まだカラーテレビが無かったか、もしくは普及していなかった頃。
テレビでは、今では考えられないようなCMが流れてた。
その中の1つに、たった5秒くらいで終わってしまうCMがあった。
そういうCMはいくつかあったと思うのだが、その中の1つは今もおぼろげに覚えている。
それは「吉田のボール盤」のCMだった。
動画もなければ、BGMも無い。
ボール盤という機械の写真が1点画面に映っているだけ。
で、その写真に、例えばズームアップなどのカメラワークを使うわけでもない。
単なる「止め」映像・・というか写真だ。
で、その静止してる写真(当たり前か)をバックに、たった一言だけのナレーションが入る。
そう、たった一言だけ。しかも、けっしてゆっくりした口調ではない。
ナレーションは、こうだ。
「人手不足を解消する、吉田のボール盤!」
と、これだけ。
BGMがない、静止画面1点だけの画像、そして上記のたった一言だけの台詞。
味も素っ気もないCMだった。飾りっけの全く無いCMだった。
選挙演説で名前を連呼する光景に出会ったりすることがあるが、ちょっとそれにも似て。
考えてみれば、これほど安上がりなCMはないだろう。
時間内におさめるために早口のようにも聞こえた。
だから、いきなり画面上に現れ、アッという間に通り過ぎるCMだった。
そのあまりの素っ気なさゆえに、今も覚えている。
今なら、こういうCMはちょっと考えられないだろう。
安く作った見本のようなCMだった。
でも、当時は「吉田のボール盤」以外にも、こういう「味も素っ気も無い、数秒で終わる安あがりなCM」はあったはずで、テレビが今のような普及率ではなかったからありえたCMなのかもしれない。
試しに「吉田のボール盤」で検索してみると、この機械は中々名機であったようだ。
ボール盤っていうのは、穴加工をするための工作機械。
主に、町の工場などで使われてた機械であろう。
大型機なので、家庭の中にある機械ではなかっただろう。
ボール盤という名前の響きから、つい「野球盤」みたいなゲームを想像する人もいるかもしれないが、もちろん「野球盤」とは全く違うシロモノ。
日本が高度経済成長を続けた時代を支えた機械の1つであっただろう。
工場は人手不足で、この機械を導入して作業効率をあげていたのだろう。
なんの工夫もない(←失礼)シンプルすぎるCMは、高度経済成長に励んだ当時のなりふりかまわぬエネルギッシュな社会を象徴してるのかもしれない。
ある意味、ぶっきらぼうにも思えたCMだった。
でも、要点だけを伝え、しかも極めて安くCMを作る・・・と、ああいうCMになるのだろう。
そのCMに、気取りや芸術性のようなものは皆無。
ちょっと気取ったり、芸術性や面白みのあるCMを作ろうとすると、制作費がかさんでしまう。
そんなところにまで金をかけてられない・・・そんな姿勢が感じられた。
町の工場にいる不器用な頑固オヤジや職人が、なんの飾り気もなく作ったような、素人くさいCMだった。
でも。
今となっては、ぶっきらぼうで、素っ気なく、アッという間に終わってしまうCMだったゆえに、かえって印象に残っているから不思議だ。
まったく・・そういうCMを覚えてて、今こうしてブログのネタにする私も私だよねえ(笑)。
今、ああいうCMはない。
もし、またああいうCM作ったら、そのあまりの「ある意味のえげつなさ」や「素っ気なさ」「事務的すぎる感じ」ゆえに、かえって印象に残るCMになるかもしれない。今も。
ただ、今なら、お笑い芸人などから、カルトなギャグにされるかもしれないけど(笑)。
愛想が無く、不器用なCM。
そういうCMが許されてたあの当時は、きっとテレビもCMも若かったんだね。
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