瓢簞舟の「ちょっと頭に浮かぶ」

こちらでは小説をhttps://kakuyomu.jp/works/16816700427846884378

読書メモ(川上弘美 その2)

2024-09-01 10:24:27 | 本の話
前回は小説内の台詞だけを取り上げたので内容紹介はしませんでした。今回もある台詞だけを取り上げるんですが、その台詞が発せられる舞台装置の説明はあったほうがいいかと思い、内容紹介をしておきます。

裏表紙の紹介文にはこうあります。
遠い未来、衰退の危機を認めた人類は、「母」のもと、それぞれの集団どうしを隔離する生活を選ぶ。異なる集団の人間が交雑することにより、新しい遺伝子を持ち、進化する可能性がある人間の誕生に賭けた。

と、まあ、これだけ読むと小難しいSFのようでもありますが、SFというよりファンタジーというかお伽噺というか、裏表紙には「新しい神話」と銘打ってますが、なんとも寓話的な連作短編集です。
この設定を踏まえておいていただいて。
登場人物が言います。

もう生きないで、いい。母たちは決めたの。人間は、変われない。いつか変わる可能性があるかもしれないと、母たちはずっと期待していたのだけれど、だめだったのね、結局。

ここで「母たち」と言われているのは人工知能です。人工知能が衰退に向かっている人類を管理、というか見守っているんですね。で、結局人間は変われなかったからもう生きないでいい、と。衰退するにまかせ、絶滅を待とう、というわけです。
小説内で語られるように、おそらく人間は変われないでしょうね。変われるとしたら、まず肉体的変容、変化、つまり進化ですね、それがないとどうしようもないと思います。この肉体のまま、正確にはこの脳構造のままでは人間は変われない。精神と肉体はつながっているので肉体構造が変わらないと精神構造も変わらない。ま、当然、逆も言えるわけですがどちらかといえば肉体が精神より優位にあるように思われます。なので精神は肉体に支配される。人類の変革、革新という言い方をするなら、まず肉体的な変革があってのちの精神的革新だと思います。

小説では遺伝子操作もしたりしてますから、肉体的な変容があり人類の進化も描かれてるんですよ、実は。人類の衰退を食い止める変化は起きている。
にもかかわらず、「人間は変われない」と人工知能が判断するに到るわけです。

もしかすると、このままゆけば、飛躍的な変異が起こりうるかもしれないと、わたしはほんのわずかばかり、期待しました。
けれど、皮肉なものですね。あなたたちが変化しはじめると、不思議と必ず、あなたたちの内部から、その変化を食い止めるような矯正力が働きます。そして、結局はあなたたち自身であなたたちを破壊してしまうのです。

と「母」つまり人工知能は語ります。
本当にそう。人間は変化を嫌いますね。変化を嫌うというより、自分とは異質な存在を嫌うと言ったほうがいいでしょうか。変化、つまり自分たちとは違う連中が現れた、という状況になると自分たちとは違う連中を潰しにかかる。臆病なんでしょうか。攻撃して叩き潰しますね。


ちょいと長くなってきました。
話はもう少しつづきますが、今回はこのへんで。

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