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「ええと、たぶんあれね」 『大雑把にでも町の地理を頭に入れておくと便利だろう』ということで昨夜フィオレンティーナが用意してくれた簡素な地図を手に、パオラが声をあげる。
「昨日寄ったときは暗くてよくわからなかったけど、あんな感じなのね」
東側の路側にだけ歩道のある直線道路で、東側はずっと白漆喰を塗られた壁になっている。日本の紹介番組で見た日本家屋の壁にそっくりだ――きっと向こう側 . . . 本文を読む
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「そうか。ならまあ、この話は終わりだな――とりあえずは、そろそろお嬢さんを仕事に戻してやってくれ」
アルカードがそう言うと、フィオレンティーナは壁に掛けられた時計に視線を向け、あわててホールに出て行った。
アルカードもそれで話は終わりということなのか、裏口に向かって歩いていく。
とくに今日はもう用は無いはずなので、パオラとリディアも与えられた制服の箱をかかえたまま彼について . . . 本文を読む
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アルカードと年老いた男性が、なにやら簡単な打ち合わせをしている――リディアには言語がなにかすら理解出来なかったが、つまり彼らは母国語で会話しているのだろう。老夫婦はルーマニア人だし、アルカードは生身の人間だったころにドラキュラ公爵と因縁がある以上、ドラキュラ公爵の出身地であるルーマニア南部、ワラキア地方の出身に違い無い――つまりルーマニア語のネイティブスピーカーだ。
リディア . . . 本文を読む
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寝間着だけを残して消滅してゆくプリシラを背後から撃ったその男は、構えていた銃を下ろすとこちらに向かってゆっくりと歩き出した。
銃を手にした男が一歩踏み出すたびに、まるで壁際に飾ってある中世の甲冑を着て歩いているかの様な金属のこすれ合う音が聞こえてくる。いまだ銃口から煙をあげる自動拳銃を手に、男が左手を懐に差し入れてもう一挺の自動拳銃を引き抜いた。
映画でやっているみたいに上 . . . 本文を読む
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なにが起こっているのか、わからない――フィオレンティーナにわかったのは、そこかしこで悲鳴が聞こえているということだけだ。
わけもわからぬまま母親に手を引かれて廊下を走りながら、フィオレンティーナは次々と聞こえてくる見知った人々の叫び声に戦慄していた。
いったいなにが起こっているのか、わからない――八歳の誕生日を迎えた夜、友達を招待してパーティを開いた。いつもは広告業の仕事で . . . 本文を読む