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「まったくあの男は、相変わらず協調性の欠片も無いったらないですね」
ぶつくさと文句を言いながら、フィオレンティーナが手にした買い物籠に適当にお菓子を放り込む――どうやら渡された高額紙幣三枚を、単なる嫌がらせで使い尽くすつもりらしい。もっともリディアにしてみれば、それをアルカードが目にしたら籠の中身はフィオレンティーナが全部食べること、と言い出すオチが目に浮かぶ様ではあったが。
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なんで、あいつがここにいる……!?
戦慄が意識を焼くのを感じながら、彼は無意識のうちに後ずさっていた。
「ネメア?」 怪訝そうにこちらを呼んでくるリタには答えずに、彼は金髪の男が通り過ぎたあとの通路に飛び出した。本人はこちらを気に留めた様子も無く、先ほど自分を呼ばわったらしい少女たちと会話をしている。
試食の爪楊枝をごみ箱に投げ棄てて、金髪の男はなにを言われたのか顔を顰めながら黒髪の少女のほ . . . 本文を読む
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手招きするパオラのほうに歩いていくと、見覚えのあるパッケージの積まれた冷蔵陳列台が視界に入ってきた――見慣れているというわけではないが、昨年北海道に行ったときに、新千歳空港内のANAフェスタなどの総合土産物店で見かけたし、アンに頼まれて買って帰ったこともある。
スナッフルズのチーズオムレット、確かそんな商品名だったと思う。直径六センチくらいの丸いチーズケーキだ。
二十代の半 . . . 本文を読む
ひとしきり考えてから、パオラは話題を戻そうと試みた。
「それで?」 アルカードのほうとしてもあれのことでそれ以上話題を継続するつもりは無かったのか、思い出した様にぽムと柏手を打って、
「おお、そうだった――DMPの形した爆弾のことなんぞどうでもいいな。あれだ――日本でネットにつなごうとすると、やたら時間がかかるからな。なんだかんだで接続準備に一ヶ月くらいかかることもある。無駄に時間を喰うから、俺 . . . 本文を読む
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「ところで――」 ショッピングセンター屋上の駐車場で仕事用のワンボックスのエンジンを止め、アルカードは助手席にいるパオラに視線を向けた。
「君たちはなにを買いに来たんだ?」
その言葉に、それまで後部座席にいる蘭と話をしていたパオラがこちらを振り返る――ふたりの少女たちはこの数日で、なんの問題も無く仕事に馴染んでいた――覚えも悪くない。両親の長期出張のために普段は老夫婦の自宅で暮 . . . 本文を読む
体勢を作り直すよりも早く、アルカードが再び跳ねる様にしてグリゴラシュに襲いかかった――繰り出した右の正拳を押しのける様にして払い、その腕を滑らせる様にしてグリゴラシュが反撃の一撃を繰り出す。いくらかの回避はしたものの、躱し切れたわけではないのだろう、アルカードが小さくうめくのが聞こえた。
脳震盪でも起こしたのか、アルカードの足元が若干覚束無い――グリゴラシュのほうは顔に降ってきた膝からは逃れた . . . 本文を読む
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それじゃあ、と声をかけて、中村が妻子とともに歩き去る。
最後まで父親の陰に隠れたまま去っていく小雪を見送って、フィオレンティーナは溜め息をついた。そんなに怖いだろうか。
「さて、俺も用意するか。蘭ちゃん、凛ちゃんもおいで。出掛ける用意をするから、部屋で待ってて――」
アルカードが子供たちに声をかけたとき、不意に凛が手を伸ばしてフィオレンティーナのスカートの裾を掴んだ。
「お . . . 本文を読む