近頃気になる俳優さんがいまして、それが斉藤工(たくみ)なんですね。と言うのも、この冬テレビをつければ求人検索エンジン「indeed」の様々なCFや、雪だるまと「タクちゃん!」「ユッキー!」と呼び合うZ空調のCFなど、この人の顔を見ない日はない、という状態だったものですから、昨年東京国際映画祭で見た『家族のレシピ』以来引きずってきた「気になる度合い」がますます高くなりまして。『家族のレシピ』を見るまでは、顔と名前ぐらいしか知らなかった齊藤工、本作ではなかなかのオーラを感じさせてくれて、一挙に私の中での存在感がふくれあがりました。『家族のレシピ』はいよいよ3月9日(土)から公開ですので、ちょっとご紹介しておきましょう。
『家族のレシピ』 公式サイト
2018/シンガポール・日本・フランス/日本語・英語・中国語/89分/原題:Ramen Teh
監督:エリック・クー
出演:齊藤工、マーク・リー、ジャネット・アウ、伊原剛志、別所哲也、ビートリス・チャン、松田聖子
配給:エレファント・ハウス
※3月9日(土)よりシネマート新宿ほか全国順次ロードショー
(C)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
物語の始まりは、群馬県の高崎市から。行列のできる評判のラーメン店「すえひろ」は、店主の和男(伊原剛志)、その弟明男(別所哲也)、和男の息子真人(齊藤工)という男3人で営んでいる店でした。真人は研究熱心で、いろんな味を試してみます。ところが父和男は、時間が来ると早々に仕事を切り上げ、飲みに行ってしまいます。真人の母が亡くなってから、ずっとそうなのでした。そんなある日、先に出勤した父は、調理場で倒れているのを明男に発見され、そのまま帰らぬ人となってしまいました。葬儀を終えた真人は、父の遺品の中から母メイリアン(ジャネット・アウ)が書いたレシピ・ノートと、両親や幼い自分の写真を見つけ、10歳の時に亡くなった母を思い出します。母はシンガポールの日本料理店で働く父と出会い、結婚したのですが、実母から結婚を認めてもらえず、真人の幼い時に和男と共にシンガポールを離れ、一度も帰国しないまま病気で亡くなったのでした。
(C)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
遺品の中には、母の弟ウィーからの手紙も入っていました。真人は、シンガポールに行ってみる決心をします。その決心を後押ししたのは、以前からネット上で交流していたシンガポール在住のフード・ブロガー美樹(松田聖子)の存在で、美樹のレポートするシンガポールのフードシーンがとても魅力的なことに真人は惹かれていたのでした。シンガポールに行った真人は、美樹にシンガポールの食指南をしてもらい、叔父のウィー(マーク・リー)とも再会します。陽気なウィーとその家族に歓迎された真人は、肉親の暖かい絆を感じますが、問題は頑固な祖母(ビートリス・チャン)でした...。
(C)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
日本でも映画祭上映された『12階』(1997)や『一緒にいて』(2005)など、緊張感溢れる作品を作り続けてきたエリック・クー監督の作品ですが、これまでとはがらりと作風が異なっています。メロドラマっぽいウェットな作りは、日本も含んだ国際共同製作を意識したからでしょうか。エリック・クー監督の言葉によると、「日本とシンガポールの外交関係樹立50周年を記念する作品の監督を依頼された時、私は食が完璧な題材になると考えました」とのことで、その時監督の脳裏にひらめいたのがバクテーとラーメンだったそうです。
(C)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
バクテーは中国語では「肉骨茶」と書き、Wikiによると閩南語(=福建語、台湾語)の発音で「bah-kut-tê」となるのだとか。マレー半島へ移住して来た福建地方出身の中国人労働者によって生まれた料理で、「マレーシア、およびシンガポールの肉煮込み料理」と定義づけられることがあるようです。上の写真は、真人が考え出したバクテーとラーメンの融合した料理ですが、バクテーにもここにあるような骨付きの大きな肉が入っているのが特徴で、ほかにきのこやレタスなどを入れ、スターアニス(八角)やシナモン、クローブなど様々なスパイスで味付けがしてあるそうです。劇中では真人の父和男がおいしいバクテーを求めてシンガポールのいろんな店を食べ歩き、メイリアンの店でとびきりおいしいバクテーに出会う、という設定になっています。また、メイリアンの弟ウィーがバクテーの名手で、父を亡くした真人が叔父ウィーを訪ねていき、バクテーの秘伝を教えてもらうシーンも出てきます。そしてその後、このバクテーをラーメンと合体させるべく、真人が精魂を傾けることになります。
(C)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
バクテーとラーメンが象徴するのは、太平洋戦争で日本軍に侵略されたシンガポールと日本、娘を奪われたシンガポール人の母親と娘の夫の日本人という、対立する2つの存在です。それが、バクテー+ラーメンで「ラーメン・テー」になっていくまでの間に、両者の間にも理解と融合が生まれていくのが本作の見どころです。あまりひねりのない、直球勝負の展開ですが、それだけに最後はホロリとさせられてしまいます。「ラーメン・テー」を生み出すのが真人なら、シンガポールと日本をつなぐのも真人で、その真人をとても魅力的に演じているのが齊藤工なのです。タクちゃんファンには大満足の1本、と言えるでしょう。
(C)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
もう1人、魅力的な存在なのが、真人の叔父ウィーを演じるマーク・リー(李国煌)。この人が登場したとたん、映画は一挙にシンガポールらしい雰囲気を放ち始め、その元気のいいセリフ回しとひょうきんな所作に、映画のリズムが弾けていきます。上の写真で、後列伊原剛志の右に立つのがマーク・リーですが、シンガポールでは知らない人は誰もいないという超人気スター。1998年のスーパーヒット作『Money No Enough/銭不够用(お金が不足)』にジャック・ネオ(梁智強)、ヘンリー・チア(程旭輝)と共に主演して以来、ジャック・ネオがおばあさんに扮した『Lian Po Po:The Movie/梁婆婆』(1999)ほかのたくさんのコメディ映画や、時にはホラー映画にトリオまたは単独で出演し、シンガポール映画を隆盛に導いてきました。本作でも、その貫禄と演技力を遺憾なく発揮しています。ウィーの姉で、真人の母親役であるジャネット・アウ(欧萱)も人気女優で、連ドラの女王的存在の人。「The Little Nyonya/小娘惹(小さなニョニャ)」(2008)始め、大人気となった主演ドラマは数知れず。というわけで、シンガポールでは一足先に『Ramen Teh/情牽拉麵茶』のタイトルで公開されました。
(C)Wild Orange Artists/Zhao Wei Films/Comme des Cinemas/Version Originale
もう1人、目玉となる俳優が松田聖子なのですが、ちょっと不思議な存在の女性として登場していて、その私生活シーンもあるものの、あまり生活感を醸し出していません。ひょっとして、エリック・クー監督が聖子ちゃんファンだったりして、それで出演となったのかも。そんなこんなで見どころがいろいろある『家族のレシピ』、アジア映画好きの方、アジアの街好きの方は、ぜひお見逃しなく。最後に予告編を付けておきます。
斎藤工主演、松田聖子共演!映画『家族のレシピ』予告編