
先週のことだが…… 久々に何もすることがない休みを迎えることになった。そこで、ながいことこんな日を待っていた私は、数年ぶりで中華街の朝粥を食べに出かけることにした。向かったのは香港路にある老舗「安記」である。大通りの「謝甜記」という選択肢もあったのだが、懐かしいあのバアサンの顔を見たいということもあり、こちらに決めたのだった。 「粥の安記」、むかしは8時ころから開店していたので、モツ粥を食べてから出勤することもできた。こうして過去の記事を振り返ると、あれからもう15年も経ってしまったのかと、感慨深いものがある。 そういえば、当時新しく登場した「馬さんの店 龍仙」も朝飯では重宝したものだ。「安記」の開店時間がだんだん遅くなるなかで、こちらは朝7時からの営業というのがすごかった。しかも、妙なお粥が出ていたりして、結構利用したものである。 さて、そんな思い出をなぞりながら朝粥を食べたあと、私は店を出て関帝廟通りへ向かった。香港路を抜けたところにあるのが焼き物で名高い「金陵」だ。ここでお土産にチャーシューを買って行こうとも思ったのだが、自宅で大量に作っているのを思い出し、さすがに入店するのはやめて窓越しに吊るされている鳥たちを眺めるだけで「清風楼」方面に足を向けた。 そこで意外な店を発見。左側に新しい八百屋ができていたのである。しかも店頭には黒山の人だかり! ≪へえ~、いつの間に開店していたんだろう≫ 驚きながら近づくと、お客さんたちが集まっていたのは八百屋ではなく、その軒先を借りて営業している開運グッズの売店だった。 ≪なんだ、こんなのに集まっていたのね…≫ 手相占いや開運グッズには、もう飽き飽きだ。今さらこんな新店は、いらない。もっと、なんか、こう新しい趣向の店ができないものかね、そんなことを考えていた私の目の前に現れたのは、斬新な店とは真逆の廃店だった。 ≪おかしいよなぁ~、こんなところに閉店した店があったかなぁ~≫ そういえば、かなり昔、そこは八百屋だったことを思い出した。でも、あれが廃業したあと、アクセサリーや開運グッズを売る店ができて大繁盛していたはずなのだが……。 その廃店は骨格だけが残っていた。だが、その姿はなぜか美しい。私は夢中でカメラのシャッターを押した。 しかし、その元軒下には美女が立っていて、撮影すると彼女が写ってしまう。 ≪これは、まずいよなぁ。彼女がいなくなるまで待とうか≫ そんなことを思っているうちに美女はどこかへ立ち去った。そこで再びシャッターを切ったのだが、その先には妙な男が佇んでいた。しかも、こっちを睨んでいるではないか。 だが私は、そんなのはお構いなしに何枚も廃店を撮影していた。 突然、うしろから声をかけられた。 「この廃店もなかなかいいですけど、この背後にはもっと素晴らしいものがありますよ」 振り返ると若い男がニヤリとしながら近づいてきた。 中華街の隅々まで把握している私は、そんなものがあるわけないだろうと思いながら、 「何なんですか、それは」と聞き返した。 「この廃店の中に入ってみれば分かりますよ」 男はタバコ臭い息を吐きながら、目で奥を指し示し歩き出した。 半信半疑で男のあとをついていくと、そこは大きな寺院の境内だった。 ≪なんだ、これは! 私の知らない中華街がまだあったのか!≫ 人の気配はなく、閑散としていた。だが、しばらく歩くと左側に大きな正門が現れた。そこにはカメラを持った観光客が大勢並んでいるではないか。 仕切りがあるわけではないのに、彼らは中に入ってくることもなく、こちらを見ている。それは不思議な光景だった。 やがて私は男に案内されて建物の中に入った。そこは、まるで旅館、いや大型の民宿のような施設。内部にはいくつもの部屋があり、しばらく進むと8畳くらいの部屋に出た。そこには布団にくるまって寝ている中年の男がいた。 ここで妙なことに気がついた。私は若い男と2人でここに入ってきたのだが、今はなぜか数人で布団を踏みながら先に進んでいるのだ。 次の部屋は無人だったが、その隣は、やはり中年の男が眠っていた。我々は彼を起こさないように注意を払いながら次の襖を開ける。 と、そこにあったのはトイレだった。最初に出会った若い男と、あとから加わってきた学生がそこで用を足している間、私は後続の人たちを待つ。しかし、誰も来ない。 変だな、と思ってトイレを見ると、こちらも学生がいなくなっていた。若い男は「みんな、どこかへ行ってしまった」という。 まあ、それならしょうがない、先に進もうと隣の襖をあけると、そこは4畳半の部屋で、やはり妙な中年男が布団で寝ていた。 ところが、なんとその部屋にある机の下で先ほどの学生が毛布にくるまって震えているのを発見してビックリ。 ≪どうもこの施設はおかしい、というよりも怪しい≫ そう感じた私は学生に、「一緒にここから出よう」と声をかけた。彼は意識はあるのだが、まるで意思がないみたい。クスリでもやっているのか、あるいは何かに取りつかれているのか。まったく動こうとしない。 この寺院は完全におかしい。 ヤバイ! ≪これは一刻も早く逃げ出さなければ≫ そう思い4畳半の戸を開けると、石畳の庭に出た。 ここに入ったとき靴を脱いできたことを悔やんだ。これはもう、走り抜けるしかない。幸いソックスは冬山用の厚手のものだ。これなら何とかなるだろう。 庭から塀を乗り越えればいつもの中華街に出られる。外を眺めると、なんと、相当高い場所にいることが分かった。しかも塀の外はお城のような石垣だ。 仕方ない。戻るわけにもいかないので、このまま進むことにした。 すると左側の眼下に朝鮮民族の衣装を着た女性たちが踊っているのが見えた。それは美しい姿であった。 さっそく私はカメラを取り出し彼女たちにピントを合わせた。しかしファインダーから覗くとやけにぼやけている。 電池切れなのであった。 あわてて新しい乾電池をセットするのだが、その間に彼女たちは建物の中に消えてしまった。残念……。 ≪自分は何をやっているんだろう…今はここから逃げることを考えなければいけないのに≫ 私は、石畳でできた寺院の庭を再び走り始めた。塀の向こうには、どこかの住宅街が見えている。あれは何処なのだろう。そんなことを考えている場合ではないのだが、どうやらあれは本牧の丘らしい。 走り疲れたころ突然、下界につながっている参道の接続部に出た。これを駆け下りればもとの中華街に出られる、そう思ったところにシャモジを持った婆さんが現れた。 彼女はシャモジを額に押し当てながら、小さなお堂に向かってなにやらお経みたいなものを唱えていた。 これは使える、そう思った私は婆さんをヘッドロックしてシャモジを奪い、下へ向かう参道に引っ張って行った。シャモジで頭を叩きながら。 やっとの思いでデコボコの参道を駆け下り、この得体のしれない寺院に入ることとなった「あの廃店」に飛び出した。 登山用の厚手ソックスを履いていたとはいえ、このピンコロ舗装は痛かった……。 と、ここで目が覚めた。足の裏には布団の横に置いてある木箱の角が当たっていた。 なんだろ、この夢は。 うまく書けなかったけど、ものすごいサスペンスドラマだった。これを無料で観られたなんてありがたいとも思う。 で、いろいろ思い返してみた。 中華街・・・数日前に訪問している 開運グッズ・・・新しく西門通りにできたのを見た 廃店・・・閉店した多くの店を見ていた 若い男・・・仕事で関係した男性か 寺院・・・数日前に磯子の神社を訪ねていた 本牧の丘・・・数日前に本牧を訪問している 婆さん・・・そこで久しぶりに会って話をした しゃもじ・・・伝承として残る「おしゃもじ様」の話を聞いた と、まあ、こんな背景、人物なのだがこのストーリーは何なんだろう。 「天国に行き損ねたんじゃない?」とは妻の想像。 それにしちゃあ地獄に落ちていないぞ。 なんだかビデオに残したいくらいだった。 いずれ夢をビデオ化する日が来るんだろうね。 ![]() |
少しノスタルジックな感覚で読み入ってしまいました、、、
途中まで位置と商品だけ変化した金陵の隣の開運グッズ屋と老北京の惣菜売り場の記憶かしらと読み進めました。
加えて映画やドラマに引っ張り出される中華街のような妖しさとドキドキワクワクして面白く拝読いたしました。
冒険をする夢や前世かと思える懐かしい街は心に残り好きです。
なかなか中華街に行けないから、
こんな夢を見たのかも。
あのお寺は道教の寺だったのかなぁ。
私も昔は路地裏を歩き回っていました。
いいところですよね。
中華街の売店で肉まんを買うお客さんの役で、
映画にちょこっとだけ出たのを思い出していたから、
それが影響したのかもしれません。
森蜃気楼さんは、なにがなんでもオリンピックをやりたいんでしょうね。
コロナが拡大しているっていうのに!
中止以外に選択肢はありません。