デリーで見逃したヴィッキー・カウシャル(コウシャルでもOK。どちらにすべきか悩んでます)のヒット作『Uri: The Surgical Strike(ウリー:ピンポイント攻撃)』を見てきました。事前に、ポポッポーさんがブログに書いていらした紹介をよーく読んで、歴史的な経緯も多少知った上で見たのですが、それがよかったのか集中して見ることができました。映画は英語版Wikiでまとめてあるように章立てになっていて、主人公ヴィハーン・シン・シェールギル(ヴィッキー・カウシャル)にとってそれぞれに違った展開が待っています。
1. Seven Sisters(7人の姉妹)
マニプール州の森の中を行くインド陸軍の車列。兵士たちが乗るバスの車中では歌声が響いていたのですが、突然車がパンクして停止したかと思うと、森の中から数十人による銃撃が始まります。最後には仕掛けられた爆弾でバスが吹っ飛ばされ、多くのインド軍兵士が亡くなります。2015年6月10日の、東北インド反政府ゲリラによる攻撃でした。少佐であるヴィハーンや同僚であり、姉ネーハーの夫でもある少佐カラン・カシャプ(モーヒト・ライナー)はすぐさま反撃部隊を組織して森の中にある反政府組織のアジトを襲撃、リーダーらを射殺します。その功績が称えられて、部隊はモーディー首相(ラジト・カプール)の晩餐会に招待されますが、その席でヴィハーンは退役を申し出ていることがわかります。母親がアルツハイマーで、その看護にあたるためでした。ですが首相は慰留し、ヴィハーンは事務職として留まることになります。
2. An Unsetting Peace(ゆるぎない平和)
こうして事務室勤務となったヴィハーンでしたが、慣れぬデスクワークに疲れを覚える日々でした。同じ事務室には気になる女性がいて、シーラト・カウル(キールティ・クルハーリー)という彼女は空軍のパイロットだったのですが、陸軍軍人だった夫が殉職したあと、事務職となったのでした。一方、ヴィハーンの母には徘徊が見られるようになり、政府から派遣された看護師ジャスミン(ヤーミー・ゴウタム)の目を盗んで町に出てしまいます。ヴィハーンや姉ネーハーが探し回りますが見つからず、非難の目を向ける彼らにジャスミンは見つかったことを告げますが、そこで彼女の正体がばれてしまいました。ジャスミンはインド情報局から派遣されたスタッフで、看護師ではなかったのです。ヴィハーン一家をテロリストの報復から守るために看護師に化けて潜入していたジャスミンは、その後は情報局職員としてヴィハーンに接するようになります。
3. Bleed India with a Thousand Cuts(多くの傷に血を流すインド)
そうこうしているうちに、各地でのテロ攻撃がひんぱんに起きるようになります。主体はイスラーム教徒テロリストで、拠点は国境に近いパキスタン側にある模様でした。そして、ウリーでの軍営襲撃事件が起きます。2016年9月18日、陸軍兵士に化けた4人のテロリストが金網を破って侵入し、全員射殺されたものの、インド側にも19人の犠牲者が出たのです。そして、その1人がヴィハーンの親友で義兄のカランだったのでした。身重になっていたネーハーと姪がカランのひつぎに献花する姿を見て、ヴィハーンは報復を誓います。同じく、これ以上テロリストをのさばらせておけない、と考えた政府顧問のゴーヴィンド・バールドワージ(パレーシュ・ラワル)は、首相ら政府首脳と共に作戦を考えます。それが、テロリスト拠点へのピンポイント攻撃でした。
4. Naya Hindustan (New India)(新生インド)
しかし、テロリスト一掃のためとはいえ、パキスタン領内に侵入するわけですから、これは両国間の全面戦争につながりかねません。そのため、この作戦は軍や情報機関等いくつかの組織が協力して、極秘に進められることになりました。特殊部隊が組織されると聞いたヴィハーンは、自分も参加したいと直訴します。こうして作戦の決行日は2016年9月28日と決められ、衛星通信システムやドローンなど、あらゆる手段が使われて敵の本拠地がさぐられ、また、パキスタン軍のヘリに偽装したものを用意するなど、周到な準備が急ぎ重ねられます。情報戦にも力が入れられて、関係者は緊張の極みに。
5. The Surgical Strike(ピンポイント攻撃)
そしていよいよ、複数の本拠地を同時攻撃する作戦が開始されます...。
この章立てを始め、脚本も緻密に考えられていて、観客側も一瞬たりとも気が抜けない状態で最後まで引っ張られていきます。いかにもインド映画らしい家族愛、友情などのオーバー・プレゼンスはありますが、それが緊張を薄めることにはならず、大きな流れの中のちょっとした味付けという感じで、気になりません。監督と脚本を担当したのはアーディティヤ・ダルという、まだ35歳の人で、これが初めての監督作品であり、それまでは作詞やセリフ作家、歌手として仕事をしていたので、脚本家としても初めてです。お話の構築、筋進行のリズムが優れているので、アメリカ映画を見まくっていた人かも知れません。というわけで、戦争映画としてとても面白くできています。インドの愛国主義が目に付いたり、パキスタンに潜入しているエージェントのやり方があまりにも大胆だったり(これは、『Raazi(承認)』でも思ったのですが、パキスタン側を弱く描くというのが定番なのでしょう)と気に掛かるシーンはあるものの、アクション映画としても高水準で、ハリウッド映画に劣りません。予告編はこちらです。
URI | Official Trailer | Vicky Kaushal, Yami Gautam, Paresh Rawal | Aditya Dhar | 11th Jan 2019
俳優陣もみんなうまいのですが、中でも、ヴィッキー・カウシャルの魅力はこの作品で全開、といったところ。『Sanju(サンジュー)』(2018)の時はまだ線が細い感じでしたが、大人の男の魅力バリバリで、これは3人のカーンなど抜いて一挙にトップ男優になる可能性も。楽しみですね。また、テレビ俳優だったモーヒト・ライナーもチャーミングで、これから人気が出ることと思います。DVDリリースでもいいので、日本の配給会社様、買って下さいませ~。