アジア映画巡礼

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誰もが『普通に生きる』こと

2012-02-05 | 映画一般

前から見たかったドキュメンタリー映画『普通に生きる』をやっと見てきました。見られて本当によかったです。

『普通に生きる』は、静岡県富士市にある重症心身障害児・障害者の通所施設「でら~と」に集う人々を撮っています。のちに富士宮市に同様の施設「らぽ~と」ができるのですが、その建設過程なども織り交ぜながら、数年にわたってこれらの施設に関わる人々を追った作品です。では、まずいつものように作品のデータをご紹介しましょう。

『普通に生きる』 公式サイト 予告編 長尺予告編
(2011/日本/ドキュメンタリー/83分)
 撮影・プロデューサー:貞末麻哉子
 構成・編集:洪 福貴
 製作補:梨木かおり
 ナレーター:長谷川初範
 音楽:木霊
 製作・著作・配給:マザーバード
<現在上映中>
 ポレポレ東中野横浜ニューテアトルシネ・ヌーヴォ(大阪)、イオンシネマ富士宮

 

最初、観客は、「でら~と」の成人式に行くために準備をしている、あるご家族と出会うことになります。兄妹2人共が通所者なので、お母さんは本当に大変そう。妹さんの方が成人式で、ステキなジャンパースカートを着せてあげたはいいけれど、スカートがタイトすぎて「パンツが見えるかも!」。お母さんの方もよそ行きのタイトなロングスカート姿のため、座った姿勢からお子さんをおぶって立とうとしたら、「私、立てるかな?」と苦笑い。こんな風に、肩の力が抜けた日常が映し出されていきます。

成人式はさすがに感動的なのですが、前述の妹さんが、マイクを握って挨拶するお母さんの手をさかんにこっちに引き寄せようとします。ん? マイクで何かしゃべりたいのかな? 成人式のあと、毎日の通所風景が映し出されてみると、そこで行われているのは朝の挨拶と決意(?)表明。今日は何をするか、というのを、みんなが順番に言っていくのです。よくしゃべれない人は、職員の言うことにうなずいたり、ひと言だけ発したり、あるいは職員が代弁したりしています。そうかー、これをやるので、マイクとお馴染みなのだな。

上の写真の彼は、今日は「八百屋」をやりたいんだそうです。八百屋さんごっこかと思ったら、足湯のことを「でら~と」では「八百屋」と言うそうな。大根脚がずらっと並ぶからでしょうか? それから、午後は「光」。いろんな色の光を使った幻想的なプログラムで、いわば音楽鑑賞とか絵画鑑賞にあたるもの。その他、ベッドに寝たきりの青年は散歩、というか外回りをするとか、パソコンを使って詩を書く人もいたりして、いろいろです。

詩を書いた上の写真の彼は、自分の詩に感動して涙ぐんでいました。こんな風に、通所によって様々な刺激を受けて、みんなの世界が広がっていきます。「でら~と」では毎日の行事、施設としての行事、そして季節ごとの行事を重要視していて、いろんな催しがあるほか、地域のお祭りの時はみんなで車椅子に乗って踊りの行列にも参加します。お祭りの役員さんが「でら~と」と書かれたプラカードを用意してくれるなど、すっかり地域にもとけ込んでいるのです。

ここまで来るのは大変だった、というこれまでの経緯も、代表の小沢映子さんによって語られます。小沢さんは娘さんが陣痛促進剤のせいで障害をおってしまい、「歩けるようになるから」とか医者から言われては裏切られたため、「希望」という言葉を一番残酷な言葉だと思うようになります。その後、重度障害児を持つ親の会を立ち上げ、やがて、学校を終えたらこの子たちの行き場がない、ということから、通所施設の建設へと向かっていくのです。映画には、小沢さんのご家庭での話し合いや、市議会議員としての選挙活動なども盛り込まれています。

この映画には、魅力的な人が何人も出てくるのですが、私が特に惹かれたのは所長の小林不二也さん。物静かなおじさんなんですが、「でら~と」祭りの時には冗談を言ったりしてこちらを笑わせてくれます。そして、映画の中では、胸を打つ言葉を語ってくれるのです。ちょっと長いのですが、パンフレットから引用します。

「人間である以上、働けるなら働けという考えがどうしても根底にあると思うんですけど、働くっていうことは、必ず何かを作って売らなきゃいけないということではない。じゃあ、ここに寝ている利用者が何か生産的に活動できるか、社会にどんな貢献をしているかと言われた時に、一人でただ寝かせていたんでは何も生まれてこないんですよね。だけど人間として、人が人と関わることで、初めて彼らは輝いたり存在感を現してくるんです。何もなくても、笑顔一つでその人はパッと10人くらいの人を明るくすることができる。これって、「働き」でしょ。彼らが人と関わることで、何か代償を彼らに与えることができれば、それがまさしく作業した後の工賃だったり、それと同じような代償になるような社会になれば一番いいな、って思ってます」

『普通に生きる』では当初出てくるのはお母さん方ばかりで、「父親はどうしているんだろう?」と思っていたら、中盤以降父親たちが次々と登場。上の写真は最初に登場したご一家なのですが、お父さんの発言がすごくあったかくて、見ていて心がなごみます。泣けてくるシーンも多かったのですが、感動して流す涙だったので見終わってとてもさわやかでした。

「でら~と」や「らぽ~と」に通所している人たちを普通に見ることができる、というか、こういう人たちとも日常的に接することができるのが、「普通」の社会なのだと思います。ぜひ一度、あなたの目で彼らを見てみて下さい。データに記した映画館のほか、各地で自主上映も盛んに行われています。また、マザーバードでは貸出も受け付けています(詳しくは映画の公式サイトで)。あちこちで、魅力的な「でら~と」「らぽ~と」の皆さんと観客とが出会えるといいですね。


 


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2 コメント

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nancy様 (cinetama)
2012-02-07 23:11:25
コメント、わざわざすみません。いや~、あの映画を見せてもらうと、作った方にご馳走したくなっちゃいますよー。スタッフ何人かで来てらしたら、全員におごってたと思います、私。それぐらい、魅力的な作品でした。

お子さんたちもそれぞれにチャーミングだったので、顔写真付き出演者一覧みたいなのがパンフにあるとよかったのにな~、とか思ってしまいました。何人かは親御さんが書かれた文章に写真が付いていましたけど、チラッと映っただけでも忘れがたい印象を残すお子さんとかがいたので、お顔を見ながら余韻を楽しみたかったです。
マザーバードさん、これからもステキな作品を作って下さいね!
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ご紹介ありがとうございます! (nancy)
2012-02-07 19:14:40
cinetama様
 先日はご鑑賞いただきありがとうございました。おまけにご馳走になって、何処まで図々しいんだ!?この私(^^)/

『こういう人たちとも日常的に接することができるのが、「普通」の社会なのだと思います』との言葉に、うるうるきてしまいました。
 ありがとうございました!!(この言葉しか出てきません)  
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