。この二業態で、ユニゾの借り入れの7割以上を占める。」(「ユニゾに融資する6割が地銀、65行の損失リスク握る借り換えの行方」)と、融資先のユニゾHDに対する情報がメインバンクに比べて劣位にある非メインの銀行の融資が取り残されている。(追記:バブル崩壊後の不良債権の増加が懸念された時代には、非メインが融資に消極的になり、メインバンクの融資比率が上昇する「メイン寄せ」と呼ばれる現象が起こったが、今回のケースはその逆のようだ。

 思い出されるのが、2018年に山形の百貨店「大沼」への出資金が出資した事業再生ファンドのMTMに還流したのではないかと問題視された事件である(当時の早瀬社長はその疑惑を否定している(『山形の老舗百貨店「大沼」の再建が暗礁 再生ファンドのトラブルで支援遅れ』 2019/2/20 東京商工リサーチ))。その後、「大沼」はEBOで投資ファンドから株式を取得し、経営者が交代したが、2020年1月に自己破産を申請した。

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