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ガンバレ!「がんばらない経営」

2011-01-07 | 会計・株式・財務
け先日書いたヤマダ電機ネタはそれなりにご評価いただけたようですので、今回はこれとは見事なまでに好対照の家電量販店を検討していくことにしましょう。

まずは日経記事より。
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ケーズHD、経常益4~5割増 11年3月期
2011/1/6

ケーズホールディングスの2011年3月期は、連結経常利益が400億~450億円と前期に比べて4~5割程度増えそうだ。昨年12月のエコポイントの付与率半減を前に薄型テレビなどの駆け込み需要が想定以上に膨らみ、従来予想の400億円を超える公算が大きい。

 同社はエアコンなどの販売好調を受け、昨年11月に経常利益の見通しを期初予想から85億円引き上げたが、当時の計画以上の駆け込み需要が発生。売上高は約2割増の7600億円前後と従来予想を100億円程度上回る見通しだ。

 純利益も計画(29%増の206億円)を上回りそうだ。今期の年間配当は30円の予定だが、同社は1株利益の10~20%を配当する方針。会社計画ベースの1株利益は363円で、純利益が想定を上回れば配当を上積みする可能性がある。
                              (引用終了)
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業界4番手のケーズホールディングス。
ビックカメラやヨドバシなどの影にかくれて地味な存在ですが、この会社の戦略は飛び切りに面白いと思っております。

つい最近はこんな本も出ました。
著者はあの「ヤマダ電機の暴走」と同じってところがいい。ヤマダと違って好意的に評価しております。見ている人はちゃんと見ているってことですかね。

「がんばらない」経営 不況下でも増収増益を続けるケーズデンキの秘密
立石泰則
草思社



では、ケーズの戦略のどこが面白いのか。
当社ホームページ「トップメッセージ」に集約されております。
目に飛び込んでくるのは「がんばらない経営」 。

 <HPより抜粋>
当社が掲げている「がんばらない」経営とは、無理をしない経営ということです。できもしない目標に向かって無駄な努力をするのではなく、基本的なことを確実に実行していく堅実な経営のことです。売上を増やそう、利益を増やそうと無理な目標を立ててしまうと、それを達成するためにお客様に高い値段の商品や利益の取れる商品を無理に売りつけるようなことになってしまいます。短期的に見れば売上・利益が増えるかもしれませんが、望んでいない商品を買わされたと感じたお客様はその後来店しなくなり、会社の成長は望めなくなります。その様なことにならないように、当社はこれからも「がんばらない」経営で着実に成長してまいります。

これが単なるお題目でないことは以下に示した各種の取材・インタビュー記事からご理解いただけるかと思います。
無理な成長戦略から生ずるムダを避けてコストを賃料の安い田舎立地にこだわり、しかも不況期ほど出店するという逆張り的な店舗戦略、顧客にとって利便性のないポイント制をとらず値引きに徹した価格戦略、従業員に無理をさせない店舗運営・・・・経営の隅々に行き渡っている印象がします。

◆2009年 ケーズデンキはがんばらない、「田舎戦略」、駅前目もくれず郊外出店(不況またよし)
◆2009年 日経ビジネスオンライン 
  「経営とは終わりなき駅伝競走」
  「頑張らないから11年連続で増収増益」
◆2010年 現代ビジネス「社長の風景」

・・・・とここまで書いていた私は、 「ケーズの戦略ストーリー、なかなか優れているんじゃないか!」と気づきました。今更ながら。
(ここでいう戦略ストーリーとは先日ご紹介したこの本によるものです。)

ストーリーとしての競争戦略 ―優れた戦略の条件 (Hitotsubashi Business Review Books)
楠木 建
東洋経済新報社


この本の後半では優れた戦略ストーリーに共通する原理原則を「骨法10カ条」としてまとめております。それぞれの条件に、ケーズのケースにあてはめてみました(特に茶色の文字は各種インタビュー等より抜粋)。
著者の意図するところから大きく外れている可能性があることには、予めご了承ください。
しょせん、ネタですから。

骨法その1 エンディングから考える
戦略の目的は長期利益の実現。一貫性。
「売上を増やそう、利益を増やそうと無理な目標を立ててしまうと、それを達成するためにお客様に高い値段の商品や利益の取れる商品を無理に売りつけるようなことになってしまいます。短期的に見れば売上・利益が増えるかもしれませんが、望んでいない商品を買わされたと感じたお客様はその後来店しなくなり、会社の成長は望めなくなります。」

骨法その2 普通の人々の本性を直視する
「現金値引はお買い物時の支払額が少なくなり、値引き分の現金が手元に残りますのでお客様は「安く買えた」と実感できます。ポイントと称してお客様のお金を預り、お客様をその会社(お店)に縛ることはしません。」

骨法その3 悲観主義で論理を固める
(本書によれば仕事の現場にいる人々の目に映るシーンを思い描くこと、らしいです)
「我が社にとって一番大切なのは従業員。二番目が取引先で、お客さまは三番目です。それは、決してお客さまをないがしろにするということではなく、そうしないと、結果的に、お客さまのためにならないからです。だから、社員を一番大切にしています。」

骨法その4 物事が起こる順序にこだわる
(該当なし??)

骨法その5 過去から将来を構想する
7年前に私が加藤氏に直接お話しをうかがった時に強く印象に残ったのが、「家電量販店 盛者必衰の法則」。
つまり過去この業界でトップを取った企業は(無理な成長戦略を取ったことなどから)次々と脱落している。
1位を狙って無理をするのではなく着実に行けばいずれ上がどんどん落ちていくという大局観をお持ちでした。

骨法その6 失敗を避けようとしない
「細かい失敗はたくさんしていると思いますが、それが必ず次につながっているので、「あれは失敗だった」という記憶はないんです。'91年に東北地方を中心に多店舗展開していたよつば電機を買収したとき、周囲からは「荷が重すぎる。カトーデンキも共倒れする」と言われ、会社の株価も下がりました。でも、私は失敗だとは思わなかったし、実際、それが東北地方へのチェーン展開の足場になりました。」

骨法その7 「賢者の盲点」を衝く
・とにかく無理をしない
・逆張り的な出店戦略
・ポイント制導入せず値引きなど、……すでにご紹介の通り。

骨法その8 競合他社に対してオープンに構える
「2008年11月、JR水戸駅(水戸市)と直結した商業ビルにヤマダ電機の大型店「LABI水戸」が開業した。ケーズ本社から目と鼻の先で挑発的な出店かと思いきや、加藤修一社長は「何度も出店要請が来たけど家賃が高すぎるから断った」と意に介さない。「ビルのテナントが埋まってよかった」とどこ吹く風だ。」

骨法その9 抽象化で本質をつかむ
「がんばらない」

骨法その10 思わず人に話したくなる話をする
各種インタビューでは、加藤社長は結構面白がって話をしていますよね?


以上、かなり強引ではありましたが、10の骨法のほとんどを満たしているケーズHDは「優れた戦略ストーリー」を持っている可能性大と感じました。「衰退の法則」にハマリつつあるヤマダ電機とは好対照ですよね。
業界競争はさらに厳しさを増しそうですがケーズには何とかこのユニークな戦略を徹底し続けてもらいたいものです。

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