Wizardryの記事を書いたので。ひっさびさにWizardry Vを起動して楽しんではいるのですが。
ところで、割に長い間、WizardryがコンピュータRPGの元祖、とか勘違いされてきていた、ってのを知ってるだろうか?
人によってはUNIXで動いてたRogue(トルネコの大冒険の元ネタ)がRPGの祖だ、とか言ってたりするんですが。
実はここ10年くらいの間で、その辺はウソ、良く言って勘違いだ、って事が知られて常識化してきている。
世の中にはAppleマニア、と呼ばれるような人たちがいて。ホビーパソコンとして誕生したApple IIを神格化して、CRPGなんかはApple IIではじまった文化だと信じ込んでたりする。実は違うのだ。
初めてのオールインワンパソコン、Apple IIが開拓した分野、ってのは実はそんなに多くない。むしろApple IIで行われてたのは基本的には単なる移植であって、一つにはアーケードゲームの移植があり、もう一つはアメリカの大学で使われていたメインフレームの文化を「移植」するにとどまっていた、ってのが本当のトコロ。
実はCRPGのルーツというのはメインフレーム下の文化だった。
そのメインフレームも、唯一無二、と思われるシステム上での話で、日本では全然使われてなかったようなんで知らん人が多い。そのシステムをPLATOと言う。
PLATOは1960年代にアメリカで開発された教育用のメインフレームのシステムであり、当時としては優れたグラフィック能力を備えていた。1960年代に登場したクセに1024x1024のグラフィカルディスプレイを端末表示機として備えてたシステムである。この解像度が当時どれくらい凄かったのか、ってのは想像に難くないだろう(民生機で1024と言う数値が登場したのは1990年代に入ってから、だった)。
この脅威の性能、なんつーのは後発のUNIXみたいなショボいシステムを遥かに凌駕してた。で、当時の学生の物好きは当然このメインフレームの能力に惚れ込み、ゲームをプログラムしだすわけだな。
このシステムで使われてたスクリプト言語をTUTORと言う。詳細は知らないが(ある意味、消えた言語だし)、多分おっそろしくプログラミングしやすい言語だったのではないか。と言うのも、メインフレームである以上、管理者がいる。学生がゲームを作ってそのままそこに残してると「何やってんだ」と言うわけで消すわけだが、また似たようなゲームが上がる、と。要するに管理者と作成者のいたちごっこが起こるわけだ。
当然なんだけど、ゲームを消すのとゲームを作るのを比べると作る方が時間がかかるわけ。当たり前だよな。でも消しても消してもゲームが生えてくる(笑)、ってトコを見ると、このTUTORと言う言語、よっぽどゲームが作りやすい言語だったんだろう。こんな「促成栽培」が出来るスクリプト言語とか、現代でも存在せんだろう。恐るべきプログラミング言語である。是非とも復活して欲しいくらいだ(笑)。
D&Dが登場したのが1974年なんだけど、翌1975年には既にD&Dのエッセンスを活かしたビデオゲームがPLATO上に登場する。学生ハッカー達はD&Dのプレイヤーを兼ねていて、何とかそのシステムをコンピュータ上で動かそうと試行錯誤しだすわけだな。実はその辺がCRPGのルーツなのだ。
しかも恐ろしい事に、PLATOはネットワークシステムであった。学生はログインしてPLATOを使うわけだが、そこで、1学生が1プレイヤーになるようなCRPGを開発している。そう、実はCRPGの原初のシステムはなんとオンラインRPGだったのだ。ビックリだろ?1970年代に既に、今で言うMMORPGの原型がプログラミングされてて、PLATO上で稼働してたのだ。
そして1977年にPLATO上でOublietteと呼ばれるRPGが実装される。これが現代で言うCRPGのほぼルーツ、と言って間違いない。
ちなみに、Oublietteとはフランス語でダンジョン、の事である。当時のメインフレーム上で実装されたゲームで、実は「ダンジョン」と名付けられたゲームは異様に多かった。初期のテキストベースのアドベンチャーゲームもダンジョン、とか名付けられてて、あっちもこっちもダンジョン塗れだったのだ(笑)。もちろん、メインフレームだとフリーゲームの世界なので、商標なんざ無いわけだが、さすがにまた「ダンジョン」と名付けるのもアレだったんだろう。だからフランス語にしてみました、って程度だったと思う(笑)。いい加減なんだが、当時はそういうカンジだったのだ。
さて、このOubliette、何故に現代で言うCRPGのほぼルーツ、と言えるのだろうか。実はPLATO上のこのゲームのテストプレイヤーの一人に、後にWizardryをプログラムするロバート・ウッドヘッドがいるのである。そして、この時期に彼がいた大学でPLATOの管理者として学内バイトしてたのが、やはりWizardryの作者の一人であるアンドリュー・グリーンバーグだったのだ。この二人はTRPGマニアでもあり、このOublietteに魅せられたわけだな。
同年、世界初のオールインワンパソコン、Apple IIがデビューする。ロバート・ウッドヘッドとアンドリュー・グリーンバーグの二人はそれぞれ、Oublietteみたいなゲームをパソコン上で遊べないか、試行錯誤をはじめる事となる。ロバート・ウッドヘッドはPascalを用い、アンドリュー・グリーンバーグはBASICを用い、それぞれ「Oublietteに触発された」ゲームを開発する。互いにそれを見せあったあと、「じゃあ、一緒に開発しようや」と作ったゲームが初代Wizardryになる、ってワケだ。
要するに初代Wizardryはある意味このOublietteのダウングレードバージョンなのである。オンラインでプレイする前提だったOublietteをパソコンで、一人でプレイ出来るようにした、と言うのが実は初代Wizardryのコンセプトであり、それが後にドラゴンクエストに影響を与える事になったのだ。そういう意味で、Oublietteは、少なくとも後のJRPGの遠い祖先であるわけだ。
実はこのOubliette。現代でもプレイ可能である。
一つは、今でも動いてるPLATOサーバーがあって、そこにWindowsからアクセスしてプレイ可能ではある。詳しくはこちらのリンクから辿ってもらいたい。
もう一つはiPhone用ゲームとして復活している。
さて、Wizardryに影響を与えたこのゲーム。今までだと、WizardryはAD&Dの戦闘を簡易化してそこを集中してプレゼンしたゲーム、と言われてきた。
しかし、実態はむしろ、本当にOublietteをなるたけコピーした、って言った方が正しい。フリーソフトだったゲームを基にしたからこそのパクリであったのだ(笑)。しかし、同時に、メインフレームで可動してたゲームを性能的には比較するとショボいApple IIに移植する為に、やっぱ相当ダウングレードせなアカンかったのも事実である。
Oublietteでは何と、選べる種族は15種類にも及ぶ。
- 人間
- エルフ
- ドワーフ
- ハーフドワーフ
- ハーフエルフ
- ホビット
- オーク
- ウルク=ハイ
- オーガ
- ピクシー
- ゴブリン
- ホブゴブリン
- コボルド
- ウア=ヴァイル
- エルダーエルフ
もはやD&Dの種族数さえ超えている。トールキンの小説やらスティーブン・ドナルドソンと言うアメリカの作家のファンタジー小説辺りからも種族を持ってきているようだ(この辺、さすがに商用作品じゃないやり方だ)。種族数、と言う意味だと後年のWizardry Bane of the Cosmic Forgeで扱われてる種族数より多い。
そしてクラス(職業)も同じく15種類もある。
- 僧侶
- デモンディム
- 宮廷人
- 戦士
- 魔法使い
- 吟遊詩人
- 忍者
- 聖騎士
- 農民
- レンジャー
- レイバー
- 盗賊
- 賢者
- 侍
- ヴァルキリー
これ凄くない?70年代後半でこの職業の種類。すげぇ楽しいRPGなんだろうな、と想像出来る。っつーか農民って何するんだろ(笑)?
Wizardryはこれから上手く使えそうなヤツだけピックアップして持ってきたに過ぎない。そしてOublietteはこの時点で侍やら忍者がいたのだ。
さて、このOubliette。実は1983年に商用作品としてCommodore 64やIBM-PC向けにデビューする。・・・があまり人気は出なかったようだ。
実はそのゲームをプレイしてみたいんだが・・・まだ全然チャンスがねぇんだよなぁ。そのうち絶対やってはみたいんだが。
多分このゲームがPC版ではあまり評判にならなかったのは・・・・・Wizardryは「冒険の目的」を提示したんだけど、Oublietteは提示出来なかったのが弱かったのではないか。資料を見る限り、特にボスがいるわけでもないし、ホントキャラを強くしてダンジョン深く潜るのだけ、が目的のゲームのようなんだよな。
つまり、オンラインRPGとしては「プレイグラウンドを提供する」って設計方針は間違っちゃいないんだけど、一人プレイ用に改造した以上、それじゃあちょっと魅力がないんだよ。多分それもあって、模造品のWiz程人気が出なかった・・・と言うか、Wizはその辺、キチンと考えてた、って事なんだよな。
C64/PC版のOublietteは種族数は8種類に減っている。まぁ、それでもWizよりは多い。
- ドワーフ
- エルフ
- ノール
- ホビット
- 人間
- コボルド
- オーガ
- オーク
それでも、ファンタジーで敵役として出るノール、コボルド、オーガやオークなんかも選ぶ事が可能だ。
クラス(職業)は全10種類。
- 戦士
- 魔法使い
- 忍者
- 聖騎士
- 農民
- 僧侶
- レンジャー
- 賢者
- 侍
- 盗賊
こっちもだいぶ整理されてはいるが、それでもWizや下手するとドラクエIIIなんかより多くの職業が選べるし、当然種族との組み合わせも多くなっている。
OublietteがWizardryより優れてるトコロ、ってのはキャラクターメイキングに於いて、リロール機能がある辺りだろう。リロールとは「サイコロの振り直し」の事で、要するにキャラのステータスを乱数で決める際に何度もサイコロを振ることが出来る。Wizの場合、一々最初からやり直ししないといけない辺り非常にメンド臭い。
反面、Wizardryに比べるとインターフェースが洗練されてないトコも多い。Wizより2年も後に出たにも関わらず、だ。
例えば、キャラクターがやっぱり気に入らなくて、キャラを消去しようとしてもコマンドがない。つまり、分かってる範囲で言うと、一旦作ったキャラは消しようがないのだ。これはダメだろ、と思う。
あと、例えばキャラクターメイキング画面に入るとキャラクターを作り終えるまでその画面から出ようがないのだ。Escキーも効かないし、その辺設計がおかしいだろ、って思う。
原作は3Dダンジョンのゲームだったが、IBM-PC版は実は事実上2つプログラムが入ってる。原作通りの3Dダンジョン型と、もう一つは上から見た2Dダンジョン型のゲームだ。PLATO時代には2Dダンジョンなゲームも多かったので、多分それもあって入れたのだろう。
モンスターは表示されずに文字情報だけ、で闘う模様である。
まぁでも、見た目で言うとWizに比べると地味だよなぁ・・・・・・。
1983年ってこたぁCGAの時代だったわけだけど、こういう白黒のゲームで、いくら何でもユーザーが納得したのか、っつーと・・・まぁだからそんなに売れなかったんだろうねぇ。Commodore 64版も、カラーが使える筈なのに似たような見た目になってるし。
冒険の目的も特になく、単純にダンジョンに潜ってキャラを鍛えて強くするだけ、ってのも、オンラインRPGなら良くても一人用RPGとしては弱い。
結局、PC用ゲームとしてはWizardryはツボを押さえてたけど、残念ながらOublietteはそうじゃなかった、と言う事だ。だからあまり評判にならなかったのだろう。
とは言っても、絶対いつかプレイしたいゲームである事は間違いない。死ぬまで、にはね。