”私たちの脳は、目の前に広がる“現実”は確かなものであると強く信じています。
つじつまの合わないことが起きると、「気のせい」や「思い違いのせい」にして、つじつまが合うように強引に解釈します。”
（「もう1つの現実を体験する「代替現実システム」を開発」/ 独立行政法人 理化学研究所 HPより）
"夢の中のように、あり得ないことを”現実”のように受け止めてしまう体験" というとちょっと大げさかもしれませんが、
今回、こちらの展覧会で「写真」を通じてそんな体験をしました。
鈴木崇展「Form-Philia」＠IMA CONCEPT STORE（六本木）
六本木にあるギャラリー兼ブックストア兼カフェの、”IMA CONCEPT STORE”で開催されている鈴木崇さんの写真展です。
今回の写真展で展示されているのは、3つのシリーズ。
（※リンク先は鈴木崇さんのサイト。多くの作品を拝見することができます。）
- 様々な形のスポンジを組み合わせて様々な形を実施創り出す「BAU」シリーズ、
- 物体の「影」だけを切り取って引き伸ばした「ARCA」シリーズ、
- そして、建物を被写体として撮影された新作のシリーズ。
この中で特に面白かったのが、建物を被写体とした新作のシリーズでした。
(写真集「ARCA」/鈴木崇 IMA ONLINE-PHOTOBOOKS ページより。）
どこかで見たことがあるような、例えば住宅街やビル群などの平凡な風景のパノラマ写真。でも、写真を見た瞬間に感じるのはだまし絵を見ているようなとてつもない違和感。
よーく写真を見てみると、その”パノラマ写真”は、実は角度も距離感も全く異なる4枚の建物の写真が、加工されることもなく並べてあるだけであることに気づきます。
一度気づいてしまえば全くバラバラの風景なのですが、建物に共通する”縦”のライン、そして隣り合う写真の横に伸びる柱の一部が揃っていたり、壁の色が似ていたり…なんだかおかしなあり得ない風景を、頭が強引につじつまを合わせてしまったような感覚でした。
鈴木崇さんのHPには、ステートメントとして、
"私は「写真を見る行為とはどういうことなのか」を探究しています。"
"何が写っているのかということより、写真となった被写体がどういうふうに知覚されるのか、またそこに写された情報は、見る人によってどう変化していくのか、ということに 興味があります。"
と書かれていました。
この作品でも、”写真となった被写体がどういうふうに知覚されるのか”試されていたのでしょうか？
この建物の作品は、シリーズで数点展示されていました。個人的には建物の中に「影」を取り込んだ作品が、「こんな風に影は出ないはずなのに‥なんだかおかしな風景だけど…写真だし、加工しているわけでもなさそうだし…こんなこともあるのかなぁ…？」と、見た瞬間の違和感と、それを自分が無理矢理納得させている過程が認識できて面白かったです。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
展覧会の会場に足を踏み入れると、徐々にその作品群が目の前を覆い尽くしていく「BAU」シリーズも、思わず「わぁっ！」と引き込まれてしまう展示方法で面白かったです。
カラフルで様々な形状のスポンジがほとんど陰影なく真っ黒な背景の中にフラットに浮かび上がる様子は、まるで幾何学模様で構成された抽象絵画のようで、写真の中のスポンジが”物質”ではなくなってしまうようでした。
これは、陰影なく”スポンジ”が空中に浮かぶあり得ない世界を、現実をうつすはずの「写真」と切り離して考えようとしていたのかもしれません。
今回の展覧会の告知には、
「僕にとっての写真とは、目に見えている世界を切り取り、
元あったものとは違う形と意味を与える行為であり、
写真で撮られたイメージを見ることとは、
新たに与えられた形を見て意味を探ることなのだと考えている。」
といった鈴木さんのコメントが記されています。
「目の前にある現実をそのままうつす」といった写真のあり方とは全く違った考え方ですね。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
とてもおすすめしたい展覧会です。ぜひどうぞ。
＊＊＊＊＊＊＊＊＊＊
■ DATA
会場：IMA CONCEPT STORE（六本木）
日時：2015年05月29日（金） - 2015年07月12日（日）
平日 : 12:00-22:00、土日祝: 11:00-20:00
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます