
今年も様々な地域で現代アートの"国際展"が開催されていますが、今年、"誰も見に行くことができない国際展"がひっそりと開催されています。それは、 福島第一原子力発電所周辺の帰還困難区域内で開催されている展覧会「Don’t Follow the Wind」(以下DFW)。
Chim↑Pomらを発起人としてはじまった「DFW」。誰も見ることができないまま半年が経過しましたが、このサテライト展
「Don’t Follow the Wind ― Non-Visitor Center」
が、ワタリウム美術館で開催されるということで行ってきました。
(「Don’t Follow the Wind ― Non-Visitor Center」メインビジュアル)
反原発的な意味合いの強い展覧会なのかと想像していましたが、テーマはもっと深く、「見えないことに創造力を働かせる」ことを強く考える展覧会になっていました。
※ 写真撮影・掲載のご許可をいただいたので、写真を交えて紹介します。
一般人が立ち入ることのできない区域に展示された作品たち。展覧会のHPも真っ白でなにも見ることができません。
(DFW展 ホームページ。音声のみが流れています。)
帰還困難区域内に設置されたライブカメラの映像は、そこに街はあるのに何も動くものがなく、異様な雰囲気です。
(「帰還困難区域の風景」(ライブカメラの映像))
今回の展覧会では、DFW展に参加している著名なアーティスト陣の作品が見られるのか、と思っていましたが…
(この”やぐら”にのぼって作品を見るとのことでしたが…)
作品はすべてガラス越し。近づいてじっくりみることはできず、映像作品は音も聞こえません。(福島の会場では、ソーラーパネルの電力で音もループ再生されつづけているそうです。)
スマートフォンを使って作品の解説を聞くことはできますが、実物がそこにあるのに、近づいて見ることができないのはとてももどかしく感じます。
会場では、実際に福島の方のお話をうかがったり、作家たちの対話の映像を拝見することもできました。
(園子温さんによるビデオインスタレーション。参加作家とキュレーターによるSkype対談をうかがうことができます。)
これらを見ていると、"人が入ることができず、みることができない場所"が自分達のすんでいるところの近くにリアルタイムで実際に存在しているんだ、ということを強く感じられるようになります。
原発の問題に限らず、例えば過疎化・高齢化などの問題も、ニュースで見て「そういった問題があって、解決しなくてはいけない」という認識はあっても、首都圏で日常を過ごしているとあまりそのリアリティを感じないような気がしています。でも、田舎に帰るとそれらの問題が目の前に現れて、解決できそうもないほどの大きな課題だ…と、環境による問題の重みの違いを感じたことがあります。
今回の展覧会は、そんな風に普段は目に見えていないところに創造力を働かせてくれる展示であるように感じました。
(唯一近くで見ることのできる作品;宮永愛子さんの「留め石」は、帰還困難区域に足を運ぶ、という手段を使わずに製作された作品。こういった方法でこの展覧会の製作することにはより強い想像力が必要なのかもしれないです。)
アーティストたちの対話の中で「放射性物質は目に見えず、臭いもないからその場に行ってもわからない」という話があったように、ひょっとしたら実際に帰還困難区域に行っても、まだまだ創造力を働かせる必要があるのかもしれません。
また、事故から時間が立つほど見えなくなってしまいがちですが、そこにはいつか帰還できるように懸命に働いている人がいるんだ、ということにも想像が及ぶようになりました。
福島で開催されているDFW展は民家などを舞台に開催されていますが、住民の皆さんの多くが、事故から時間が経って風化しつつあったり、報道が規制されたりすることに危機感を持って協力してくださった、という話も印象的でした。
会場では、福島でのDFW展のチケットも販売されています。
(紙のチケットは DFW展の旗をかぶせて分割され、フィルムでくるまれた状態で販売されています。
500部限定で、旗の柄のどの部分になるかは分からないそうです。)
何年後になるかはわかりませんが、いつかこの展示を見に行けるようにと、1枚購入しました。
見られるようで見られないもどかしい展覧会ですが、ぜひ創造力を働かせて見てみてください。
10月18日までです。
■DATA■
Don’t Follow the Wind ― Non-Visitor Center
会期:2015年9月19日(土)~10月18日(日)
会場:ワタリウム美術館
休館:月曜、ただし9月21日、10月12日は開館
開館:11:00~19:00(水曜は21:00まで)
料金:大人1000円、学生(25歳以下)800円、小・中学生500円、70歳以上700円
東京電力福島第一原子力発電所周辺の帰還困難区域内で開催されている展覧会「Don’t Follow the Wind」(以下DFW)のサテライト展示。「DFW」は2015年3月11日に福島の帰還困難区域で始まった国内外12組のアーティストによる国際展。
この「DFW」は将来、帰還困難区域の閉封鎖が解除される日まで観に行くことができない展覧会として、その発表時から大きな話題を呼んでいる。 今回、ワタリウム美術館では「DFW」にまつわる資料や、帰還困難区域に設置された作品に関連した各作家の作品、そしてドキュメントとして映画監督・園子温による映像インスタレーションなどを展示。さまざまな角度から鑑賞者の想像力を喚起する。また同展はワタリウム美術館での展示後、形態や内容を一部変えながら海外の美術館やアートセンターなどを巡回する予定という。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます