アジア映画巡礼

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凄腕フィリピン映画『牢獄処刑人』公開!

2014-07-16 | 東南アジア映画

フィリピンから、すごい映画がやって来ます。その名も『牢獄処刑人』。原題は『On The Job』です。このタイトルを聞いてピンと来た方は相当なフィリピン映画通ですが、昨年カンヌ国際映画祭の監督週間で上映されて注目を浴び、本国以外にアメリカでも公開されたほか、韓国のプチョン国際ファンタスティック映画祭などで上映されて話題になりました。ハリウッドでのリメイクも決定しているそうで、すでに続編『On The Job 2』製作もアナウンスされています。

監督は、『スパイダー・ボーイ ゴキブリンの逆襲』(2004年/東京国際映画祭では『ガガンボーイ クモおとこ対ゴキブリおとこ』という邦題で上映されました)のエリック・マッティ。『スパイダー・ボーイ』は変身ダメヒーローもののユルユル・コメディ映画だったのですが、あれから10年、エリック・マッティ監督が大化けしました。まずは、基本データをどうぞ。


『牢獄処刑人』 公式サイト

2013年/フィリピン/タガログ語・英語/115分/カラー/原題:ON THE JOB
監督:エリック・マッティ
脚本:エリック・マッティ、ミチコ・ヤマモト
出演:ジョエル・トーレ、ジェラルド・アンダーソン、ピオロ・パスカル、ジョーイ・マルケス

配給・宣伝:彩プロ

2014年7月19日(土)~8月1日(金)シネマート六本木にて公開

 

© 2013 On The Job LLC.

映画の冒頭、初老の男と若い男の2人組が、人々で賑わう通りで殺人を犯します。ターゲットは、携帯電話を片手に会話中の中国系の男。初老の男が鮮やかな手際で撃ち殺し、補佐の若い男と共に逃亡しますが、初老の方はタタンこと本名マリオ(ジョエル・トーレ)、若い方はダニエル(ジェラルド・アンダーソン)でした。2人は仲間の女が乗った車に回収され、報酬をもらったあと別れます。しかし、ダニエルはなぜか秘密めいた行動を取ります。自宅を遠く臨みながら母親に電話するダニエルは、実は中東のドバイで出稼ぎ中ということになっていたのでした。また、妻と娘が待つ自宅に戻ったタタンも、一晩家にいただけで「次に戻れるかどうかは、雇い主の機嫌次第だがな」と赴任地らしき所へと発っていきます。途中スーパーで酒やタバコ、食料品をどっさりと買い込んだ2人が向かった先は、何と刑務所でした。2人は刑務所に収監中の囚人で、警察と結託して、殺し屋稼業のため一時的に出獄していたのです。

© 2013 On The Job LLC.

この殺人事件を担当したのは、地元の刑事アコスタ(ジョーイ・マルケス)。一方、政界の大物パチェコ将軍は、マンリケ議員の娘婿である国家警察捜査局(NBI)の若手捜査官フランシス・コロネル(ピオロ・パスカル)に事件を担当させようとしていました。こうして、たたき上げの刑事アコスタとエリート警察官フランシスは手を組むことになるのですが、やはりそりが合いません。

© 2013 On The Job LLC.

その後刑務所の中で一段と度胸を付けたダニエルは、タタンとの次の仕事では実際に殺人も犯すことに。そして、やがてその自信が彼らを危機へと追い込んでいくのです....。

© 2013 On The Job LLC.

冒頭のシーンのあと、タイトルクレジットと共に様々なニュース映像が挿入されて、フィリピンでの殺し屋の存在や、闇の勢力の暗躍が語られていきます。しかし、その殺し屋たちが普段は刑務所に潜んでいるとは....。法の盲点をついた、このアイディアがまず秀逸です。さらに、まるでタコ部屋というか工事現場の飯場のようなフィリピン刑務所の描き方も、けれん味たっぷり。これが実態だとすれば、法はまったく機能していないのでは、と思わせられます。

© 2013 On The Job LLC.

警察の腐敗が描かれるのはフィリピン映画ではよくあることで、ブリランテ・メンドーサ監督の『キナタイ - マニラ・アンダーグラウンド』(2009)では、麻薬の代金を払わなかった女を組織から依頼された警官が殺すというストーリーが描かれていました。『牢獄処刑人』『キナタイ』と共通するテイストを持っており、手持ちカメラの多用や暗い画面など、撮り方も似通っています。また、背後の巨悪、実行犯、実行犯を追いつめているうちに真実に辿り着く警官、という図式が醸し出すサスペンスも一級で、『キナタイ』の緊張感に負けていません。

© 2013 On The Job LLC.

何よりも、脚本の上手さが映画を見応えのあるものにしています。フィリピン映画らしく、家族との関係の描き方は少々甘いところもあるのですが、緊迫感あふれる刑務所のシーンや"On The Job"、つまり殺し屋のお仕事シーンは、文字通り手に汗握ります。脚本は、監督のエリック・マッティとミチコ・ヤマモト。このミチコ・ヤマモトという女性についていろいろ調べてみると、お父さんが日本人、お母さんがフィリピン人だというこんなブログ記事が。2006年の東京FILMeXで上映された『マキシモは花ざかり』(2005)の脚本も担当したようで、監督のQ&Aの中でお名前が出ていました。日本人とのハーフながら、フィリピンのディープな描写ができる人、というミチコ・ヤマモトさん、今後の活躍、特に『On The Job 2』の脚本が楽しみです。

『牢獄処刑人』はスクリーンで見てこそ、その迫力が存分に楽しめる秀作です。公開期間が短いですが、ぜひ劇場でご覧下さい。劇場のサイトはこちらです。これを機に、フィリピン映画の公開が増えることを祈りつつ。

そうそう、昨年アジアフォーカス・福岡国際映画祭で上映されたタイ映画『Pee Mak』(2013)も『愛しのゴースト』という邦題で10月18日(土)より公開されます。抱腹絶倒の『ナン・ナーク』リメイクである本作の詳しい紹介は後日また! 下はタイ版のDVDカヴァーです。

 




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2 コメント

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待ってました! (よしだ まさし)
2014-07-18 12:32:49
あ、明日っからですか!!
どこかで観に行く時間を作らないと。
この『On The Job』、いつもフィリピン映画のDVDを買っているお店でなかなか入荷せずに買えずにいた作品なのですが、こうして日本語字幕付きで観れるのですから買えなくてよかった。
楽しみです。
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よしだまさし様 (cinetama)
2014-07-18 20:18:57
コメント、お待ちしていました~。
よしださんのお目に触れることを期待して、この記事を書いたようなものでして。以前、ブログ「大丈夫日記」でも言及してらっしゃいましたよね。

浦川とめさんのブログを読んで知ったのですが、この3月の香港国際映画祭でも上映していたそうで、まったく気づかなかった私はアホです。
あわてて、文化中心で撮った参加作品のポスターをチェックしてみたら、ちゃんと本作のポスター写真も撮っていました。どうも、欧米の映画と勘違いしたみたいです。

シネマートは夜の回1回だけの上映なんですが、私ももう1回見たいので、可能性のある日を探っているところです。
DVD化前の箔付け劇場公開ではと思われますが、せっかくの秀作を2週間だけなんてもったいない....。

ご覧になったら、またご感想をぜひ!
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