台風一過というか、台風と台風の狭間でというか、本日関東一帯はものすごい暑さでした。火山の火口にいるんじゃないの、私たち、と思うような暑さなんですが、湿度が比較的少なかったのと風があったのとで、昼間は冷房を使わずとも何とかなりました。夕方からはオンライン研究会があったので、冷房ガン入れでチベット映画のお話を興味深く聞きましたが、明日もまた本日と同じような暑さらしいですね。そんな中で、タイトルとキャッチコピーを見た&聞いただけで、ぐわっと熱くなる作品のご紹介をしたいと思います。まずは、キャッチコピー:その1。
「白頭山(ペクトゥサン)」ってどこ? などという方は、本欄読者にはおられないと思うものの、念のためご説明すると、北朝鮮の北部にあります。朝鮮半島の最高峰で標高2,744m(Wikiでは「2,750m」。3千メートル級じゃないのね。あまり高いと鶴も飛ばないか...)、中国との国境地帯、山の向こう側は吉林省という所にある、「白山」「太白山」「長白山」などとも呼ばれる火山です。10世紀以降大噴火はしてないそうなのですが、21世紀に入って群発地震が続いた時があり、「今後噴火する恐れのある火山」と位置づけられています。本作は、それらから発想された作品のようですが、まずは作品のデータと、キャッチコピー:その2をどうぞ。
『白頭山(ペクトゥサン)大噴火』 公式サイト
2020/韓国/韓国語/128分/原題:백두산
監督:イ・ヘジュン、キム・ビョンソ
主演:イ・ビョンホン、ハ・ジョンウ、マ・ドンソク、チョン・ヘジン、ペ・スジ
提供:ツイン、Hulu
配給:ツイン
✨8月27日(金)TOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, DEXTER STUDIOS & DEXTER PICTURES ALL RIGHTS RESERVED
白頭山で大噴火が発生、朝鮮半島ではM7.8という激震が走り、ソウルの高層ビルも崩壊したりと、ライフラインがずたずたに寸断されます。そんな中、今日で除隊という爆発物処理班の大尉チョ・インチャン(ハ・ジョンウ)は、身重の妻ジヨン(ペ・スジ)を案じていました。一刻も早く除隊し、妻の所に駆けつけたいチョ大尉のところに、降ってわいたような緊急命令が下されます。今回の大地震に対し、韓国大統領府ではいろいろ検討がなされた結果、民政部首席のチョン・ユギョン(チョン・ヘジン)はアメリカのプリンストン大所属の地質学者カン・ボンネ(マ・ドンソク)と連絡を取り、韓国に呼び寄せます。カン教授は、「白頭山の地下には4つのマグマ溜まりがあり、それが次々と噴火していくと、最後の第4次噴火はM8以上の巨大地震を誘発し、半島全域に壊滅的な被害をもたらす。これを回避するためには、白頭山地下の坑道で人工的な爆発を起こし、マグマ溜まりの圧力を下げるしかない」と持論を展開します。そして、その人工的な爆発を起こすために北朝鮮が持っている核兵器を使うことを進言するのですが、最後のマグマ溜まりが噴火するまでに残された時間は75時間しかない、というのがカン博士の計算でした。大統領はわずかな可能性に賭けることを決意し、作戦の実行を決定します。
ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, DEXTER STUDIOS & DEXTER PICTURES ALL RIGHTS RESERVED
作戦はまず、北朝鮮の工作員であり、韓国のスパイとして北の牢獄に捕らえられている男リ・ジュンピョン(イ・ビョンホン)と接触し、彼を解放する。彼が北の核ミサイルの在処を知っており、彼の手引きでミサイルから核を取り出して起爆装置に取り込んだあと、それを白頭山に運ぶ。そして、リ・ジュンピョンの手引きで白頭山の地下坑道に入り、所定の場所に設置する...。爆発物処理班であるチョ大尉と部下たちは、実行部隊である「アルファ・チーム」を補佐する技術部隊「デルタ・チーム」として、出動を命じられたのでした。しかし、人捜しから始めなければならない困難な任務に加えて、タイムリミットは75時間、ほぼたったの3日間。今回の大地震後の北朝鮮内を移動するだけでも時間がかかるのに、果たして実行可能なのでしょうか...。妊娠中の妻を案じつつ任務についたチョ大尉でしたが、早くも出発直後に事故が起き、「デルタ・チーム」が単独で任務を遂行する必要が生じます。また、牢獄から助け出したリ・ジュンピョンがとんでもないクセ者で、チョ大尉たちは謎を秘めた彼に翻弄されます。果たして、作戦は完遂できるのでしょうか...。
ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, DEXTER STUDIOS & DEXTER PICTURES ALL RIGHTS RESERVED
次から次へと難問出来、危機に次ぐ危機...というのはパニック映画の定石ですが、本作も観客の理解が追いつく暇もあればこそ、事件がたたみかけるように起こります。随所に「そんな無茶な!」が登場するのですが、本作の脚本がうまいのは、大規模な緊迫シークエンスの中に、非常に細かな緊張のゆるむ小ワザが織り込んであることです。共同監督のイ・ヘジュン、キム・ビョンソを中心とした脚本チームが練りに練った結果かも知れませんが、これによって緩急がつき、作品がより楽しめます。例えば、北朝鮮で牢獄に入れられていたリ・ジュンピョンは、韓国側によって体内にICチップが埋め込まれているのですが、それを逆用して脱出する時の思いがけないシチュエーションとか、チョ大尉とリ・ジュンピョンの間でやり取りされる、『JSA』のチョコパイに相当するようなスナックをめぐっての会話等々、今も思い出し笑いが起きるほど。特に「デルタ・チーム」とリ・ジュンピョンの初対面から続く一連のシーンは、緊張したかと思うとそれがほどけ...と、実に楽しいシーンになっています。まあ、牢獄に囚われていたリ・ジュンピョンの姿はちょっと行き過ぎ観があったり、彼の家族の件が納得しがたかったりとマイナス要素もあるのですが、全編にわたってイ・ビョンホンのコメディ演技のうまさが炸裂していたのは意外な儲けものでした。
ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, DEXTER STUDIOS & DEXTER PICTURES ALL RIGHTS RESERVED
コメディ演技と書くと、ディザスター・パニック・アクション映画の主人公がコメディ演技? と不審に思われるかも知れませんが、今回、主役の3人はそれぞれに笑わせてくれます。マ・ドンソクが、真面目に演じていながら笑いを誘う演技をするのはこれまでの作品からご承知でしょうが、今回も真価を発揮しています。そして今回は、イ・ビョンホンが醸し出す笑いが突出してうまい! ひと癖も二癖もある人物の造形に加えて、抜群の呼吸の会話でハ・ジョンウ相手にいろいろツッこんでくれており、名場面集を作りたいぐらいの芸達者ぶりです。北朝鮮の人をこんなに軽妙洒脱に描いた作品は初めてかも知れません。それが生きるのも、相手になるハ・ジョンウが生真面目にウケをするからで、翻弄されるハ・ジョンウもこれまたお上手。3人も主役級スターを使って...と批判している映画評をどこかで見ましたが、こんな演技合戦が見られるのも、この3人の大スターだからこそです。
ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, DEXTER STUDIOS & DEXTER PICTURES ALL RIGHTS RESERVED
というわけで、本作はCGを多用し、驚くような場面を連発してくる大作としての見応えと共に、俳優の緻密な演技も見る者を満足させてくれる、足元のしっかりした作品です。主役の3男優だけでなく、意思が強く決断力のある政府高官役のチョン・ヘジン(引き出しが開かなきゃ蹴っ飛ばすのが一番!)、夫とお腹の中の子供を大事に思い、しっかりと状況を見定めて行動するカン大尉の妻役のペ・スジも、キャラクター造形がうまくて魅力的です。チョン・ヘジンはマ・ドンソクと一緒に登場するシーンが多いのですが、ペ・スジもラスト近くにマ・ドンソクともからむシーンが用意されており、各キャラクターを上手に動かす脚本がここでも本領を発揮しています。
ⓒ 2019 CJ ENM CORPORATION, DEXTER STUDIOS & DEXTER PICTURES ALL RIGHTS RESERVED
ラスト、白頭山の噴火はどうなる? 何かまだ秘密を抱えていたような、リ・ジュンピョンの運命は? そして、カン大尉と妻は無事再会できるのか? ぜひ、映画館で確かめてみて下さい。最後に予告編と、出演者のご挨拶動画などを付けておきます。
『白頭山大噴火』本予告
『白頭山大噴火』グリーティング映像
『白頭山大噴火』マ・ドンソク映像
『白頭山大噴火』イ・ビョンホンコメント映像