「来いッ!」
手下を呼ばわる香坂の声の残響が消えるよりも早く、十人以上の噛まれ者《ダンパイア》たちが重傷を負った仲間たちを取り囲む様にして姿を見せる。
その事実に背筋が寒くなるのを感じて、ネメアは小さなうめきを漏らした。新たに姿を現した噛まれ者《ダンパイア》の数は十六人――数が多すぎる。
もはや状況は絶望的だった――シンたち遊撃騎士は間に合わず、環は全体の統制に追われているため支援は出来ない . . . 本文を読む
「アサカ、大丈夫か?」
アサカは地面の上で体を折って咳き込みながら、口の端から血の滲む顔で微笑んだ。
「貴方とチークダンスでも踊れる様に見えるかしら? それならわたしも安心なんだけどね」
そう答えてから、再び咳込む――先ほどの打擲で肋骨を何本か骨折したのだろう。下手を打つと、骨が肺に突き刺さっているかもしれない――口蓋から咳と一緒に吐き出される血の量がかなり多い。
「落ち着け、体を横に向けるん . . . 本文を読む
さすがにこの至近距離からでは反応出来なかったのか、香坂は移動によって躱したりはしなかった――立て続けに撃ち込まれた銃弾を、両手を顔の前で交差して防いだらしい。
「く……くくく……」 老人が喉を鳴らす様な笑い声をあげて――次の瞬間には、その踵がアサカの下腹部を貫いていた。その場で体をくの字に折って激しく咳込んでいるアサカを見下ろして、老人がゆっくりと笑う。
「まったく、――これほどの遣い手が味方に . . . 本文を読む
老人の右手が閃く――黒華一閃、次の瞬間には突き出された黒い短鎗がこめかみのあたりを掠めて通り過ぎていった。
狙いが甘かったのか、その一撃は彼の肌には触れなかった――だが、視界の端をなにかがかすめて愕然とする。目の前を舞い落ちていったのは、銀色の針鉄を思わせる糸状の物体だった――風圧に煽られて空中で滅茶苦茶に踊りながら落下しているその銀糸が、徐々に金色の繊毛へと変化していく。
馬鹿な――あれは . . . 本文を読む
シンに師事して剣の技量を磨いてはいるものの、ネメアの技量はまだ吸血鬼《ダンパイア》を両腕もろとも胴体ずんばらり、というわけにはいかなかった――毒づいて魔術を構築するより早く飛んできた蹴りをまともに鳩尾に喰らい、後方に弾き飛ばされる。
吸血鬼化によって人間離れした脚力の蹴りを喰らって内臓破裂を起こさなかったのは、奇跡に近かった――『獣王の誇り』と呼ばれるその強靭極まり無い外皮は無敵の鎧ではあるが . . . 本文を読む
†
どん、と眼前の女の体が揺れた――寂れた地下駐車場に、逃れ得ぬ死と対峙した噛まれ者《ダンパイア》の絶叫が響き渡る。悲痛な叫び声を気にも留めずに、アルカードは銃剣で女の胴体を串刺しにしたままウォークライのトリガーを引いた。
耳を聾する轟音とともに、どてっ腹に風穴を開けられた女の体が消滅する。衣服だけを遺して消滅した女の塵を見送って、アルカードは少しだけ首をかしげた。
さて、この . . . 本文を読む