真似屋南面堂はね~述而不作

まねやなんめんどう。創業(屋号命名)1993年頃。開店2008年。長年のサラリーマン生活に区切り。述べて作らず

『甦った空―ある海軍パイロットの回想』 (岩崎 嘉秋さん 2008年)

2011-04-04 | 読書-エッセイ/小説etc
文春文庫
甦った空―ある海軍パイロットの回想
岩崎 嘉秋【著】
文藝春秋 (2008/12/10 出版)

ほほう。
ノンフィクションライター・歌人・パイロット
「達意の文章で」とあるとおり、筆が立つ方なのね。
高空を巡航する機上で弁当を食うのがいかに素晴らしいかの感激など…。

前半の要旨はこれに詳しい。
【書籍】 われレパルスに投弾命中せり/岩崎嘉秋 光人社NF文庫

翼内燃料タンクに被弾すると、そのタンクは空になったところだったり(ガソリンが入っていれば火の玉に)、何度かの不時着も経験するが、そのたびに卓越した技量と強運を発揮し続ける。

これで重慶爆撃にも飛ぶ。
九六式陸上攻撃機

美幌空
太平洋戦争開戦直後、「12月10日 マレー沖海戦。元山空・鹿屋空と協同でプリンス・オブ・ウェールズとレパルス撃沈」でも活躍。

副操縦士として?乗った機がレパルスに投弾した爆弾が命中する。
マレー沖海戦
wikipediaによると、水平爆撃隊の爆弾はレパルスに1発命中ということなので、岩崎氏の乗機のものということか。

対空砲火がオイルタンクに命中したので、即帰投を決意、機銃などの重量物を投棄しつつ、何とか着陸した直後にプロペラが固まる(オイルが流出しつくしてエンジンが焼き付く)。
帰ってみれば怖い蟹、じゃなくて、こはいかに!250キロ爆弾を投棄し忘れていて、後生大事に持ち帰っていた。

これなども、もし着陸の際に爆発していたら、大惨事どころか滑走路に穴をあけて本隊の帰投にも重大な支障を生じかねない不祥事なのだが、大戦果に沸く基地ではお咎めなし。
被弾個所がオイルタンク下部であれば、とうてい基地まで持たなかったわけだが、上部だったのが幸いしたのね。

映画『ハワイ・マレー沖海戦』の撮影にも協力する。
原節子と並んだ写真は今でも色あせない・・・というので掲載。

戦況不利になり、米軍に圧倒されてゆく過程で、海軍は前線からせめてパイロットだけでも救出しようと図り、輸送任務にあった著者は何度も救出飛行に飛ぶ。
まもなく米軍に蹂躙されることが必至の前線で、パイロットを救出に来た海軍の著者に、陸軍の高官が、「自分は重要任務があるので、なんとか乗せてもらえないか…」と懇願するのを断るなど。
部下を見捨てて自分だけ逃げ帰ろうとするのが見え見え。

フィリピンでは、皆がペソ軍票の入ったトランクを大事に抱えて搭乗しようとするのを廃棄させる(少しでも軽くして一人でも多く連れ帰ろうと)など。
搭乗の優先順位があらかじめ決まっており、「今回は○番から○番まで乗せます。残りは次回です」ということなのだが、じつはもうこれで最後だったりして、でも離陸前にそれをいうとパニックになるので言えないなど。

ダグラス三型とはこれか。

なお、パイロットだけ救出するなんて!と人道的見地から問題ありと感じる善男善女があるかもしれないが、パイロットの養成にはたいへんな手間暇がかかるので、前線で実戦を経験している彼らだけを選んで連れて帰ることは、十分に意味がある行為。

(さらに横道)
ミッドウェー海戦で空母4隻を失った日本海軍は、搭載してあった航空機も失ったわけだが、パイロットの多くは救出された。
時々、パイロット全員喪失云々と記すものを見ることがあるが、正しくないぞ。
正確な数はこんな感じか

閑話休題。
新品の一式陸攻のフェリー任務(テニアン経由ペリリューへ運搬)で硫黄島に到着、準備の整った陸攻を見ながら、「もうすぐ出発だ…」というところ、同島初の空襲に遭遇する。
とっさに離陸を決意、見かけた搭乗整備員1名のみをとにかく乗せ、偵察員(航法も担当する)も航空地図もなしで離陸、木更津に無事到着するなど。

北に飛べば本州のどこかには着けるだろう、富士山もあるし…というわけね。
これが逆方向で、「島に辿りつけるかどうか」ではとても無理だったかもしれない。

戦後、商売を始めるがうまくいかない著者は、誘われて、発足した海上自衛隊に参画する。
英語による航空管制に適応するため、旧軍のパイロット諸氏は英語の特訓を受けるのだが、これがなかなか難関だったりする。
ある日、(陸軍出身の某氏が)たまりかねて日本人の英語教官を、「売国奴!」とつるしあげる場面なども。

著者は固定翼機からヘリコプターのパイロットに、さらには教官に。
後に民間に転じ、ヘリコプター運航会社で飛行時間を重ねる。

福田赳夫氏が選挙遊説でヘリを利用する際のパイロットを多く務めたくだりの記述がやけに詳細。
大政治家の謦咳に接した感激、といった趣なのだが、現代の読者にはやや冗長の感は否めず、といえるかも。

福田赳夫元総理といえば、顔のシミが印象に残る。
ちなみに、わが家では、バナナが熟してきて茶色い斑点(シュガースポット)が現れると、「バナナがフクダタケオさんになってきちゃった」と称する。

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