第37回東京国際映画祭(以下、TIFF)では、本日よりいただいたプレスパスを使って、シネスイッチ銀座で行われているプレス向けの試写を見始めました。本日は3本見たので、簡単にご紹介します。
『ラスト・ダンス』
©2024 Emperor Film Production Company Limited. All Rights Reserved.
2024年/香港/広東語/127分/原題:破・地獄
監督:アンセルム・チャン [陳茂賢]
出演:ダヨ・ウォン、マイケル・ホイ、ミシェール・ウィ
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道生(トウサン/ダヨ・ウォン)は経営していたブライダル関係の会社がコロナ禍で借金まみれとなり、破産して借金を抱えたまま途方にくれていました。そんなトウサンを救ってくれたのは、ミン(チョーン・プイ)という父世代の知人でした。自身の葬儀会社の跡継ぎにならないか、と声を掛けてくれ、自分は移民するから会社の譲渡金は要らない、ただし家賃は払って会社を引き継いでくれ、という願ってもない条件でした。ただし、ミンの会社には共同経営者がいて、それが老道士の郭文(マン/マイケル・ホイ)で、伝統を守るマンは頑固で口うるさく、トウサンが気に入らないようです。マンは息子の志斌夫婦と孫、そして娘で救急救命士の文玥と住んでいましたが、家でも何かにつけて格式を守り、自分の思い通りにします。とはいえマンは、道士としては皆の尊敬を集めていて、お葬式での「破獄」という儀式をきちんとやれる第一人者として知られており、80歳を過ぎても高額の謝礼をもらう身分でした。トウサンはいろいろ失敗を重ねたあと、やっとマンと心が通じ合うようになるのですが、その頃マンの家族にもいろいろと問題が起こってきます...。
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冒頭に、香港の葬儀は葬儀会社と道士とが一緒になって執り行う、という説明が出て、その実態がかなり具体的に描かれていきます。時には『霊幻道士』風、時には『おくりびと』風なシーンも交えながら、香港の葬送の様々な側面を見せてくれるこの映画、文化記録映画としても、人情話としても一級の作品となっていました。ちょっとギョッとするようなエピソードもあるのですが、マイケル・ホイ、ダヨ・ウォンがさすがにうまく、マンの息子役の朱栢康(トミー・チュー)やチョーン・プイもいい感じで、こういう作品が作れるなら、香港映画は大丈夫だ、と思ってしまいました。11月1日から始まる「香港映画祭」の方でも上映されます。瞬殺でチケットが売りきれる香港映画祭なので、TIFFでこの作品が見られてラッキーでした。
『お父さん』
©Word By Word Limited
2024年/香港/広東語/131分/原題:爸爸
監督:フィリップ・ユン [翁子光]
出演:ラウ・チンワン、ジョー・コク、ディラン・ソウ
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こちらはコンペ作品なのですが、15歳の少年が母親と妹を刺し殺す、という事件が起き、父親である主人公(ラウ・チンワン)がその苦悩に耐えながら、過去を思い出していく、というストーリーになっています。茶餐店を経営する一家の話で、とても仲がよかったのになぜ? という謎を解いていくのですが、描かれる時代があちこちに飛び、凄惨な内容といい、とても疲れる作品でした。救いは登場する飼い猫「三花」で、それが救いへの契機になるのかと思ったのですが...。ちょっと重すぎる作品でした。
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『黒の牛』
©NIKO NIKO FILM / MOOLIN FILMS / CINEMA INUTILE / CINERIC CREATIVE / FOURIER FILMS
2024年/日本、台湾、アメリカ/日本語/114分
監督:蔦 哲一朗
音楽:坂本龍一
出演:リー・カンション、ふくよ(牛)、田中泯
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寓話みたいな始まりのまま、ほとんどセリフはなく、山から外に出て来た男が各地を放浪し、黒い牛と出会って農業に従事したり、その牛を人に貸したりして日々を送る、という物語です。リー・カンション(李康生)は出ずっぱりで、シャオカン君のワンマンショーといった趣が強い作品です。自然の移ろいを描く、というと聞こえがいいですが、どうもスモーク処理とか消防車放水による雨とかの臭いがするシーンもあって、ちょっと興ざめが。下のシーンも、画面に現れた時は、おお、美しい、と思ったのですが、その後、このスモーク、自然の霧じゃなくて作ってない? という場面が続き、だんだんこちらの目が皮肉っぽくなっていってしまいました。ラストはあっと驚くようなことが起きるのですが、それでオチが決まったかと言うとそうでもなく...。シャオカン君、お疲れ様でした(としか言いようがない)。
©NIKO NIKO FILM / MOOLIN FILMS / CINEMA INUTILE / CINERIC CREATIVE / FOURIER FILMS
そして、本日のハイライトは、「交流ラウンジイベント/パヤル・カパーリヤー×是枝裕和対談」でした。でも、『黒の牛』のプレス試写上映が終わったのが午後6時近くで、エンドロールは見ないでシネスイッチ銀座を飛び出したものの、外は結構激しい雨が降っており、走ると滑りそうだし、とそろそろと行ったら、開始から10分ぐらい遅れてしまいました。入場手続きやその後の席探しなど、あまり親切な誘導をしてもらえず(きっと主催者側としては、「こんなに貴重なイベントに大幅に遅れてくるなんて」という感じだったのでしょう)、結構あせりました。さらに、隣の方の同時通訳イヤホーンから漏れる音が大きくて困ったものの、言ったら気がついて直して下さったりと、開始20分ぐらいまではろくにお話が聞けずじまい。でも、スピーカーのお二人はとてもゆったりと話をしていらして、特にパーヤルさんはニコニコしながら、明るく親密なお話ぶりで、その感じのよさに引き込まれてしまいました。ご自身の経歴というかドキュメンタリー映画や短編映画を撮ってきた話から、今回カンヌ国際映画祭でグランプリを獲った『All We Imagine as Light』の話に移り、インドでのアート系映画を製作する状況などにも話が及んで、メモを取るのも忘れて聞き惚れてしまいました。そして、司会の市山さんからは、「『All We Imagine as Light』は来年7月に公開される予定で」というお話も出て、予告編上映に。それだけでも感激してしまいましたが、会場には、配給会社のセテラ・インターナショナルの方もいらしてました。字幕は藤井美佳さんになるといいなあ。セテラ配給で現在公開中のパキスタン映画『ジョイランド わたしの願い』(2022)も藤井さんの字幕なので、そうなることを願いましょう。
対談中は撮影禁止で、最後にフォトセッションがあったのですが、もう大人気のお二人でした。手前の「リザーブシート」に掛けている方たちは、東南アジア諸国の映画祭コーディネーターの人たちです。何で知っているかというと、このフォトセッションをしている時、交流ラウンジの共同主催者でもある国際交流基金の方が声を掛けて下さって、そのことを教えて下さったもので、東南アジア各地の若い映画コーディネーターを招待し、TIFFで交流してもらうのを目指している、とのことでした。将来はインドからも、と考えている、と言っておられたので、うーん、インドの映画祭コーディネーターなんていたかなあ、と一瞬目が泳いでしまったのですが、ケーララとかムンバイの映画祭では育っているかも知れませんね。
最後に、パーヤルさんに来年の卓上カレンダーをプレゼントし(この時期の私の定番。インドの人には鳩居堂で売っているこの小さなカレンダーの評判がよくて、友人のナスリーン・ムンニー・カビールやシヴェンドラ・ドゥンガルプルも毎年心待ちにしてくれています)、「来年また会いましょう」とインタビュー予約みたいなことを言って、さらに恐れ多くも是枝監督のお写真も撮らせてもらって、会場を離れたのでした(是枝監督、ありがとうございました!)。
パーヤル・カパーリヤー監督、とても小顔なのですが、背は案外高く、ステキな人でした。「映画は大好きでよく見ます」というお話だったので、来年のインタビューでは、どんなインド映画が好きか、小さい時から見ていて一番思い出に残る作品は何か、についても聞いてみたいと思います(インタビューする気満々;;;)。最後に、『All We Imagine as Light』の予告編を付けておきます。『花嫁はどこへ?』のマンジュおばさんこと、チャーヤー・カダムが出ているのがわかりますか? 主演はカニー・クシュルティで、『秘剣ウルミ』(2011)にも出ていたようですが、今度東京フィルメックスで上映される『女の子は女の子』(2024)にも出演しているようです(こちらは藤井美佳さんの字幕ですが、お母さん役かな?)。いろいろ予習しながら、楽しみにして公開を待っていて下さいね。
ALL WE IMAGINE AS LIGHT - Official US Trailer