投資家の目線

投資家の目線714(MMTと藩札)

 最近、MMT(Modern Monetary Theory、現代金融理論)という言葉を目にするようになった。『焦点:財政拡大理論「MMT」、理想の地は日本か』(2019年3月8日 ロイター)によれば、「独自の通貨を持つ国の政府は、通貨を限度なく発行できるため、デフォルト(債務不履行)に陥ることはなく、政府債務残高がどれだけ増加しても問題はない、という考えだ」という。

 幕府の規制はあったが、かつて藩札という地方政府が発行する独自通貨があった。そして、それは藩の負債でもある。以前、山川出版社から出版されている47都道府県の「県史」に記載されている藩札のことを書いたが、長州藩(「山口県の歴史」小川国治編 P168)、福岡藩(「福岡県の歴史」川添昭二、武末純一、岡藤良敬、西谷正浩、梶原良則、折田悦郎 P250)、熊本藩(「熊本県の歴史」松本寿三郎、板楠和子、工藤敬一、猪飼隆明 P238、P246)などで困窮する家臣や領民救済目的や飢饉への対応で発行した藩札は、すぐに価値が減少したり、信用力がなく発行停止になったりした。政府負債残高の増加が貨幣価値を失わせたことになる。一方、藩札の成功例は、江戸で人気のあった木綿の生産高に応じて発行され、江戸での木綿の専売で正金銀が獲得できた姫路藩(「兵庫県の歴史」今井修平、小林基伸、鈴木正幸、野田泰三、福島好和、三浦俊明、元木泰雄 P245、P247、P248)である。貨幣価値を維持するには、財政の裏付けが必要ではないか?

 また、加賀藩では銀札発行の噂が立っただけで正銀のため込みが起きたという(「石川県の歴史」高澤裕一、河村好光、東四柳史朗、本康宏史、橋本哲哉 P212、P232、P236、P245)。このことから、信用力のない通貨は人民に好まれず、他の信用力のある通貨を持とうとすることがわかる。トランプ政権の貿易政策で日本の対米貿易黒字は減少するだろう。日本は今後も債権国であり続けられるのだろうか?1998年の外為法改正で、日本国内で外貨でも買い物ができるようになった。「ドル街」を標榜する横須賀市ではUSドル札が使用できる店舗もある。資源や食料が自給でき基軸通貨をもつ米国ならばともかく、資源や食料の輸入が必要で基軸通貨も持たない日本ではUSドルなど外貨での取引が主流となり、円通貨が通用しなくなるかもしれない。日本でMMTは通用しないように思う。

追記:1980年代、累積債務危機に陥ったブラジル、アルゼンチンなどでハイパーインフレが起こっている。
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