アジア映画巡礼

アジア映画にのめり込んでン十年、まだまだ熱くアジア映画を語ります

TIFF Day 8:本日は中国映画特集

2013-10-24 | 映画祭

別に意図したわけではないのですが、今日は中国映画を3本見るという結果になってしまいました。まずDVDライブラリーで<アジアの未来>部門の『今日から明日へ』、そして一般上映の『So Young』、最後は<コンペティション>部門の『オルドス警察日記』です。

『今日から明日へ』は、これが長篇第1作という楊恵龍(ヤン・フイロン)監督の作品。舞台となる唐家嶺は北京の西北に位置する郊外の集落で、そこに大学卒業後正規の仕事になかなかつけない青年たちが住みついたことから有名になった町だそうです。彼らは「蟻族」と呼ばれ、本作の中では学生寮生活のような実態が描かれています。主人公は、保険会社に勤める王旭(唐凱林)と、彼の友人小杰(王道鉄)、そして小杰と同棲している冉冉(舒遥)という、またしても女一男二の組み合わせ。中国語圏映画、この黄金トリオが好きですねー。

王旭は保険会社に勤めているのですが、長時間通勤と保険の営業とで疲れ切っています。地図を見てみると、唐家嶺は中心部から結構離れていて、だからこそ家賃が安いのでしょうが通勤は大変そうです。王旭に紹介されて彼の隣の部屋に越してきた小杰と冉冉は、それまでは二段ベッドが並ぶ雑居部屋だったので、粗末な部屋ながらやっと自分たちのやりたいことをし始めます。小杰は一攫千金を夢見ており、冉冉は生地屋に勤めながら自分のデザインしたドレスの作製に取りかかりました。でも、小杰と、会社を辞めた王旭が変なネズミ講会社に軟禁されたり、冉冉は生地屋の主人にセクハラされたりと、彼らはなかなか「蟻族」から抜け出せません...。

主人公を演じる3人がイケメン&美女で、こういうショボい役よりもトレンディ・ドラマに似合いそうな感じでした。蟻族青年たちの実態は描けているものの、くすぶる青春のドラマに終わってしまっているところがちと残念な作品で、もう少し脚本がよければ、中国の今を切り取るドラマチックな作品になっていたのでは、と思いました。途中、完成したドレスを着て冉冉が踊り出し、アパートの人々がそれに参加する、というミュージカルもどきのシーンがあるのですが、あれはいったい何と解釈すればいいのでしょう? 監督に聞いてみたかったです。

続いては、中国で大ヒットした趙薇(ヴィッキー・チャオ)の初監督作品『So Young』をスクリーン2で。かなり広い会場なのですがチケットは早々に売り切れ、DVDもなかったため、本日朝30分ぐらい並んで招待券をゲットしました。ヴィッキー・チャオがゲストで来日していることもあり、会場は熱気がいっぱい。物語は、鄭薇(楊子女册)が高校時代のボーイフレンド林静(韓庚)を追ってきて大学に入る所から始まります。ところが、林静は鄭薇を振り、結局鄭薇は最初は嫌っていた陳孝正(趙又廷)とつきあうことに。鄭薇のルームメートである美人の阮莞(江疏影)はじめ、他の2人や男子学生も含めた大学生活が進行していきますが....。

前半は大学が舞台、後半はその10年後、社会に出た鄭薇たちの姿が描かれます。非常に手慣れた演出で、冒頭のファンタジー・シーンなども含め、立派に商業映画です。裏を返せば、新人監督らしいフレッシュさや冒険心は感じられず、まさにトレンディ・ドラマそのものになってしまっていました。私的には、ヒロインのキャラと彼女を演じた楊子[女册]にまったく魅力が感じられず、見ているのがとてもしんどかったです。マーク・チャオも光らず、むしろサブのヒロイン江疏影と、林静を演じた韓庚の方にオーラが感じられました。下のポスターの下2人です。

終了後、ヴィッキー・チャオを迎えてのQ&Aがあり、こちらもほとんどの観客が残って熱心に耳を傾けました。司会の石坂健治さんが、「中国からいらしている方は?」と聞くと2割ぐらいの手が上がり、質問者の中にも中国人の方がいたりして、大いに盛り上がりました。質問に答えるヴィッキー・チャオはとても気さくで、かつ真摯に答えてくれて、そのお人柄がよくわかる受け答えでした。Q&Aの模様は、写真をいっぱい付けて明日アップしますのでお楽しみに。

最後は、コンペ部門の『オルドス警察日記』。寧瀛(ニンイン)監督作品で、内モンゴル自治区のオルドスで警察署長を務めた人の伝記映画です。伝記だけの映画でした...。もっといろいろ料理できた素材だと思うのですが、まれに見る誠実な警官で殉職した人、ということから料理しにくかったのでしょうか。素材選びがまずかったのかも。寧瀛監督に我々が期待しているのは、もっと違う映画だと思うんですが。

というわけで、中国映画デーは終わり。実は今日はもう1本、別の日に半分だけ見ていた<アジアの未来>の韓国映画『起爆』もDVDで見終わりました。こちらは面白いテーマを実に巧に描いてあり、脚本のうまさに舌を巻きました。監督と脚本は、キム・ジョンフンです。

高校生の時に嫌いな教師の自動車に爆弾を仕掛け、補導されたジョング(ビョン・ヨハン/堺雅人に激似!)はその後理科系の大学に入り、今は有力な教授の研究室で、副手の仕事をしています。ワンマンで、セクハラ、パワハラしまくりの教授から目の敵にされているジョングは、不満が鬱積すると爆弾を作り、人気のない所で爆破しては憂さを晴らしています。そんな時、教授の授業で学生ヒョンミン(パク・ジョンミン)が教授にかみつき、教室から出て行きます。ヒョンミンに興味を持ったジョングは、彼に爆発物とその使用説明が入った小包を送りつけてみます。するとヒョンミンはとんでもない使い方をし、ジョングは肝を冷やします。ヒョンミンは送り主がジョングであることを突きとめ、2人は仲良くなるのですが、ヒョンミンはジョングの予想を超えた悪魔的な青年だったのです...。

途中思わぬどんでん返しもあり、スクリーンできちんと見ていたらもっとハラハラドキドキしたと思いますが、DVDの分割鑑賞でも大いに手応えを感じさせてくれた作品でした。上はプレスの一部ですが、この2人の演技がすごくて、またまた韓国映画はどえらい俳優を生み出してくれて、と「参りました!」マークをつけたくなってしまいました。キム・ジョンフン監督とビョン・ヨハンくん&パク・ジョンミンくん、しっかり名前を憶えておくからね!

明日の最終日、どの作品が<アジアの未来>で受賞するのか、まったく予断を許しません。授賞結果がわかったら、こちらに追記しておきますね。

2013.10.25追記<TIFF授賞結果>

 <アジアの未来>

 作品賞:『今日から明日へ』/スペシャルメンション『祖谷物語-おくのひと-』

<コンペティション>

 観客賞: 『レッド・ファミリー』 (韓国)
 最優秀芸術貢献賞: 『エンプティ・アワーズ』 (メキシコ=フランス=スペイン)
 最優秀男優賞:王景春(ワン・ジンチュン) 『オルドス警察日記』 (中国)
 最優秀女優賞:ユージン・ドミンゴ 『ある理髪師の物語』 (フィリピン)
 最優秀監督賞:ベネディクト・エルリングソン 『馬々と人間たち』 (アイスランド)
 審査員特別賞: 『ルールを曲げろ』 (イラン)
 東京サクラグランプリ: 『ウィ・アー・ザ・ベスト』 (スウェーデン)

<アジアの未来>は、上でけなしたばかりの『今日から明日へ』が受賞という、私としては意外な結果に。まあ、毎年、私の予想と授賞結果は相反するのが常でして。今回は受賞作を発表する青山真治監督が、「プサンと東京でアジア映画を審査のために20本見ましたが、1本もコメディ映画がなかったのが不満です」という意味のことを言ってらしたのが印象的でした。アジアの若い監督の皆さん、コメディを狙いましょう!

<コンペティション>も『オルドス警察日記』の王景春の男優賞は意外でしたが、ユージン・ドミンゴの女優賞には拍手パチパチ。このお二人、スピーチで笑わせてくれて、「最後になりますが、妻にも感謝しています。それを今ここで言っておかないと、国に帰ったら大変なことになりますからね」という王景春に対し、ユージン・ドミンゴは「フィリピンにいったん戻って仕事をしていたのですが、TIFFから手紙が来て、”朝食券も付けます”と書いてあったのでTIFFに戻ってきました」やら、「また日本に来ますとも。だって、ドンキホーテでのショッピングがまだ終わってないですからね」やら、大いに会場を沸かせました。ユージン・ドミンゴの面目躍如でした。

彼女に影響されたのか、それとも監督自身の持ち味なのか、アイスランドのベネディクト・エルリングソン監督も、馬語(?)で馬たちの受賞の喜びを表現したりして、楽しい授賞式になりました。このほか、イラン映画『ルールを曲げろ』も審査員特別賞を受賞するなど、アジア映画勢は大健闘。皆さん、おめでとうございました!

 


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