チェンナイに来て、当初は相変わらずネットが繋がらない等のトラブルに見舞われました。でも、やっと人と会うアポから解放されて(ムンバイでアポ取りがちょっと大変だったことがありまして。「5時か6時に電話するから」と言われると、その間は映画を見ているわけにもいかず...。インド人は平気で映画上映中も電話してますけどねー)、映画館にも時間を気にせず通えるようになって幸せです。というわけで、チェンナイで見た映画のご報告です。
まず、最初に見た映画が大当たり。チェンナイにはいくつかシネコン@ショッピングモールがあるのですが、数年前にできて、今最も勢いがあるエクスプレス・アヴェニューというモール(上写真)にあるのがエスケープというシネコン。ここに行って何を見ようか悩んでいたら、モーハンラール主演のマラヤーラム映画『光景(Drishyam)』をやっているのを見つけました。日本でも2月のマラヤーラム語映画上映会で上映された作品です。その時の紹介はこちらです。
日本語のブログ等を見ても絶賛してある作品で、チェンナイの新聞の星マークも4.5個もついています。これは見なくちゃ、と思って入ったら大当たりでした。マラヤーラム語での上映で、場内はマラヤーリーの人がほとんどのようです。以下、ストーリーのネタバレがありますので、未見の方はご注意下さいね。
主人公ジョージクッティ(モーハンラール)と妻ラーニ(ミーナ)、そして高校生の娘アンジュと小学生アヌの一家は敬虔なキリスト教徒。ジョージクッティは農業をする傍ら、ケーブルテレビのステーションを経営していて、画像チェックを兼ねてよく洋画を見ていました。村人はみんな顔見知りで、お金には細かいものの真面目なジョージクッティは人々から信頼されています。前半はこんなジョージクッティとその家族のほほえましいやり取りが描かれ、場内の人々は大笑い。艶っぽいお話も出てきて、観客は時に手を打ったりして映画を楽しんでいました。
ところが、前半が終わりに近づいた頃に事件が起きます。金持ちの不良息子ヴァルンが、キャンプの時アンジュのシャワーシーンをスマホで盗撮し、それをアンジュに見せて脅迫してきたのです。雨の夜、指定場所に出向くアンジュ。ヴァルンが襲いかかろうとした時に現れたのは、母のラーニでした。説得するラーニに対し、「それならあんたが代わりになってくれてもいんだぜ」というヴァルン。母に手を掛けようとしたヴァルンを、アンジュは思わずそばにあった丸太で殴ってしまいます。ところが倒れた時の打ち所が悪く、ヴァルンはそのまま息絶えてしまい、追いつめられた母子はヴァルンの遺体をジョージクッティが農園に掘っていた穴に埋めて隠します。アヌは窓からその光景を見てしまいました。
翌朝、夜勤から戻ったジョージクッティに、ラーニはすべてを打ち明けます。ジョージクッティはこれまで洋画で仕入れた知識を総動員し、アリバイ作りに奔走します。ところがヴァルンの母親は警察の幹部で、当初はまた不良息子の外泊かと思っていた彼女も、行方不明の息子の捜索に乗り出すことに。そして、ジョージクッティを憎んでいた警官の目撃情報から、ジョージクッティが警察に呼ばれ、ついには一家に捜査の手が伸びます....。
脚本がとてもよくできていて、ほのぼのムードから一転してのサスペンス、そして最後のどんでん返しに到るまで、観客を惹きつけて放しません。さらに、家族を守ろうとあらゆる知恵を絞って戦う父親を、モーハンラールが説得力溢れる演技で演じていて、これも映画の大きな魅力になっています。最後のどんでん返しのシーンでは、場内から大きな拍手が起きていました。英語字幕もなかったため、セリフの細かいところはわからなかったのですが、それでもまったく退屈せずに見てしまいました。
警察側が正式の逮捕状も取らずに一家を拘束し、かつリンチとも言える暴力に訴えるのは少々納得できなかったものの、実際に警察はこんなことをやっているのかも、という気もします。警察権力に挑んだ男の物語という読み方もできそうで、一般の観客はそういう所でも感情移入ができるのでしょう。ぜひ日本語字幕で見直してみたいものです。
次の日は、サティヤムという古くからある映画館に行き、ヒンディー語映画『結婚の副作用(Shaadi Ke Side/ Effects)』を。ここは数年前近代的なシネコンに生まれ変わり、いろんな映画をやってくれるのでエスケープと共によく行きます。今回はサティヤム以外でも公開されているのですが、MGR(M.G.ラーマチャンドラン。人気俳優から州首相になった人で、タミル・ナードゥではカリスマ的存在だった)とジャヤラリタ(MGRの愛人で、現州首相)主演の『千人に1人の男(Aayirathil Oruvan)』 (1965)を再上映していました。製作から50年、とかいう記念公開なんでしょうか。昔VCDで見ましたが、海賊が登場したりする愛国映画だったと思います。
この映画館には何度も来ているものの、今回初めて発見したのは最前列に木のベンチ席があること。学生らしい若い男性とか、ちょっとくたびれた服装のおじさんとかが座っています。
不思議に思ってインターバルの時に聞いてみたら、何と10ルピー(17円)の席なんだそうです。普通の座席が120ルピーなので、10分の1以下ですね。「チケットの窓口では、どう言って買うんですか?」「裏の駐車場の所に別の窓口があるんですよ。そこで買うんです」いやー、シネコンにもかぶりつき席があるとは知りませんでした。でも、お尻は痛いけど粋な計らいですね~。やっぱり南インドは進んでいます。
『結婚の副作用』は、演技の上手なファルハーン・アクタルとヴィディヤー・バーランの主演ということで、安心して見ていられました。キャリアウーマンのトリシャー(ヴィディヤー・バーラン)と結婚した売れない作曲家のシッダールト(ファルハーン・アクタル)は、2人で時にはRPGをやったりして結婚生活を満喫しています。ところが、トリシャーが思いがけず妊娠し、娘ができてからは、シッダールトはフラストレーションが溜まる一方。トリシャーの姉の夫(ラーム・カプール)のアドバイスで、仕事と称してホテルに2、3日滞在し、思いっきり羽を伸ばすなどしてみたのですが、経済的にそれも長続きせず....。ついに2人の間には決定的な破局が訪れそうになります。
ハリウッド映画にもありそうな既婚者コメディで、ちょっと最後はやりすぎ感があるものの、時間つぶしにはもってこいの作品でした。インドのパパ&ママも大変なんですねー。あんな景品取り合いっこゲームがあるなんて知りませんでした。監督はサーケート・チョウドリーという人で、以前『恋の副作用(Pyaar Ke Side Effects)』 (2006)という映画を作っています。
そして今日は、スカイウォークというちょっと離れた所のモールへ。ここは、入ってすぐの店にタグホイヤーのシャー・ルク・カーンの広告写真があるため、来るのが嬉しい場所です。今年は、写真が新しくなっていました。
入っているのはPVRという全国チェーンのシネコンで、入口ではラジニカーント主演作『コーッチャダイヤーン(Kochadaiiyaan)』のポスターが迎えてくれました。いつ公開なんでしょうね? ウィキを見てみたら4月11日になってましたが、ホントかなあ。
PVRはカメラ持ち込み禁止で、いつも入口のセキュリティチェックでカメラ電池を預けさせられるためイヤなのですが、ここでしかやってない作品『地区(縄張り、という感じかも)(Jilla)』が見たかったのでやって来たのでした。ヴィジャイとモーハンラールの主演作で、カージャル・アガルワールも出ているとあれば、見てみたいですよね。カージャルは『バードシャー テルグの皇帝』に出演しているので、大阪アジアン映画祭であの美しい瞳をご覧になった方も多いでしょう。ちょっとアイシュワリヤー・ラーイを思わせる美しさですね。
『地区』は、幼い頃に建設会社を経営するドン(モーハンラール)の養子となったシャクティ(ヴィジャイ)が、父の命令でいやいや警官になりますが、そのとたん父の悪事を目の当たりにして正義に目覚めてしまい、父と対立するようになる、というお話です。こちらのカーヴェリ川長治さんのブログに詳しいストーリーがあります。
面白かったのは、ソング&ダンスシーンの一つが日本ロケだったこと。こちらです。太秦映画村でしょうか、日傘をさした着物姿の女性たちが大勢出演し、とても幻想的です。伏見稲荷や竹藪、そして一面のコスモス畑など、美しい日本の姿がインドの観客の目に焼き付いたと思います。昨秋ロケに来たんですねー。
ストーリーがいわばヤクザ一家の話であることから、血なまぐさいシーンが多く出てきます。そんなに簡単に人を殺していいの? しかもその後警官になるってどういうこと? さらに、警官としてどんどん出世していくのはなぜなの? とツッコミどころも満載で、パワフルな画面にクラクラしながら182分という長丁場を楽しみました。ヴィジャイの作品も、早く日本で公開されるようになるといいですねー。
ところで、ここに使ったポスター以外の写真、つまり私が撮った写真ですが、何か変、とお思いになりませんでしたか? そうなんです、どれも左上というか隅の1箇所が黒く欠けているでしょう? カメラのレンズシャッターが壊れてしまって、全開しなくなってしまったのです。買ってまだ1年ちょっとしか経たないのに、しかも旅先で壊れるなんて、ダメすぎるじゃん、FUJIFILM。香港で映画祭の写真が撮れないので、カメラを買い換えようかと思っているのですが、旅行保険で請求できるかしら? 今回はスーツケースも東京-デリーのフライトですごいへこみができて、端のところが大きく破けるなど、トラブル続出のトラベルなのでした....。