やっと原稿のノルマを果たしたので、「仮設の映画館」に行ってみました。ますます運動不足になるな~、とか思いながら、Vimeoに登録して「仮設の映画館」の『タゴール・ソングス』に入ってみると、何と! 劇場が選べるようになっているではありませんか。「どこの劇場で見ますか~?」と、東京のポレポレ東中野から始まって、横浜のシネマ・ジャック&ベティ、あつぎのえいがかんkikiとうちの近辺では3館、そのほか、日本全国のたくさんの映画館の写真がずらりと並んでいます。ふるさと納税じゃないけれど、「今回はふるさとの映画館でこの映画を見てみよう!」とか、「新潟の高田世界館って、一度行ってみたかったの。この機会に、高田世界館で見たい!」ということもできるわけですね。なかなか粋なおはからいです。
で、劇場を選ぶとこんな画面 ↑ が出てきて、実際に劇場の椅子に座っているような感じを、少しだけ味わえます。本当はこの画面にもあるように、画面の写真や動画を撮ってはいけないんですが、今後ご覧になる方へのご案内ということで、本編前の写真1枚だけお許し下さい。あとは全画面にして、映画が始まるのを待っていればいいだけです。1日間(24時間)の鑑賞期限なので、その間なら、一度全編を見てからまた戻っても、いいシーンを探し出してそこだけもう一度見てもOKです。私も昼間にじーっくりと見て、歌のリスト作りのためにまた戻って、さらに今、ブログを書くために早回しというか、早進みでピックアップしながらまたまた見て、いろいろ確認したところです。
どんな場面でどんな歌が出てくるのかお楽しみに、というところですが、私が好きなのは始まって間もなくの所で、地元の人たちが歌うのをカメラが捉えるシーンです。マンガルスートラ(既婚の印の首飾り)をして、ちょっとモダンなサリーを着た40歳前後の奥さんが歌う「♫私がほしいのは/Amaro Porano Jaha Chay」、その後少しして夜のバザールのシーンが出てくるのですが、そこで小学生の男の子(?黄色いダウンを着ているので、女の子のようにも見えます)が歌う「♫灯という魔法の石よ/Agner Poroshmoni」、そして直後に、別の女性が好きなタゴール・ソングとして「♫あなたを想う、異国の女(ひと)/Ami Chini Go Chini Tomare Ogo Bideshini」を挙げたものの、詩なら暗誦できるんだけど歌はダメなの、と言ったら、間髪入れずに隣にいたおじさんが歌い出し、そのまた隣のおじさんも歌い出してデュエットになる、というシーンです。ここは、何度見ても胸がジーンとしてしまいます。ごくごくフツーのおじさんたちなのに、この歌を歌っているとお二人が、サタジット・レイ監督の映画『チャルラータ』(1964)(タイトルのカタカナ表記は「チャルロタ(ヒンディー語読みならチャールラター)」が正しいのですが、日本で1975年に初めて公開された時にこういう表記になってしまったので、2015年に再度公開された時もそのままになりました)に出てきたハンサム青年、ショウミットロ・チャテルジーに見えてきてしまいます。ちょうどYouTubeに画像があったので、付けておきますね。
AMI CHINI GO CHINI - CHARULATHA
一般の人だけでなく、プロの歌手、ラップのグループ、放浪する吟遊詩人バウルなどなど、たくさんの人が出てきて歌を披露してくれます。タゴール・ソングの時は、画面にベンガル語と日本語でタイトルが出てくるので、よくわかります。で、今回は昼間少し時間をかけて、エンドロールにあるローマナイズの「登場タゴール・ソング一覧」を書き写し、それぞれどこの歌か、というのもチェックしてみました。試写の時にいただいたプレス(公開時にはパンフレットに編集し直されます)には「採録シナリオ」が掲載されているので、それでどのシーンでどの歌が歌われたのかはわかるものの、「採録シナリオ」は日本語のタイトルだけしか出てないのです。画面にはベンガル語と日本語、エンドロールにはローマナイズ、という形なので、何とか3つの言語での一覧表ができないかな、と思っているのですが、ベンガル語のフォントを見つけないと、ですね。せめて、ローマナイズと日本語の対照表を作ってみることにします。どれもとてもいい歌で、この前歌詞の一部をアップした「♫ひとりで進め/Ekla Chalo Re」のように、くり返し出てくる歌もあります。
「♫私を連れて行ってくれるのは誰/Bhenge Mor Gharer Chabi Niye Jabi Ke Amare」
ひとつ残った疑問点。そのエンドロールの曲リストの中に、「♫Tahar Majhe Bijoy Mara」というタイトルがあったのですが、これがどの曲なのかわかりません。小学生の女の子たちが、プロ歌手でもあるレズワナ・チョウドリ・ボンナ先生から習っている歌の歌詞がそのようにも聞こえるので、「手には勝利の花輪」という歌がこれかも知れません(でも、それなら vijay mala विजय माला なので、bijoy malaでは? とか、昼間いろいろ悩んでいました)。というように、1,800円では申し訳ないぐらい、たーっぷりと楽しませていただきました。この仮設の映画館、観客にとってはすっごくお得です。皆様、ぜひどうぞ仮設の映画館に一度足を(手を?)お運び下さい。
『タゴール・ソングス』の公式サイトはこちらです。公式サイトでは予告編が見られるほか、タゴールについてや、ベンガルという土地について、それから『タゴール・ソングス』に登場する人たちについて、とても詳しい解説がなされています。お時間があれば、公式サイトを読破なさってから映画をご覧になると、映画がとてもよくわかると思います。ベストの見方は、「映画鑑賞 ⇒ 公式サイトを隅から隅まで読む ⇒ 再び映画鑑賞」、さらに、「公開されたらスクリーンでもう一度見る」ですねー。この映画は、やっぱり大きなスクリーンで見る価値があります。インドの西ベンガル州とバングラデシュの日常の風景を、見事に切り取ってカメラに収めてあるので、人物が登場しない、語らないところもとても見応えがあるのです。ハウラー橋のシーン、ダッカの市場のシーン、村でじゃれあう(ケンカしてる?)2匹の山羊さんのシーン、列車の屋根から見たベンガルの大地のシーン等々、もう一度見たいシーンがいっぱいあります。これは、佐々木美佳監督の力もさることながら、撮影の林賢二さん、録音・編集の辻井潔さんの腕にも負うところが大なのでは、と思います。
「♫赤土の道/Gram Chara Oi Ranga Matir Poth」
仮設の映画館で『タゴール・ソングス』をご覧になったら、ぜひご感想をこのブログへのコメントでお寄せ下さい。YouTubeと違って、Vimeoはコメント欄はなかったんです、というか、「無効」になっていました。そのかわり、佐々木監督のご挨拶がボーナスで付いていて、日本語のほかベンガル語の部分もあったので、こちらもお見逃しなく。ついでに、英語とヒンディー語の挨拶も入れておけばよかったのでは、佐々木監督。インドやバングラデシュの人は、バイリンガルどころかトリリンガル、クアトロリンガルの人も多いため、あんまり驚かせる効果はないでしょうが、それでもヒンディーワーラー(ヒンディー語話者の人)やベンガル語がわからないインドの人に大いにアピールすると思います。次回はぜひご検討下さい。