3月の大阪アジアン映画祭で上映された、韓国映画『下女』と『ハウスメイド』。この両者の対決、どうだったんでしょうね。『下女』を50年ぶりにリメイクしたのが『ハウスメイド』なのですが、どちらの方が観客の印象に残ったのでしょう? まず、両方のデータを並べてみます。
『下女』 (1960年/モノクロ) 監督:キム・ギヨン/主演:キム・ジンギュ(夫)、イ・ウンシム(下女)、アン・ソンギ(息子) 予告編(最近作られたもののようです)
『ハウスメイド』 (2010年/カラー) 監督:イム・サンス/主演:チョン・ドヨン(メイド)、イ・ジョンジェ(夫)、ソウ(妻)、ユン・ヨジョン(先輩メイド) 予告編 日本の配給会社ギャガの紹介サイト
3月に香港で『ハウスメイド』のVCDを手に入れたので、見てみました。
この画像の右下に、三角マークに入った「Ⅲ」の字がありますが、これは香港映画の検閲カテゴリーの「Ⅲ級」ということを示しています。
香港で上映される映画の検閲カテゴリーは4つに分かれています。Ⅰ級は誰でもOK、あとⅡ級はAとBがあり、ⅡAは「児童不宜」、つまり児童には宜しくありません、見ちゃダメよ指定、そしてⅡBは「青少年及児童不宜」、そしてⅢ級は「只准十八或以上人士観見」で18歳未満の人は見られないという建前になっています。えー、香港のことですので、あくまでも建前ですが。
中国語ではフィルムのことを「片」と言うので、このⅢ級に指定された映画は「Ⅲ級片」と呼ばれるわけですが、それは「ポルノ映画」とほぼ同義語として使われています。むしろ、「この映画は”Ⅲ級片”ですぜ~」と宣伝した方がお客が興味を持つことも多いので(笑)、新聞の映画広告にはでかでかとⅢ級マークが使ってあったりします。あと、汚いののしり言葉が満載だとⅢ級指定されることがあり、張之亮(ジェイコブ・チャン)監督の『籠民』 (1992)はこれで引っかかったため、監督らスタッフ・キャストが烈火のごとく怒っていたこともありました。
で、『ハウスメイド』ですが、このマークにたがわずⅢ級片シーンがあちこちに。特に、イ・ジョンジェのファンには目の毒なシーン(いや、目の保養と言うべきか?)が結構あって、見終わるとそこしか印象に残らなかった、というていたらく。実は私も、イ・ジョンジェ様好きなんです....。
全体としては、『下女』とはまったく別物の映画、という印象です。リメイク、と言うより、プロットを借りて別の次元で描いてみたという作品になっています。比較するのはナンセンス、という感じなのですが、夏の終わりに公開されるという『ハウスメイド』の参考用に『下女』を見てみたい方には、タイミングよく東京での上映が予定されています。
「映画の授業」@アテネ・フランセ文化センター
『下女』(ビデオ上映) 5月28日(土) 18:00- / 5月31日(火) 15:40-
場所/問い合わせ:アテネ・フランセ文化センター TEL:03-3291-4339(13:00-20:00)
『下女』はアン・ソンギのファンの方にも必見です。ソンギ坊やの表情がよくわかるYouTubeの映像を付けておきます。シーン分析ということで外国人研究者がアップしたようで、映画自体の音声はありません。
故キム・ギヨン監督の”怪物的世界”は、やはり彼にしか作れない特異なもの。『ハウスメイド』はイム・サンス監督の美意識と、チョン・ドヨン、イ・ジョンジェ、ユン・ヨジョンらの演技対決を見る作品として楽しんだ方がいいようです。