たぶん自分のパソコンでは問題無く再生出来るから、他人の機械でも大丈夫だと根拠無く考えるのだろう――誰しも自分の環境がものを考える基準になるものだからそれはわからなくもないが、もう少しなんとか出来ないか今度聞いてみよう。
室内の電気はパオラが出てくるときに消したので、窓がロックされていることだけ視線を向けて確認して、リディアは小さなテーブルの上に置きっぱなしにしていた真鍮色のキーを取り上げた。
. . . 本文を読む
秋斗の頭を軽く撫でてやってから、アルカードはリビングに残っていた美冬に声をかけた。美冬が着ないままソファに置いていたパーカーと自分のレザージャケットをまとめて持ち、美冬を玄関に連れ出して、空調のスイッチも切って電気も消す。
子供たちをそこで待たせて、アルカードは手早く靴を外履きのブーツに履き替えた。ぐしょ濡れになったブラック・ホークⅡの代わりに取り出した同じメーカーのサイドジップアップ・タイプ . . . 本文を読む
――ぎゃぁぁぁぁッ!
――アァァァァァッ!
――いやぁぁぁぁぁァッ!
頭の中に、再び無数の絶叫が響き渡る――今までどうやってしまい込んでいたのか知らないが、先ほどの掌打を繰り出すまでの間に手放していた不可視の得物を再び取り出したらしい。
棚の上でまだ死にきれずに叫び声をあげている女を見下ろして、アルカードが右手に保持した不可視の得物を胸元めがけて突き込んだ。ずぐ、という音とともに胸を貫か . . . 本文を読む
――ギャァァァァァッ!
――アァァァァァッ!
――ひぃぃぃぃぃッ!
いきなり凄まじい絶叫が響いて、香澄はあわてて耳を押さえた――だが、その絶叫は少しも遠くなる様子が無い。まるで鼓膜が震えて音を認識しているのではなく、頭の中にじかに叫び声が聞こえてきているかの様に――
「さて――」 どうも肉眼では見えないが、彼は棒状の武器を手にしているらしい。彼は手にした得物を無造作に下げる様にして身構えた . . . 本文を読む
「――ッ!」 人間のものかどうかも疑わしい様な凄まじい絶叫とともに、別な男がアルカードに向かって飛びかかる。上半身にはよれよれのTシャツを着ているものの、さっきまで別な女を相手に励んでいたために下半身はなにも穿いていない。
「……小汚ねぇもん丸出しでかかってくるんじゃねぇよ」 つまらなそうにそう毒づいて、アルカードは羽織った外套の下に左手を突っ込んで黒光りする自動拳銃を抜き放った。
一動作で据銃 . . . 本文を読む
*
「――これでよし」 子供たちふたりにちゃんと乾いた服を着せてやり、見端がきちんと整ったところで、アルカードは満足して腰に右手を当てた。
これが晴れの日なら犬と一緒に公園にでも連れ出してやるところなのだが、相も変わらず土砂降りの状況ではそうもいかない――梅雨も明けてるってのに、この大雨はおかしかないかいゴッド?
まあ、颱風は相変わらず絶賛来襲中だがな――
胸中でだけぼやきつつ . . . 本文を読む
*
「――恭輔っ!?」
あげた悲鳴が夫のところまで届いたかどうかは、わからない――無事だった石段が粉砕されて無数の砕片と細かな埃状になった石の粉が舞い上がり、猛烈な勢いで飛来した大量の石くれが光壁の表面に衝突して激光が視界を塗り潰した。
太陽を間近で見たかの様な激光に視界が白濁し、そしてそれが収まったときには触手が引き戻されつつあった――触手の打擲によって畝の様に陥没が生じた地面 . . . 本文を読む
*
秋斗が手にしたボールを頭上に翳し、そのまま放り投げた。てん、てんと二回ほど跳ねたボールが壁にぶつかるよりも早く、横合いから飛びついたソバがボールを抑え込む――そのままボールともつれあう様にして転がったソバに、ほかの仔犬たちが飛びついていった。
なんとなくラグビーのボールの奪い合いを連想しながら、アルカードはそれまで捏ねていた犬用クッキーの生地に少し水を足した。
コンビニで買 . . . 本文を読む
アルカードは冷蔵庫のドアを開けてポケットに視線を這わせ、片側のポケットに収まっていた原色Tシャツと庇にラブ&ピースのマークが入ったキャップを身につけ、両手に唐辛子を持った左目にヒトデ型の星、右目に土星の様な輪のある星が収まった髑髏がプリントされたラベルの貼られた、一本を除いて未開封の瓶四本に手を伸ばした。
ガスコンロは三ヶ所あり、十分な間隔があるので三ヶ所同時に調理出来る。空いた一ヶ所に鍋を設 . . . 本文を読む
*
金髪の青年の体がまるでやんちゃな子供が癇癪を起こして投げつけた人形の様に吹き飛び、薙ぎ倒された楠木に背中から叩きつけられた。蜘蛛にとどめを刺そうとした瞬間、激光とともにアルカードの体が吹き飛ばされたのだ。
立ち上がったアルカードの左膝はがくがくと震え、右腕が異様な方向に曲がっている。おそらく叩きつけられたときに衝撃で膝を痛め、右腕は折れたのだろう。
頭を切るか擦るかしたのか . . . 本文を読む
「うぐっ」 パオラが間髪を入れずに返したその言葉に、アルカードが小さくうめいて口をつぐむ。
「どんな歌なんですか」 フィオレンティーナの質問に、パオラは自分で歌いたくはないのかかぶりを振った。彼女はお皿の上にあとひと切れ残った自分の分のパウンドケーキをフォークでつつきながら、
「それはノーコメントで」
リディアがアルカードに視線を向けると、こちらもわざわざ歌う気は無いのか適当に視線をそらして黙り . . . 本文を読む
*
数本の触手が、様々な角度からアルカードに向かって襲いかかる――それらすべてを滑る様な動きで躱しながら、アルカードが蜘蛛の本体に向かって肉薄する。触手をいくら相手にしても埒が開かないと判断したのだろう。
すでに瓦礫と化した石畳を触手の尖端がえぐり、そのたびに地響きが伝わってくる。
――ギャァァァァァッ!
身の毛も彌立つ絶叫が、再び頭の中に直接響き渡る――疾走するアルカードが . . . 本文を読む
こないだかっぱなんとかさんのカウンターのブログパーツが追加されてたので、にぎやかし程度に試してみました。
が――ほんとにちゃんとカウントしてるのだろうか。
試用期間のアクセス解析は一日の訪問者数が八十とかなのに。
日曜くらいにアクセス解析追加して、累計が四十四人っておかしくね? . . . 本文を読む
金髪の吸血鬼は壁から体を離しつつ、
「さすがに目の前で三十人以上の吸血鬼を始末する光景を見られたあとじゃ、誤魔化し様が無かったんでな」
「あ、おかえり。お邪魔してるね」
「ああ」 アルカードはそう返事をして、手にしていたホームセンターのテープが貼られた小さなパッケージをダイニングテーブルの上に放り出した。パッケージに印刷されたカラフルな文字は『キット』しか読めなかったが。
「おかえりなさい。傘、 . . . 本文を読む
ソファに腰を降ろした香澄の膝に、秋斗が飛びついていく。彼女は膝の上に腰掛けた秋斗の頭を優しく撫でてやりながら、
「どれくらいで帰ってくるの?」
「わかりません。本人は十五分くらいで終わるって言ってましたから、そんなにかからないと思いますけど」 フィオレンティーナがそう答えると、香澄はそう、と小さくうなずいた。
「なあに?」 視界の端でリディアがかがみこむ――テレビ台の下の映像ディスクの中から発掘 . . . 本文を読む