アジア映画巡礼

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夏休みにお勧めのベトナム映画『草原に黄色い花を見つける』

2017-08-01 | 東南アジア映画

ベトナム映画の秀作が、この夏休みに公開されます。一昔前は、ベトナム映画と言えばトラン・アン・ユン監督作品(『青いパパイヤの香り』(1993)、『夏至』(2000)など)がイメージを独占していましたが、その後、『モン族の少女 パオの物語』(2006)や『地球でいちばん幸せな場所』(2007)のような、ベトナムの今が見える堅実な作品も公開されました。そして現在では、『CLASH クラッシュ』(2009)などのアクション映画から、韓国映画のリメイクであるコメディ映画『ベトナムの怪しい彼女』(2015)まで、バラエティに富んだ作品が日本でも紹介されるようになりました。今夏公開されるベトナム映画は、30年ほど前の農村の子供たちを描いた作品で、『草原に黄色い花を見つける』という題名です。まずは、基本データからどうぞ。

『草原に黄色い花を見つける』 公式サイト
2015年/ベトナム/カラー/103分/原題:Tôi Thấy Hoa Vàng Trên Cỏ Xanh/英語題:Yellow Flowers on the Green Grass
 監督:ヴィクター・ヴー
 出演:ティン・ヴィン、チョン・カン、タイン・ミー、マイ・テー・ヒエップ
 配給:アルゴ・ピクチャーズ
8月19日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

© 2015 Galaxy Media and Entertainment. All rights reserved. 

舞台となるのは1989年、ベトナム中南部フーイエン省にある緑豊かな農村です。主人公は小学生の男の子ティエウ(ティン・ヴィン)で、両親と弟トゥオン(チョン・カン)の4人で暮らしています。ティエウにとって弟は遊び相手なのですが、まだ幼いため、時にはイラついて意地悪をしてしまうことも。1976年に南北ベトナムが統一されてから10年以上経ちますが、のどかな村にもベトナム戦争の影は残っており、いつもティエウにお話を聞かせてくれるダンおじさんには右腕がありませんでした。でも、ダンおじさんは村の教師ニャン先生(マイ・テー・ヒエップ)の娘ヴィンと恋仲で、幼いトゥオンがデートの連絡役になっていました。

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ダンおじさんの怪談話にビビるティエウは、夜にお使いを頼まれると、通り道にあるユーレイの木にびくつきながら夜道をかけていきます。ティエウが向かった村の雑貨屋には、ティエウの同級生で髪の長い女の子、ムーン(タイン・ミー)が母親に代わって店番していました。ムーンの父は何かの病気らしく、店の前の小屋にこもっていて姿を見せません。それが気になりながらも、ティエウはムーンといるのが楽しく、放課後海辺に誘ったりして仲良くします。一方、弟のトゥオンには、かわいがっているカエルのほか、そっと訪れる「王女様」がいました。その王女様の正体とは...。

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ちょっと覚えにくい邦題は、2016年に大阪アジアン映画祭で上映された時のもので、原題をほぼそのまま訳しています。ベトナム語の原題を逐語訳すると、次のようになります。「花」や「草」は中国語の発音と似ていますね。

Tôi  Thấy  Hoa  Vàng  Trên  Cỏ  Xanh

私は 見る   花  黄色の  の上  草   緑の

今回の公開にあたって 配給会社アルゴ・ピクチャーズでは、『草原に黄色い花を見つける』という邦題に関していろいろ検討を重ねたそうですが、やはりこのタイトルがぴったり、ということで、このままになったそうです。確かに、主人公たちの暮らす農村や近くに展開する山や森、草原などは豊かな緑に彩られていて、原題の「緑の草原」という表現がぴったりです。たんぽぽのような花で引っ張りっこをしているシーンもあり、黄色い花も登場します。子供も大人も、自然と調和しながら暮らしていた時代を思い起こさせますが、そんなのどかな農村にも、体を病んだ人、心を病んだ人がおり、災害も襲えば困難も降りかかってくる...。日常のごく普通の風景が描かれるかたわら、様々なことに遭遇して主人公たちが一歩一歩大人になってゆく様子が愛おしさを込めて描かれていて、どのシーンにも心惹かれるものがあります。

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中でも素晴らしいのは、主人公を演じる3人の子役たちの魅力で、あとでプレスを見てみると、3人ともすでに多くの演技実績を持つ子役たちだとのこと。自然な表情と台詞回しはとてもそんな風には見えず、演技のクサさがまったくなかったのに驚かされました。これは、監督の演出力が優れていたからでしょうか。ヴィクター・ヴー監督は1975年にアメリカの南カリフォルニアで生まれ、大学で映画制作の学位を取得。ハリウッドでの映画制作経験を経て、2003年に長編劇映画デビュー作『First Morning』を撮ったあと、2009年にはベトナムに移り住みました。2010年にはサスペンス、2011年にはコメディ作品を作り、その次に撮った時代劇ファンタジー・アクション『ソード・オブ・アサシン』(2012)が大ヒット。日本でもDVD化されています。以後、ホラーにサスペンス、コメディと何でもござれの活躍ぶりで、そういった彼の娯楽作とはちょっと趣を異にした本作『草原に黄色い花を見つける』も大ヒットさせ、今やベトナム映画界随一のヒットメーカーと言ってもいいかも知れません。

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『草原に黄色い花を見つける』は原作の小説があるそうで、アメリカ育ちでベトナムでは子供時代を過ごしていなかったヴー監督だからこそ、ノスタルジーと外からの鋭い観察眼とで、小説を元にこんなにも叙情的で豊かな世界をスクリーンに登場させることができたのではないかと思います私が特に印象に残ったのは、中秋節(陰暦8月15日)を村人が家の前庭で祝っているシーン(↑)で、素朴なランタンの光に村人たちが浮かび上がる様はとても幻想的でした。ベトナムの観客たちもいろんな記憶を呼びさまされ、それが本作への熱烈な支持につながって大ヒットになったようです。日本人のメンタリティにも響き合うところが多々ある作品なので、大人から子供まで楽しめる1作と言えるでしょう。夏休みはぜひ、30年前のベトナムの田舎に吹く風や降る雨を感じてみて下さい。予告編を付けておきます。

ヴィクター・ヴー監督作!映画『草原に黄色い花を見つける』予告編



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