楳図先生の恐怖漫画はよく少女漫画雑誌に連載されていた。
少女マンガをほとんど読まなかった私だが、楳図かずお先生の恐怖マンガは別格だった。
本屋でよく立ち読みしては本屋のおじちゃんに煙たがられていたものだ。
楳図作品は大好きで、いくつもの作品を持っている。
印象的な作品は数多くある。
今回とりあげたいのは「肉面」だ。
この作品が掲載されたのが小女漫画雑誌だったか、少年漫画雑誌だったかは定かではない。
少年漫画雑誌だったような気はする。
これを最初に読んだのはいつだったろう。さだかではない。
だが、作品の中に出て来る1コマが、少年だんぞうを震え上がらせるには十分だった。
その1コマのせいで、この作品は深く私の心の中に刻みこまれたのだ。
時は戦国時代。
ある国に、面に異常なほどの関心をしめす殿様がいた。
この殿様、凶暴で怒りっぽいうえに、民のことなど何も考えないバカ殿だった。
たくさんの面をコレクションしているのだが、どうも彼の気に入る面がない。
あるとき、町に面作りの名人がいることを知った。その名人は老人だった。
さっそくその老人のところに行き、自分が満足する面を作れと命じる。
だが、この面職人は、(殿のような)心の汚れた人に渡すような面は作れないという。
怒った殿様は、その場で、その面職人を殺してしまう。
時は流れ、殺された面職人の息子が成長し、いつしか父に勝るとも劣らない面職人になった。
彼は、いつも顔に笑みを浮かべていたが、心は誰にも開いてなかった。
何かを絶えず考えているようだった。
その何か・・とは・・自分の父を殺した殿様への・・・復讐だった。
大人になったある日。
この若者は、なんと!
自分の顔の皮を刃物でバリバリと剥いで、城に持って行った。
で、剥いだ自分の顔の皮を「面」として、殿様に献上したのだ。
皮を剥いだ顔は、ミイラ男みたいに包帯(布?)で隠して。
自分がもらった面が、まさか本物の顔の皮であることなど知らない殿様は、この「面」を見て大喜び。
「これは・・生きている!」と感嘆し、自分の部屋に飾って、年中この面を見つめている。
だが、この面は、ただの面ではない。そこには、若者の憎しみが込められていた。
この面を部屋に飾ってからというもの、殿様の体調がおかしくなりはじめる。
周りの者は、この面を遠ざけるけるように進言するのだが、周りの者の言う事に耳をかすような殿様ではない。
あくまでも、この面を飾ったままにして、「いくら見ても飽きない」と感じ、鑑賞し続けた。
でも、体調は悪くなる一方。
ある日。
いよいよ体調は悪くなってきた頃、この面はクワッ!と大きく口を開け。
殿様に向かっていったのだ!
つくづく、人間の恨みや執念は恐ろしい。
それが尋常ならざる事態を引き起こすことがある。
・・ともあれ、こんな感じで物語は展開してゆく。
この流れの中で、私が恐怖した1コマとは・・・殿様に自らの顔の皮膚でできた面を渡した若い面職人が、怪しまれて取り押さえられて、顔を隠していた布を剥ぎ取られた瞬間だった。
アップになったその顔は、皮膚がない、肉がむき出しになった顔であった。
目が異様にギョロッとし、歯が奥の方まで見え・・・。
このコマこそ、この作品の「恐怖の1コマ」だった。恐怖の表情であり、気持ち悪い顔だった。
この顔が幼心に深く焼き付いてしまった。
この顔を思い出すと、夜はトイレに行くのが怖かった。
暗がりの中で、あの顔が現れたら・・・と思うと・・。
この話は読み切りだったので、最初にこれを読んで以来、この作品を目にする事はなかった。何十年後かに、この読み切り漫画が復刻されるまでは。
なまじ、その後お目にかかることがなかっただけに、幼い頃に心に焼き付いた「肉面」の1コマは、自分の中でその怖さや気持ち悪さが膨らんでいった。
で、思い出しては恐怖する・・・そんな感じだった。
やがて、時は過ぎ。
数十年後に楳図先生の短編集が刊行された時、その中の一冊にこの「肉面」が収録されていた。
大人になって読んだ「肉面」は・・・最初に読んだ頃ほどではなかったが、あの問題の1コマは、やはり十分にインパクト大だった。
皮を剥がれる時の痛み・・というものを考えると、空恐ろしいものがある。
楳図先生の恐怖漫画は「痛い」漫画である・・と、よく言われるが、それはこの「肉面」にも見事にあてはまる。
怖いし気持ち悪いし、痛い。だから誰にでもお勧めできるような作品ではないが、楳図先生の恐い漫画が好きな方は、読んでみてもいいと思う。
「肉面」。それは小品ではあるが、隠れた傑作だと思う。
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