アジア映画巡礼

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フィリピン映画が熱い夏『ローサは密告された』ほか

2017-07-18 | 東南アジア映画

今年、日本でのフィリピン映画の公開が増えています。本日ご紹介するのはブリランテ・メンドーサ監督の『ローサは密告された』ですが、ちょうどこの夏から秋にかけて他の2作も公開となるので、そちらも簡単にご紹介してしまいます。まずは、『ローサは密告された』のデータからどうぞ。


『ローサは密告された』 公式サイト
2016年/フィリピン/カラー/110分/原題:MA’ROSA
 監督:ブリランテ・メンドーサ
 出演:ジャクリン・ホセ、フリオ・ディアス、マリア・イサベル・ロペス
 配給:ビターズ・エンド
7月29日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー

© Sari-Sari Store 2016

主人公のローサ(ジャクリン・ホセ)は、マニラの下町でサリサリ・ストアと呼ばれる雑貨店を経営しています。家族は夫のネストール(フリオ・ディアス)と、2人の息子に2人の娘。雑貨店と言ってもごく小さい店で、タクシーも入ってくれないような小路の奥にあります。小商いながら一家6人が暮らせているのは、陰で麻薬売買をやっているからで、売人のジョマールが店にやってきて麻薬を置いていき、顧客リストを元に信用できる相手に売るのです。夫のネストールも常習者で、ジョマールが届けた麻薬を小袋に詰め替えたりしながら、自分も吸引しているのでした。

© Sari-Sari Store 2016

ところがローサの店が警察に目を付けられ、ある夕方、何人かの私服警官が踏み込んできます。証拠品はたちまち発見されて、ローサとネストールは警察に連行されていきました。すぐに留置場に入れられるのかと思いきや、裏手の部屋で始まったのは見逃すための袖の下の取引。「20万ペソ(約45万円)で手を打ってやる」「そんなお金ありません」「金がないなら売人を売るんだな」ジョマールを携帯で呼び出すことを余儀なくされ、警官と共に小路の入り口に停めた警察車両に潜み、窓からジョマールを現認させられるローサ。警察に戻ると、ローサとネストールが身を隠す小部屋の前で今度はジョマールが暴力を振るわれ、意識不明に。ジョマールの妻が呼ばれて、釈放のための金額交渉が始まります。一方ローサの子供たちも、釈放に向けていろいろ努力をしますが、その中で聞こえてきたのは「ローサを密告した奴がいる」という話でした...。

© Sari-Sari Store 2016

雨季のフィリピン。場面はほとんどが夜で、しかも雨が降っている、という、閉塞感漂う画面が続きます。ローサの住んでいる地区は「スラム」と説明されていますが、家屋はもう少しちゃんとしていて、下町の商店街といった感じです。肝っ玉母さんのローサに、典型的なフィリピンの優男で、意志が弱い夫ネストール。20歳前後に見える長男ジャクソンは定職に就いておらず、ハイティーンの次男カーウィン(ジョマリ・アンヘレス)もローサに言われた手伝いをするだけ。長女のラケル(ジャクリン・ホセの実際の娘アンディ・アイゲンマン)はしっかり者ですが、警察に押収された自分の携帯を取り戻すことに固執しています。次女のジリアンはまだ中学生。警察署でのシーンのあと、両親を解放するためにまとまったお金が必要と知った子供たちが、様々な形でお金を作ろうとするシーンが登場してきます。

© Sari-Sari Store 2016

固い家族の絆と愛情の前に立ちはだかるのは、警察という名の暴力装置。麻薬売買の罪で逮捕、というのは、現在のドゥテルテ大統領の麻薬撲滅政策に叶ってはいるのですが、その後まさに署の「裏」で「取引」があからさまに行われるのには唖然とせざるを得ません。プレスの解説によると、「令状なしで犯人宅に押し入り、連行後は取り調べもそこそこに一気に見逃し料の話に入っている。流れるような展開で誇張しすぎと思われるかもしれないが、かなり現実に沿っているのだ」(丸山ゴンザレス「映画のリアリティをひもとけば、フィリピンの今が立体的に見える。」)だそうで、「裏」では大っぴらに警官がお金を巻き上げるのが日常茶飯事のようです。

© Sari-Sari Store 2016

しかも、目標金額が設定されていて、それに満たない場合はまるで借金返済指南のように金作りへの”教育的指導”がなされます。それらの金は、取り調べに当たった警官のポケットに入ると同時に、警察上司のフトコロも潤すのでしょう。こうなると、犯罪者はただの金ヅルでしかなく、警察という権力と、銃という武器を用いての金銭巻き上げは、恐喝と何ら変わりません。フィリピン警官の横暴なふるまいは、ブリランテ・メンドーサ監督の以前の作品『キナタイ-マニラ・アンダーグラウンド-』(2009)で見てショックを受けましたが、本作ではそのシーンが二重写しになりました。『キナタイ』以降、『グランドマザー/ばあさん』(2009)、『囚われ人 パラワン島観光客21人誘拐事件』(2012)、『我が子宮』(2012)など様々なテーマを扱ってきたブリランテ・メンドーサ監督が、最も得意とする舞台に戻って来た感じで、リアリティを追求した演出は昨年のカンヌ国際映画祭でジャクリン・ホセに主演女優賞をもたらしました。

© Sari-Sari Store 2016

個人的に驚いたのは、ラスト近くで金策に走るローサが訪れたのがインド人の質屋だったこと。字幕は確か「ラジヴ」となっていましたが、ラージーヴという名前だとしたらヒンドゥー教徒です。インド人街があるような雰囲気も見受けられ、商機があればフィリピンへも、というインド人の存在に驚かされました。夜のシーンが多いこともあって、ぜひ劇場でご覧になることをオススメします。最後に予告編を付けておきます。

『ローサは密告された』予告編


ほかに公開されるフィリピン映画は、次の2本です。

『ダイ・ビューティフル』 公式サイト

2016年/フィリピン/カラー/120分/原題:Die Beautiful
 監督・プロデューサー・原案:ジュン・ロブレス・ラナ
 出演:パオロ・バレステロス、クリスチャン・バブレス、グラディス・レイエス、ジョエル・トーレ
 配給:ココロヲ・動かす・映画社 ○
7月22日(土)より新宿シネマカリテほか全国順次公開

東京国際映画祭W受賞『ダイ・ビューティフル』予告

昨年の東京国際映画祭で上映され、主演男優賞と観客賞をダブル受賞した本作は、公開を待っておられた方も多いことでしょう。今週末から公開です!

 

『立ち去った女』 公式サイト

2016年/フィリピン/タガログ語/モノクロ/228分/原題:Ang Babaeng Humayo/英題:The Woman Who Left
 監督・脚本・編集・撮影:ラヴ・ディアス
 出演:チャロ・サントス・コンシオ、ジョン・ロイド・クルズ、マイケル・デ・メサ、シャマイン・センテネラ・ブエンカミノ、ノニー・ブエンカミノ
 配給:マジックアワー
10月、シアター・イメージフォーラムほか全国順次ロードショー



作品が超長尺であることで知られる、ラヴ・ディアス監督作品の日本初公開です。4時間弱、という『立ち去った女』は彼の作品としては比較的短いのですが、それでも1本を続けて見るのは大変なため、試写では2時間ぐらいのところで休憩が入りました。基本的にカットも長回しで、人によっては退屈しそうですが、絵作りが非常にシャープでワンカットの間の緊張感が途切れません。これは、モノクロ作品ならではの妙味とも言えそうです。とはいえ、わかりやすい話の作り方ではなく、テーマは「何が”罪”なのか」ということだろうと何となくわかるものの、人物も謎を抱えている人が多くて、ラストになるほど混乱してしまいました。というわけで、簡単な紹介ですみません。長回しオッケー、長尺も気にならない、という映画好きの方は、ぜひこのラヴ・ディアスの世界に挑戦してみて下さい! 

The Woman Who Left – Official Trailer



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