かりんとう日記

禁煙支援専門医の私的生活

同世代の女性たちよ

2014年08月27日 | がん病棟で
仕事では、高齢者を相手にすることが多い。

そういった方々に専門的なことを説明するときには、それなりの技術がいる。

専門用語をなるべく使わず、わかりやすい言葉で説明する。
耳が遠い人もいるから、しゃべるのにもエネルギーがいる。
相手が理解しているかどうかを見極めることも必要。

自分で言うのもなんだけど、ワタシはそういうこと、上手いほうだと思う。


でも、時々めんどくさくなることがある。
とくに、薬に関しては。

薬の名前って、覚えにくいカタカナが多い。

最近は、ジェネリック薬品もあるから、よけいに変なややこしい名前が増えた。

吐き気止め作用のある薬に「ナウゼリン」というのがあるけれど、しばらく前から採用されている同じ薬効のジェネリックは、「ドンペリドン」という。

最初は、「なんでシャンパンの名前?」と思ってしまって、口に出すのがこっぱずかしかった。

そういうことだから、患者さんだって、自分が飲んでいるたくさんのカタカナの薬名なんか、いちいち覚えていなくても、当たり前だとおもう。

だからこちらもつい、『食前に2錠づつ飲んでる吐き気止め』とか、『痛いときに飲む小さな袋に入った水薬・・・』みたいな言い方をしてしまうことが多い。
まるで言葉の通じにくい外国人を相手にしているような労力を必要とする。


たまに30~40代の患者さんと話をしていると、すんなり薬名が出てきて、そんなときは力が抜ける。
そういう人は、病状とか検査結果なんかについても、理解が早いから、余分な解説なしにコミュニケーションとれる。
患者さんがこういう人ばっかりだったら、すごーく楽だよなあなどと思ったりする。


だけど、それがかえってつらいこともあるのだ。


40代の乳がんの患者さんが、咳がなかなかとまらないと紹介されてきた。
主治医が悩んであれやこれやと処方している薬については、ご本人もきちんと把握している。
一筋縄ではいかないけれど、可能な限り深く考察をし、咳の原因と、対策について、専門的見解をお話した。


「子どももまだ小さいですし、もっと動きたいんです。咳がおさまるなら、少々つらい治療でも受けようと思います」

彼女には自分の置かれている状況が理解できていると同時に、その厳しい現状を受け止める勇気もあることに敬服した。


別の40代の女性患者さん。
人間ドックで肺に影があるといわれて受診した。
悪性腫瘍の手術歴がある。

CT室から診察室に戻ってきた彼女は、涙目だった。

肺に影があると指摘されてから、肺に転移してしまったと自ら悟っていた。
CTの結果はそのとおりだった。


「肺に転移する可能性は高いっていわれていました。最近、腰も痛いんです。骨にも転移しているんでしょうか?」


この世代の聡明な女性は、こういうところ、早い。
だから、こちらは真っ直ぐ向き合うしかない。
それもちょっとつらい。


『(交通事故などをおこさずに)気をつけて帰ってね』

今日のところワタシが彼女にしてあげられることといったら、そんな声かけくらいだった。

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