一度目の帰宅に比べると、二度目の帰宅の時の記憶は鮮やかです。
やるべきことはクリアだったし、前回には足りなかったこともいろいろ準備できた。それよりもなによりも、お義母さんの体調がとってもよくて、それはご機嫌が良かったからです。筋金入りの巨人ファンであるお義母さんに「今日は広島とやりますよ」と言ったら、「原監督は負けませんよ」と笑顔でした。そういえば。元気な時は、お義父さんが早々に「おやすみ」といって寝てしまうのに、夜10時のニュースを皮切りに、深夜のスポーツニュースまで熱心に見ていた人でした。とにかく巨人については半端なく詳しいのです。試合をじっくり観られる日はもちろん、巨人が勝てばやっぱり機嫌よくて。阪神戦で勝とうものなら阪神ファンのお義父さんをよくいじめていたよなぁ。そういえば、お義母さんは政治の話にも関心の深い人で、ふるさとの政治家、故竹下登氏をひいきにしていたっけ。「人からなに言われても、恨まれても、やるべきことをやった偉い人」というのがお義母さんによる竹下氏評でした。
食欲は良くなったとはいえ、差し出したスプーンに「もういいです、いりません」というのはいつものこと。作っているのは僕らなので、その台詞が聞こえてくるたびに胸が痛くなるのですけど、そこはお義父さんの出番です。本当に呼吸の取り方が上手になって、お義母さんの台詞をいい具合に聞き流しつつ、リズムよくスプーンを口元に運んでいきます。
二回目にして、僕らのチームワークも良くなりました。
お義父さんと奥さんと僕の役割分担も、その場その場で対処するようなことも阿吽の呼吸で決まるようになってきました。
料理は好きで、これで結構自信があったのですけど、これほどの緊張を感じながら料理をしたことはいままでありません。「いまのうち」という医師の言葉は、いわれるまでもなく、僕らが毎日感じていたことでもありましたから。ひとさじでもおおく食べられますように、という願いで作りました。命がかかったひとさじだと思って。
しっかりした出汁をとって、それをもとにおかゆを炊く。飲み込むのが精一杯の人のために、滋養たっぷりのおつゆをつくって丁寧に漉す。飲み物のように仕立てる。あるいはかまずに飲み込めるようにとろみのついたジュレにする。素材もかたちが残っているようなものはすべて喉を詰まらせてしまうかもしれない。さらに大きな問題はお義母さんの偏食。好き嫌いがあまりに多い患者を相手にする気持ちはいかばかりか。今思い出すだけでも胃が痛くなりそう。とにかく使える食材や方法が極限まで限られているので、可能なこと、食べられそうなものはすべてつぎ込むしかありません。
母のやっていたことを思い出しながら、いろいろ考えるのですが、もっとおいしいものを食べさせたいという思いも、ここまで道が限られてしまうと苦しいものになります。
お義父さんがスプーンを運ぶたびに、息を詰まらせている自分に気づいて、食事には同席せず、この日は作ることに専念しました。
親を思う娘の強さをまざまざと見せつけられた日でもあります。僕のお嫁さんにはこんな強い一面があったのか!と驚かせられることがしばしば。とにかく一心不乱に働いていました。いつもわりと大雑把で、よくいえばおおらかな性格の彼女ですが、このときの細やかな心配りに僕は感心しっぱなしでした。時に、男が何人いたってダメなことっていうのはありますね。お義母さんのケアに真剣に取組む姿はお義父さんをだいぶリラックスさせてくれました。
一度目の時よりも食が太くなって、「もういいです」というわりにはきっちりと食べてもらえるようになったのは、この日の収穫でした。
骨の髄から巨人ファンというお義母さんと、巨人vs広島をテレビ観戦するつもりでしたが、もう眠いというので、残念ながらそれは断念。一緒には観られませんでした。
I'm glad there is you (1)
I'm glad there is you (2)
I'm glad there is you (3)
I'm glad there is you (4)
I'm glad there is you (5)
I'm glad there is you (6)
I'm glad there is you (7)
I'm glad there is you (9)
I'm glad there is you (10)
やるべきことはクリアだったし、前回には足りなかったこともいろいろ準備できた。それよりもなによりも、お義母さんの体調がとってもよくて、それはご機嫌が良かったからです。筋金入りの巨人ファンであるお義母さんに「今日は広島とやりますよ」と言ったら、「原監督は負けませんよ」と笑顔でした。そういえば。元気な時は、お義父さんが早々に「おやすみ」といって寝てしまうのに、夜10時のニュースを皮切りに、深夜のスポーツニュースまで熱心に見ていた人でした。とにかく巨人については半端なく詳しいのです。試合をじっくり観られる日はもちろん、巨人が勝てばやっぱり機嫌よくて。阪神戦で勝とうものなら阪神ファンのお義父さんをよくいじめていたよなぁ。そういえば、お義母さんは政治の話にも関心の深い人で、ふるさとの政治家、故竹下登氏をひいきにしていたっけ。「人からなに言われても、恨まれても、やるべきことをやった偉い人」というのがお義母さんによる竹下氏評でした。
食欲は良くなったとはいえ、差し出したスプーンに「もういいです、いりません」というのはいつものこと。作っているのは僕らなので、その台詞が聞こえてくるたびに胸が痛くなるのですけど、そこはお義父さんの出番です。本当に呼吸の取り方が上手になって、お義母さんの台詞をいい具合に聞き流しつつ、リズムよくスプーンを口元に運んでいきます。
二回目にして、僕らのチームワークも良くなりました。
お義父さんと奥さんと僕の役割分担も、その場その場で対処するようなことも阿吽の呼吸で決まるようになってきました。
料理は好きで、これで結構自信があったのですけど、これほどの緊張を感じながら料理をしたことはいままでありません。「いまのうち」という医師の言葉は、いわれるまでもなく、僕らが毎日感じていたことでもありましたから。ひとさじでもおおく食べられますように、という願いで作りました。命がかかったひとさじだと思って。
しっかりした出汁をとって、それをもとにおかゆを炊く。飲み込むのが精一杯の人のために、滋養たっぷりのおつゆをつくって丁寧に漉す。飲み物のように仕立てる。あるいはかまずに飲み込めるようにとろみのついたジュレにする。素材もかたちが残っているようなものはすべて喉を詰まらせてしまうかもしれない。さらに大きな問題はお義母さんの偏食。好き嫌いがあまりに多い患者を相手にする気持ちはいかばかりか。今思い出すだけでも胃が痛くなりそう。とにかく使える食材や方法が極限まで限られているので、可能なこと、食べられそうなものはすべてつぎ込むしかありません。
母のやっていたことを思い出しながら、いろいろ考えるのですが、もっとおいしいものを食べさせたいという思いも、ここまで道が限られてしまうと苦しいものになります。
お義父さんがスプーンを運ぶたびに、息を詰まらせている自分に気づいて、食事には同席せず、この日は作ることに専念しました。
親を思う娘の強さをまざまざと見せつけられた日でもあります。僕のお嫁さんにはこんな強い一面があったのか!と驚かせられることがしばしば。とにかく一心不乱に働いていました。いつもわりと大雑把で、よくいえばおおらかな性格の彼女ですが、このときの細やかな心配りに僕は感心しっぱなしでした。時に、男が何人いたってダメなことっていうのはありますね。お義母さんのケアに真剣に取組む姿はお義父さんをだいぶリラックスさせてくれました。
一度目の時よりも食が太くなって、「もういいです」というわりにはきっちりと食べてもらえるようになったのは、この日の収穫でした。
骨の髄から巨人ファンというお義母さんと、巨人vs広島をテレビ観戦するつもりでしたが、もう眠いというので、残念ながらそれは断念。一緒には観られませんでした。
I'm glad there is you (1)
I'm glad there is you (2)
I'm glad there is you (3)
I'm glad there is you (4)
I'm glad there is you (5)
I'm glad there is you (6)
I'm glad there is you (7)
I'm glad there is you (9)
I'm glad there is you (10)