私の2日目は雨でした。でも、天気予報では「雨のち晴れ」なので、折りたたみ傘を手にして銀座へ。インバウンドの観光客たちが、少々の雨はものともせず、傘やレインコートなしで行き交っています。で、シネスイッチ銀座のプレス試写で2本見たのですが、そのご報告の前にラッキーだったことを書いておきます。
最初の試写で出会った「シネマジャーナル」Mさんが、「映画祭の事務局にあなたの忘れ物が置いてあったわよ」と教えてくれたのです。10月26日(土)に、ミッドタウン日比谷9階にあるTIFFの事務局にプレスパスをもらいに行ったのですが、その時ゲストパスももらえるはず、と思って聞いたら私の名前のパスはなく、事務局の方がいろいろ調べて下さっている間、イスに掛けてちょこっとファイルを取り出しあれこれチェックしていたのです。で、名前を呼ばれて「ゲストパスはまだ出ていないみたいです。審査員経験者のはカテゴリーが別なので、遅いみたいです」と告げられ、「では、また来ますので」とその場を離れたのですが、その時取り出したままのファイルをデスクの上に忘れてきたのでした。帰宅してファイルがないのに気がついたものの、どこで忘れたのか思い出せず、まあ、作りかけのレジュメ原稿やTIFFのラインアップ発表でもらった資料とかだから、いいか、なくても、とすぐに忘れてしまったのです。とはいえ「まったく、物忘れ&忘れ物が増えて、老人力がどんどんついてくるなあ」と情けない思いはしていたので、「忘れ物を見た」という情報はまことにありがたく、1本目が終わったらすぐ事務局に行き回収してきたのでした。透明なクリアファイルだったのですが、上に「東京国際映画祭PRESS」という、以前取材時にもらったステッカーをそのまま貼っていたため、そう言うとすぐ「ああ、あれですね」とカウンターの方が出して下さいました。さらにゲストパスもできていて、二重にラッキーな事務局訪問でした。Mさん、ありがとうございました!
で、ミッドタウンの地階でヴェトナム料理のお昼を食べ(”料理”というには少々情けないですが、とてもおいしかったです。これで1,100円。都心は高い😭)、シネスイッチ銀座に戻って2本目を見たのですが、1本目、2本目とも香港映画で、どっちもとってもつらい作品でした。ささっとご紹介してしまいます。
『母性のモンタージュ』
©No Ceiling Film Production Limited
2024年/香港/広東語/111分/原題:虎毒不
監督:オリヴァー・チャン [陳小娟]
出演:ヘドウィグ・タム、ロー・ジャンイップ、ジャニス・パン
©No Ceiling Film Production Limited
主婦の淑貞(ヘドウィグ・タム/談善言)は結婚6年目の35歳で、やっと女の子を授かりました。夫はひとり息子で、夫の両親と同居しています。妊娠するまではベーカリーで働いていた淑貞は現在は産休中ですが、10年以上ベーカリー勤務の経験があるため職場でも頼りにされており、早く復帰したいと願っています。とはいえ、出勤中の授乳のために搾乳機でお乳をしぼるなど、職場復帰にはいろいろ困難がつきまといます。姑は「粉ミルクにすれば?」と言いますが、母乳で育てる方が絶対いい、と信じている淑貞は自分の方針に固執します。夫は仕事や仲間との付き合いで忙しいものの、育児はよく手伝ってくれます。ところが、その「手伝う」という態度がまた気に入らず、淑貞はイライラ。おまけに赤ん坊がよく泣く子で、夜泣きをしたりすると舅や近所から文句が出るため、赤ん坊を抱いて夜中に外に出て行き、あやしたりしないといけません。職場復帰後も預けていた赤ん坊が熱を出して早退したりするうちに、淑貞はやめざるを得なくなってしまいます。その後いい保育ママさんが見つかり、職探しを開始しますが、次の職場はなかなか見つからず、やがてその保育ママさんも息子のいるカナダに行くことになって、淑貞はますます追い詰められていきます....。
©No Ceiling Film Production Limited
よく泣く赤ちゃん、という設定なので、とにかく泣くシーンがたくさん出て来ます。見ているうちにだんだんと、泣き待ち、とかできるわけではないので、赤ちゃんを無理に泣かして撮っているのでは、とか思い始めると、もういけません。見続けるのが息苦しくなる作品でした。新米の母親が産後鬱になる経緯をとてもリアルに描いているのですが、リアルすぎてつらい作品で、今年から設けられた「ウィメンズ・エンパワーメント」部門に選ばれているものの、これでは励まされないよー、と思ってしまいました。監督のオリヴァー・チャン(下写真)は、アンソニー・ウォン主演の『淪落の人』(2018)の監督ですが、もうちょっと救いを入れておいてほしかったです。
『赦されぬ罪』
2024年/香港/広東語/84分/原題:不赦之罪
監督:ジェフリー・ラム、アントニオ・タム [林善, 譚善揚]
出演:アンソニー・ウォン、ルイーザ・ソー、ジョージ・アウ
©Federation of Hong Kong Filmmakers Limited
こちらも、見ているのがとてもつらい作品でした。高潔な牧師として人々に尊敬されているリョン(梁/アンソニー・ウォン)は、実は心に大きな暗部を抱えていました。梁牧師と看護師である妻との間には高校生のかわいい娘がいたのですが、その幸せな生活は娘がレイプされ、その後亡くなったことで一挙に暗転します。ところがある日、そのレイプ犯の青年が教会の信者の孫とわかり、信者だった祖母が亡くなったことで服役後住む家がないことから、教会で同居するようになります。数々の葛藤を乗り越えて、梁牧師はその青年に洗礼を施そうとしますが、その時彼の心の中で何かがはじけ飛んでしまいます....。
©Federation of Hong Kong Filmmakers Limited
アンソニー・ウォンが一段と体重を増やしていて、牧師姿がまず怖いです。彼の妻も、正常さが飛んだような怖さがあって、見ているとだんだん息がつまりそうになってきます。特に洗礼シーンは音声もレベルをアップさせてあるのか、本当に怖くて、私の持病であるメニエル病の発作を発生させ、めまいと吐き気でふらふらに。午前中の作品とのダブルパンチのせいも、あったのかも知れません。終映後30分ぐらいロビーで休んでいたのですが(字幕翻訳者のSさん、心配して下さってありがとうございました)、その後あきらめて自宅に戻りました。ここ2ヶ月ほど、発作も出てなかったのに...。香港映画がトラウマになりそうです。レイプ犯役のジョージ・アウは人気アイドルで、これが映画初出演だそうですが、もうちょっといい作品だったらよかったのにね。
©Federation of Hong Kong Filmmakers Limited
というわけで、昨日はラッキーとアンラッキーが交差する1日でした。今日は自宅で大人しく、字幕翻訳などをやっております。明日は、昼間は新宿K's シネマに、パーヤル・カパーリヤー監督のドキュメンタリー映画で、昨年の山形国際ドキュメンタリー映画祭大賞受賞の『何も知らない夜』(2021/100分)を見に行く予定。インド映画ファンの皆さん、来年公開の彼女の監督作『All We Imagine as Light』の予習のため、見にいらっしゃいませんか? 劇場サイトはこちらです。