横浜のBankART Studio NYKで始まった 「日産アートアワード2015 ファイナリスト7名による新作展」。
日産アートアワードは、2003年から日産自動車の主催で始まった日本の現代アーティストを支援する国内最大のアートアワードです。 美術関係者から推薦を受けた33名のアーティストのなかから国際審査員によって7名のファイナリストが選ばれ、今回の作品展示を通じて11/24にグランプリが決定します。
(会場のBankART Studio NYKは日本郵船の倉庫を利用したアートスペース。)
7名のアーティストの新作がそろう展示に早速行ってきたので、トークをうかがった3名の作品を中心にご紹介します。(今回の展示はフラッシュなしであれば写真撮影も可能とのことです。)
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まず会場に入って目に入るのが、不思議な音を奏でる日用品で構成された大きな作品。
横浜トリエンナーレやスペクトラム展でも展示されていた毛利悠子さんの作品「モレモレ:与えられた落水 #1-3」です。
(毛利悠子「モレモレ:与えられた落水 #1-3」(2015))
”システマティックな東京の駅”の構内で、それと対照的に”水漏れを有りあわせの日用品を駆使して防ぐ”器用な仕事に面白さを見出し「モレモレ東京」と題した書籍も出版されている毛利さん。今回の展示で初めて、この「モレモレ」をモチーフにした作品を制作されたそうです。
作品の器となっている3枚のフレームはマルセル・デュシャンの「大ガラス」と同じサイズにつくられたそう。循環する水をなんの変哲もない日用品が受け止める…そうして作りだされた風景も”駅での水漏れ”なんていう”本当は隠したい風景”のはずなのに、それがギャラリーに置かれるとじっくりと見つめたい彫刻作品のようになってしまうのが不思議です。
そして、水の動きでチリンチリンとベルが鳴る音、雫が金だらいにたまる音、シートを打つ音…見る場所によって様々な音が聞こえ、異なった風景を想像させてくれるのが面白いです。 循環して降り続ける水滴は、雨が地面に降り注ぎ再び雨となっていく様子も思わせます。
実際の駅での「モレモレ」はあくまで仮の処置で、いつの間にか修理されて何事もなかったかのように消えてしまうオブジェクト。そんな一時的な「モレモレ」の現場を作品に構築することでいつまでも残る形に仕上げているというのも面白いです。
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その隣にあるのは、今年富山と栃木で大規模個展 を開催されていた岩崎貴宏さんの3つの作品。
大きな白い台の上で展開されるのは「アウト・オブ・ディスオーダー(70年草木は生えなかったか?) 」は、岩崎さんの故郷広島をモチーフにした作品。
(岩崎貴宏「アウト・オブ・ディスオーダー(70年草木は生えなかったか?) 」(2015))
この小さな木や鉄塔は、なんとすべて人毛(髪の毛、ヒゲ、スネ毛など)で作られているんだそうです!
見る角度によって、”多くの人工物が並ぶ現在の広島”と、”焼け野原となった戦後の広島”が見えてくる、ひとつの作品の中に違和感なく二つの時代が共存しているのも面白い作品です。
(被爆した岩崎さんの祖母と、母、姉とその息子という4代の髪の毛を使って作られた木も並んで立っています(お婆様のものは白髪なので写真では見えにくいですが…))
戦時中に使われていた歯ブラシの繊維を使って真珠湾攻撃の指令の発信に使われた通信塔を再現した作品や、黒澤明監督の「羅生門」が水たまりに映った様子を想像してつくられた作品を通じて、日常と混沌が背中合わせにあることを表現されています。
(岩崎貴宏「リフレクション・モデル(羅生門エフェクト)」(2015))
細かい仕事と造形の面白さに感動した後に、その中に隠された意味を知って考えさせられる、深い作品でした。
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足を踏み入れるとはっと息を飲むほど美しい世界が広がる、一番奥にある部屋は、六甲ミーツアートにも出展されている久門剛史さんの作品「Quantize #5」。
(久門剛史「Quantize #5」(2015))
部屋を構成しているのは、時計の文字盤や電球などの日用品と、文字を書く音や風の音などのありふれたものです。でも、それらが日常と異なる組み合わせや配置で表されると驚くほど幻想的な空間となることに驚きます。
(たくさんの時計で構成された作品は、その存在感に驚いて近づくと反射する光の美しさに気づき、さらに近づくと秒針が刻む音のリズムを感じられ、何度も驚きのある作品でした。)
美大卒業後はサラリーマンをされていたという久門さん。「毎日毎日何も変わらない日常を繰り返しているようだけど、少しずつ変化している。」という様子を表した作品には、なんだか親近感も感じられます。
(時計とシャールペンを組み合わせたこの作品は同じところをただ回り続けているようにみえますが、じっと見守っていると…
「些細だけど、少しずつ変化している」ことを感じさせてくれる作品でした)
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そのほかにも、
4ヶ月に渡り、壁に絵を描いてはコマ撮りを続けた壮大な「動く絵画」の映像作品の石田尚志さん。(横浜美術館での大規模個展 も記憶に新しいです。)
(石田尚志「正方形の窓」|
絵の具と光が、風や波のつくりだす音楽に合わせてダンスをしているようにも見えてくる不思議な映像作品です。)
(壁の一部も。何層にも塗り重ねられた絵の具の”厚さ”に驚きます。)
横浜に滞在し、その記憶を布に縫い付けたり壁に記していった秋山さやかさん。
(秋山さやか「浸食す 9.1 19 29 10.3 11.7 8 13」|
何度も通りを歩いた跡、そのときの感覚、ご自身の全ての”記憶”が作品の中に刻み込まれているようです。会期中にも少しずつ”記憶”が縫い付けられ、変化していっている様子。 外からの光によって1日の間にゆっくりと表情を変えて行く様子も美しい作品です。)
言われなければそれと気づかない美しい風景写真の中に、戦争の記憶を留める米田知子さん。
(米田知子「藤田嗣治の眼鏡 ー日本出国を助けたシャーマンGHQ民政官に送った電報」
藤田嗣治のメガネを通してみたGHQへの手紙を見ていると、写真でありながら「体験」するような気分にもなります。)
沖縄出身で、沖縄とアメリカをテーマに様々なメディアを使って多層的な物語をつくり出すミヤギフトシさん。
(ミヤギフトシ「南方からの17通のノート」|
切ない物語のどこまでが本当でどこからがフィクションなのか、感覚を揺さぶられる作品でした。
わたしたちが普段想像する”沖縄”の風景とは違った”沖縄”の風景が垣間みれるのも印象的でした。)
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どの作品も個性的で見応えのある作品でした。どのアーティストさんも展示前のほぼ丸々2週間をこちらの会場でぎりぎりまで準備をされていたほど力の入った作品ばかりなのだそうです。
(「日産アートアワード」HPより。 )
こちらの7名の中から11月24日の審査でグランプリが決まります。同日までオーディエンスアワードの投票も受け付けているそうなので、お気に入りの作品に投票して応援してみるのもいかがでしょうか?
※追記※
11月24日の最終審査で、グランプリは毛利悠子さん、オーディエンス賞は久門剛史さんに決定したそうです!
森美術館館長・南條史生さんのコメントは「グランプリ受賞者の毛利悠子さんの新作は、そのルーツを駅の水漏れという「社会の現場」に置きながら、マルセル・デュシャンの引用や、時間、音の導入など、多様なメディアやコンテンツを含んだ作品に昇華させ、作者自身の新たな境地を感じさせるものでした」 とのことです。(日産自動車ニュースリリース「日産自動車、「日産アートアワード2015」グランプリ受賞者を発表」より)
展示は12月27日(日)までです。
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■DATA■
■日産アートアワード2015 ファイナリスト7名による新作展 @BankART Studio NYK(馬車道)
会期:2015年11月14日(土)~12月27日(日)
*11月24日(火)は、イベント開催のため一般入場ができません。
開館時間:11:00-19:00 無休
料金:入場無料
会場:BankART Studio NYK
第一次選考にて選出されたファイナリスト7名による展覧会では、インスタレーション、彫刻、映像、写真など、
多岐に渡る表現が初めて披露されます。ぜひ、ファイナリストたちの作品を通して、日本の現代美術の今をご体感
ください。
毛利さんのモレモレ、見ているだけでも楽しいですよね。仰るように雨水が地面に降り注ぐ、なるほどと思いました。
久門さんは空間の美しさもさることながら、音の変化も効果的で面白かったです。
写真お上手ですね。展示の記憶が蘇りました。
いつもブログを拝見させていただいています。
コメント&TBありがとうございました。
日産アートアワードには家が近いこともあって何度か足を運んでいたのですが、はろるどさんのブログを拝見して、毛利さんの作品の循環する水を血管になぞらえていらしたのが、自分では捉えられていなかった見方で新しい発見がありました。ありがとうございました。
写真に関しても嬉しいコメントありがとうございます><今後もブログ楽しみにしています!