アジア映画巡礼

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TIFFの感動再び『僕たちの家(うち)に帰ろう』

2015-08-06 | 中国映画

昨2014年の東京国際映画祭(TIFF)コンペティション部門で上映された中国映画『遙かなる家』が、このたび公開の運びとなりました。公開題名は『僕たちの家(うち)に帰ろう』で、8月29日からの公開です。TIFFで見た時こちらでご紹介したので、憶えてらっしゃる方もあるかも知れませんね。まずは映画のデータからどうぞ。


(C)2014 LAUREL FILMS COMPANY LIMITED

『僕たちの家(うち)に帰ろう』 公式サイト

2014年/中国/テュルク語、北京語/103分/カラ―/原題:家在水草豊茂的地方/英語題名:River Road
監督・脚本・編集・美術:リー・ルイジュン(李睿珺)
出演:タン・ロン(湯龍)、グオ・ソンタオ(郭嵩濤)、バイ・ウェンシン(白文信)、グオ・ジェンミン(郭建民)、マ・シンチュン(馬興春)
配給・宣伝:マジックアワー

8月29日(土) シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー

 

(C)2014 LAUREL FILMS COMPANY LIMITED

舞台となるのは中国の甘粛省。北は内モンゴル自治区、西はチベット高原の青海省、南は四川省に接しているのが甘粛省で、そこに住む少数民族裕固(ユグル)族の小学生、バーテルとアディカー兄弟が主人公です。2人とも小学校に通うために遊牧をしている両親とは別に住んでいるのですが、兄のバーテル(上写真右)は町はずれに住む一人暮らしの祖父の家から通い、弟のアディカー(同左)は学校の寮に暮らしています。兄は弟が生まれたあと、母親の負担を減らすために祖父母の家に預けられたため、弟に両親を取られたと恨んでいます。弟は弟で、兄に味わわせた寂しさを埋め合わせしようと、父が兄のご機嫌を取るのが面白くありません。「兄ちゃんはいつも新しい服を買ってもらってずるい。僕はお下がりばっかりだ」と弟はマーケットで泣いて父に抗議するのですが、父は砂漠で見つけた観測気球が運ぶ機器も、そっと兄にだけやるのでした。

そんな時、祖父が亡くなり、夏休みに入った2人はらくだに乗って両親の暮らす遊牧地に帰ろうとします。でも、兄弟の間はぎくしゃくとしていて、特に兄は何かというと弟に意地悪ばかりします。途中のチベット仏教寺院でやっと二人の心は結びつき、家路を辿るのですが、そこに待っていたのは....。

(C)2014 LAUREL FILMS COMPANY LIMITED

圧巻は何と言っても、兄弟がらくだ2頭に乗って進む砂漠の旅。らくだに乗せる鞍というか敷物が物入れになっていて、大きなポリタンクがすっぽりと入り、そこに水を入れて旅をするとか、濡れたズボンの乾かし方とか、砂漠での日陰の作り方とか、いろんな智恵が学べます。特に弟は、こんな智恵を幼い時から父親に倣って身につけたのだなあ、と思わせられるシーンがいくつも出てきます。家への帰り方も、父親から教わった「河に沿って行け」が指針になっていて、それが英語題名の「River Road」になったというわけです。

それにしてもこの子役くんたち、すっかりユグル族の子供になり切っていますが、実は二人はこの地方の子供たちではあるものの、ユグル語は全然できず、監督が自宅に泊まり込ませて演技と共に指導するという強化合宿で身につけたのだとか。そんな学習した言語であるのに、セリフを話し、さらに感情表現まで行ってしまう演技力はたいしたものです。兄バーテル役の グオ・ソンタオ(郭嵩濤)くんの方がかわいい顔立ちなのですが、私のお気に入りは弟アディカー役のタン・ロン(湯龍)くん(上写真)。素朴な顔と、時折見せる意志の強そうな表情がとても素敵です。

(C)2014 LAUREL FILMS COMPANY LIMITED

また、印象に強く残るのは、ケンカをして兄弟が離ればなれになったあと再開するチベット仏教寺院での一幕。老僧と彼に仕える青年僧が守っているものの、水も十分になく、彼ら僧侶ももうすぐ寺院を離れるという設定になっています。撮影場所は有名な観光名所「馬蹄寺石窟」だそうで、寺院の構造や装飾なども見ものですが、そこで兄バーテルがきちんと拝礼をするところや、弟アディカーが老僧にお礼をするところなども、見る者の心を潤してくれます。

出演者は全員素人だということですが、この老僧を演じたのはリー・ルイジュン(李睿珺)監督の父親の叔父さん、つまり大叔父なのだとか。青年僧を演じているのも従兄弟だそうで、さらに監督の父親もあるシーンでちらと出演。みんな、低予算での映画製作を支えて、監督に協力したということなのでしょう。でも、このシーンでの老僧と青年僧はなかなかのハマリ役で、見応えのある場面を作ってくれています。

(C)2014 LAUREL FILMS COMPANY LIMITED

ラストシーンは賛否両論だと思いますが、現実を見据えた上での監督なりの結末なのでしょう。プレスにあった愛知大名誉教授加々美光行氏の解説によると、7世紀半ばに自らの国「ウィグル可汗国」を、現在のモンゴル西部一帯に打ち立てたユグル族は、当時10万人の人口を擁していたとか。その後9世紀末に「甘州ウィグル王国」となった頃には人口は30万人にもなっていたそうですが、のちにこの国は滅ぼされ、中華人民共和国になった頃にはトルコ語系言語を話す西部ユグル族が4,600人、モンゴル語系言語を話す東部ユグル族が2,800人しかいなかったそうです。

現在の人口は約1万4千人とのことですが、ユグル語を話せる人も年々減り、また経済発展や草原の砂漠化で遊牧をやめる人も多く、民族としてのアイデンティティを失いつつある状態がこの先先鋭化しそうです。もしかすると本作は、最後のユグル族映画となるかも知れません。

そういう歴史的背景はさておき、本作は少年たちの冒険物語としても楽しめる作品になっています。ぜひスクリーンで、バーテルとアディカー兄弟に会ってみて下さい。予告編はこちらです。

両親に会うべく幼い兄弟が旅に出る!映画『僕たちの家に帰ろう』予告編  

 

 


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