大学の学園祭では、各サークルやクラブが校庭内で露店を出したりするものだ。
私が大学時代に所属していたサークルも、例にもれず、学園祭では露店を出した。
私は当時、学園祭には、自身の所属するサークルとは別に、学園祭実行委員の1人としても参加していた。
当時、各サークルから一定の部員を学園祭実行委員会に出して、学園祭実行委員会を運営していた。私はサークルから学園祭実行委員会に派遣(?)されていたというわけだ。
実行委員会は、各サークルとは別に、委員会名義での企画を学園祭に出していた。
例えば露店がそうだった。
そのため、私は前述の通り、学園祭には、自身のサークルのメンバーとして、そして実行委員会のメンバーの一人として、両方の立場で参加していた。
サークルが運営していた露店は、サークルのメンバーに任せ、私は実行委員会の出した露店の一つを担当した。
私が担当した露店は「宝釣り」であった。
多数の景品が紐で網棚みたいな台から吊るされ、その紐の端は束ねられ、客は多数の紐の端のどれかを1回分のお金を払って引っ張って、紐に吊るされている宝(景品)を釣り上げる。
どの紐に、どの宝がつながっているかは分からないので、どの宝が釣れるかは、紐の端を引っ張ってからのお楽しみ・・というわけだ。運次第だ。
景品の中には外れが多いが、当然外れだけでは売れないので、景品の中には目玉商品などもいくつかある。その時の目玉商品は、大きな箱のプラモデルだった。
開店前に、この「宝釣り」をセットする時、目玉商品はすぐに釣られてしまうと、その後の客足に影響しそうなので、目玉商品につながる紐はなるべく引きにくい場所に混ぜ込んだ。
学園祭は3日間くらい続く。あわよくば、目玉商品は、最終日まで残ってほしいと思った。
さて。
学園祭の初日。
私は露店に立ち、客が来るのを待った。
確か・・・ちょいとうろ覚えだが、学園祭が始まったのは・・・朝10時くらいだっただろうか。
開店してすぐに・・・5分後くらいに、おそらく地元の主婦であろう女性が、子供を連れてやってきた。
すかさず「どうですか、宝釣り。景品には大きなプラモデルもありますよ」と、客に声をかけた私。
すると、その主婦は私の客引き(?)に反応して、1回分のお金を私に払い、子供に「宝釣り」の紐を1回引かせることに。
「さあ、何が出るかな~。いいのが釣れるといいね」などと、相手に期待を持たせるセリフを言う私。
子供は何気に・・・無欲な感じで、適当に1本の紐を引っ張った。
すると!
ありゃ??
なんか変だぞ。妙だぞ。
おいらの目の錯覚だろうか、一番の目玉商品が引っ張られて上がってゆくような気がする・・。
まさか、そんな・・。おいおいウソだろ・・。
だってさ、まだ開店して5分くらいしかたってないんだぞ~。
あわよくば、この目玉商品で3日間客を釣ろうと思ってるんだぞ~。
そうだよな、目の錯覚だよね、そうに違いない。ありえない!(いや、ありえるのではあるが)
景品はけっこうたくさんあるんだぞ。
なにもよりによって、開店して最初のお客さんが1等賞を引き当てるなんてことは・・。
もしもこの時「ラッスンゴレライ」が流行っていたら(←もう、古いか・・)、
♪ちょっと待って ちょっと待って お坊ちゃん
とでも私はラップしたかもしれない(?)。
ともあれ・・
それは決して私の眼の錯覚ではなかった。
沢山ある景品の中から、開店して5分後の最初のお客さんによって、上に引っ張られてゆくのは・・・一番の目玉商品の大きなプラモそのものではないか!
な、なんてこった・・。トホホ・・。
まだ朝なのに、暮れなずむ私。
この先3日間、どうしよう。
客の目を引くための一等賞が・・あっという間になくなってしまった。店を始めて、ものの5分で。
あっけにとられ、呆然として、放心状態の私。
となりにいた、もう一人の「店番」の女の子も、何が起こったか一瞬理解できず、唖然、絶句。
その子供の母親は、笑いながらも私らの顔色を察して、
「あら・・・ごめんなさいね」。
なんということであろう。
客に慰められてしまう、哀れな売り子、それが私らであった・・。みじめな気分だった・・。
運という奴に完敗した気分。
とはいえ、一応は商売の形をとっていたので、私は泣きたい気持ちをこらえて、「おめでとうございます」と言うしかなかった。
まさか、「まだ出だしなので、これはなかったことに・・」などと、言えるわけがない。たとえ言いたかったとしても。
隣では、もう一人の売り子の女の子は、必死に笑顔をつくってみせてた・・。とはいえ、その笑顔は固まっていたのは、言うまでもない。
もう一人の売り子にむかって、「あのさ・・もうこの店やめて、皆で飲みにいきたいよ、もう、ヤケだ・・」と言いたい気持ちを必死でこらえた私。
運商売って、つらいやねえ・・。
それにしても、開店して5分後に、最初の客としてきて、いきなり一等賞を引き当ててしまった、その坊やの強運たるや、恐るべし。
見たところ、その坊やは、あまりシステムを理解しないまま、よく考えずに、適当に紐を引っ張ってしまったようだった。
まさに、無欲の勝利とは、このことだった。
考えてみれば、その目玉商品で3日間持たそうとしていた邪念だらけの私は、子供の無欲な純真な心にはひとたまりもなかったということになる。
やはり汚れちゃダメだ(笑)。
無欲の純真さが最強なのかもしれない。
学園祭ってのは、やっている時も、後年思い出してみても、楽しいイベントだった。
皆さんも、学園祭には色々な記憶があるのではないだろうか。
私にも学園祭にはいくつもの思い出があるが、今回書いたことは、学園祭にまつわる「忘れられない出来事」の一つであるのは確かだ。
あの日、私は運に完敗した。
あの日、あの坊やは、運に乾杯したことだろう。きっと。
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