アジア映画巡礼

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祝!1ヶ月ロングラン『ジャッリカットゥ 牛の怒り』余談:インドの牛と水牛

2021-08-17 | インド映画

7月17日(土)に公開されたインド映画『ジャッリカットゥ 牛の怒り』。8月17日現在、しぶとくシアター・イメージフォーラムさんでまだ逃げ回っているようです。しかも出現が1日3回! 公開当初は4回興行で、「すごいなあ~」と思っていたのですが、その逃げ足衰えず、といったところです。ご覧になった皆さんのご感想@ツイッターが後押ししているのでしょうね。そう言えば、昨日だったかはarukakatさんこと高倉嘉男さんの感想が出ていましたね。さすが高倉さん、高評価だったので、これを機にぜひ南インド映画にもどっぷりとハマっていただきたいものです。

©️ 2019 Jallikattu

ところで『ジャッリカットゥ 牛の怒り』、もうちょっとだけ書いておきたいことがあったので、2回ほど書かせていただきます。1回目は、インドのヒンドゥー教神話における「牛」と「水牛」のイメージです。「牛」は皆さんご存じのように、シヴァ神の乗り物であり、クリシュナ神の友である聖なる動物というイメージが強いと思います。たとえば、こんな感じですね。昔買ったインドの絵はがきですが、クリシュナ神の後ろに白い牛がいる、という構図はとてもポピュラーです。

それから、こちらはシヴァ神の乗り物である雄牛ナンディン。南インドのカルナータカ州ベンガルールにある寺院に鎮座まします巨大なナンディンです。前に立つお坊さんも相当な貫禄ですが、それを見下ろすナンディン様のでかいこと! アップ画像も付けておきます(あらら、お坊さんまでどアップにしてしまった...)。

そしてこちらは、インドの神様シールに見られる、カーマデーヌ、あるいはゴゥマーターと呼ばれる牛です。体内に多くの神様を宿した雌牛で、持ち主の望みを何でも叶えてくれるとか。角にはブラフマー神、頭にはインドラ神、額にはアグニこと火の神等々、あるサイトでは64の名前が上げられていましたが、「何千万という神がいる」と述べているサイトもあり、とにかく雌牛1頭で世の中の神様すべてが間に合うという感じです。

ところで右側の水色をバックにした雌牛さん、おわかりでしょうか、尿をシヴァ神のリンガに掛けていますね。リンガの代わりに素焼きの小さな瓶を持って牛の尿を受けていたのが、『ジャッリカットゥ 牛の怒り』の中のポールじいさんです。ポールじいさん、キリスト教徒なのに牛の尿を信仰してるんだ~、とちょっと不思議でしたが、これだけの神様が宿る雌牛が排出する尿は、キリスト教徒だって大事にするわさ、ということだったのでしょう。自分が飲むのか、それとも、農園のハーブなどに掛けてやるためだったのか。そのあと水牛が出現して大騒ぎになってしまったので、ポールじいさんが大事そうに地面に置いた瓶の中の尿がどうなったのかはわかりません。

©️ 2019 Jallikattu

このポールじいさん、実はもう1箇所、面白いイメージを出来させる手助けをしてくれています。ポールじいさんはハーブ畑をめちゃくちゃにされたので、まず警部補の所に訴えに行き、警部補と新婚の妻が犬も喰わないどころか、水牛だって喰わないだろうというえげつないケンカをしている最中だったため、あえなく門前払いを喰らわされます。そこであきらめるようなポールじいさんではありません(村一番の粘着質と見た)。次に行ったのは大きな商店の主人の所で、お役所向け書類書きに長けているらしきこの主人に頼み、地方長官に提出する嘆願書を作ってもらいます。主人が書き上げたのを読み上げて、ポールに確認を取るシーンがありましたが、そこで問題になったのが「マヒシャ」です。「悪魔の水牛」に「マヒシャ」とルビを振っておきましたが、実はこれのことなんです。下は「ドゥルガー女神賛歌」というマントラ(経文)が書いてある小冊子です。

ライオンに乗ったドゥルガーに右足で踏みつけられているのがマヒシャなんですね。脇役なので、頭の一部しか出してもらえないトホホな存在なんですが、悪魔アスラの名前で「水牛」という意味なんだそうです。菅沼晃先生の「インド神話伝説辞典」によると、「このアスラは苦行の結果、その力が非常に強大となり、神々をも破って天界に居すわってしまった。神々は絶望的になり、天界をさまようばかりであったが、ヴィシュヌ神とシヴァ神のすすめによって彼らの力を集中し、火を噴出して、それにより恐ろしい形相をしたドゥルガー女神が生まれ出た。ライオンに乗り、神々から与えられた武器で武装した女神は、さまざまに姿を変えるマヒシャを攻め、悪魔が水牛の姿となった時にその首を切り落とした」とのことで、上のような図に描かれるのですね。このエピソード、何となく映画のストーリーにも被りますね...。というような、『ジャッリカットゥ 牛の怒り』なのでした。

©️ 2019 Jallikattu

さて、イメージフォーラムでの水牛暴走はいつまで続くでしょうか? まだまだ意気軒昂そうなので、緊急事態宣言終了といい勝負かもしれません。皆さんはもうご覧になったと思いますが、まだの方は油断せずお早めに劇場にお出かけ下さい。ソフトが出ないという話もチラと耳にしたので(ガセネタかも知れません)、見られる時にぜひ見ておいて下さいね。公式サイトはこちらです。名古屋のシネマテークで現在上映中ですし、京都の出町座、大阪のシネヌーヴォなどももうすぐ公開です。水牛クン、大暴れして、新型コロナウィルスを踏みつけ蹴散らしておくれ!


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