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「君は質問ばっかりだな――別に一から十まで全部答える義理も無いだろう」 フィオレンティーナの問いに、金髪の吸血鬼が適当に肩をすくめる。彼はそれ以上話をする気も無いのか、こちらに背を向けて歩き出した。
「待ちなさい――この街でなにをするつもりですか! 貴方が殺した吸血鬼やその上位個体がした様に、この街で吸血鬼や喰屍鬼《グール》を増やすつもりですか?」
その言葉に自動ドアの前で足を . . . 本文を読む
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屋上の駐車場に通じるエレベーターから降りると、右手にはエレベーター、左手には風除室として機能する二重の自動ドア。正面には階段と、階段室に入るための開け放されて固定された鉄扉の横にコカ・コーラとアサヒの自販機が設置されている。そちらには特に用は無かったので、アルカードは自動ドアのほうに歩き出した。
ちょうど外からベビーカーを押した女性が近づいてきたので、足を止める――謝辞ととも . . . 本文を読む
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前に誰もいなかったので、エスカレーターを駆け昇る――男は特に周りを警戒した様子も無く、こちらに背を向けてぶらぶらと歩いていた。
人目を引くあでやかな金髪と、特徴のあるペイントの施されたジャケットのおかげで簡単に識別出来る。
どうやらそのフロアは家電品売り場らしく、男は電球が大量に陳列されたコーナーで足を止めた。
紙のスリーブに納められた棒状の蛍光燈の電球を手にとって、なに . . . 本文を読む
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アルカードがやってきた、というか帰ってきたのは、店の近くにあるアパートだった――近く、というかまあ裏手にあって、敷地自体は隣接している。
それなりに年季が入ってはいるものの、外観が真新しいのは外装のリフォームを終えたばかりだからだ。実を言えば彼女がこのアパートにあるアルカードの部屋に連れ込まれたのは、その改装の真っ最中だった。
アルカードが近づいていった部屋には、『管理人室 . . . 本文を読む
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実に平和そうな表情で生垣にホースで水を撒いているヤナギダを肩越しに振り返り、フィオレンティーナは小さくくすりと笑ってから宿舎のほうへと歩き出した。そろそろこの教会の生活にも慣れてきて、子供たちが毎朝学校へ出かけていく風景を見送る余裕も出てきている――もうすぐ連休だとかで、子供たちは妙に浮き足立っていた。
まあ、わたしも子供のころは、日曜日が楽しみで仕様が無かったですからね―― . . . 本文を読む
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「ほらよ」
軽く手を振る池上に、アルカードは小さくうなずいた。
曙ブレーキのメーカーロゴが印刷されたボール紙の箱がふたつ、手渡されたホームセンターのポリ袋の中に突っ込まれている――純正品ではなく鉄板《バックプレート》を再利用して摩擦材を貼り替えた再生《リビルト》品だ。
ずっしりと重い袋を受け取って、アルカードは一礼した。
「ありがとうございます――いくらですか?」
ポーチ . . . 本文を読む