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『六本木ヒルズ資本主義』 とITバブル崩壊期待

2005-10-23 | 会計・株式・財務
金融界の論客として私が注目している山崎元氏が、
最近のIT企業など、六本木ヒルズに入居している
関係者に共通する価値観と行動様式を総称して
「六本木ヒルズ資本主義」と名づけています。

ネタ元の記事は下に掲げましたので、
後ほどご覧いただきたいのですが、
かなり共感できる内容です。

特に納得的なのは、以下の点です。


六本木ヒルズ資本主義の最大の特色は、
株式市場を通して儲けを早く、かつ大きく実現しようとする、
利益実現のスピードと市場の利用だ。
今回の阪神電鉄のケースでいえば、確かに阪神タイガースは
ビジネス上活用する余地の大きな資産だが、これを用いて、
現実に利益を積み重ねて儲けるのではなく、今後儲けるであろう
利益に対して、投資家が抱く期待を思いっきり膨らませて、
株価を形成してこれを売却して利益を得ようとする。


しかし、この行動原理は、粉飾決算の大きな動機付けになりはしないか。

とりあえず高株価を背景に株式交換型などのM&Aを行っていれば、
投資家の期待も膨らみ、株価も維持できるのでしょう。
また、会計方針は利益を前倒しで計上させるようにすることもできますし、
ホイント経費処理や税効果会計や(余り無いでしょうが)固定資産の減損会計なども企業側にとって裁量の余地は大きい。
何よりも収益認識基準が不明確ですしね。

しかし変化の芽が少しずつ出始めていることには注意すべきでしょう。
先日、IT系企業の会計処理基準についての動きをご紹介しましたが、
ソフト取引の会計処理が来春にも厳格化され、
受託開発のあいまいな売上計上が排除される方向にあるようです。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20051014/222855/

「六本木ヒルズ資本主義」も程度問題だと思いますし、
地道に収益を重ねていくということを軽視するような風潮に
あることが非常に危険だと思っております。

この意味では、誤解を恐れずに言えば、
「2度目のITバブル崩壊」は、起きて欲しいと思いますし、
IT会計基準の見直しがその契機になると予想しております。


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■引用・参考記事(1)
 日経ソリューションビジネス 2005年10月14日
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受託ソフト開発などに伴う会計処理が、来春にも厳格化されることが
確実になった。
日本の会計基準作りを担う企業会計基準委員会(ASBJ)が、
ソフトウエア取引のルール作りに乗り出すことを正式に決定したもので、
10月中に「ソフトウェア取引等収益検討専門委員会(仮称)」を設置し、
議論を始める。
不透明な取引や粉飾決算の温床として社会問題化したIT取引のうち、
まずソフトウエアを対象に会計処理に規律を与える。
現在の案では、2006年4月以降に始まる会計年度から、
ITサービス業界に新ルールの順守を求める方針だ。

ASBJが、ソフト取引を対象にした会計ルールが必要と判断したのは、
2004年に表面化した一部IT企業の粉飾決算問題を契機に、
日本公認会計士協会や経済産業省からIT取引の問題指摘が相次いだためだ。
具体的には、受託開発したシステムの検収と売り上げの認識が
実態と合っていない、顧客へのハード・ソフトの納品までに、
いくつものITサービス企業が取引を仲介することがある、
といった点だ。
しかも、こうしたIT取引の実態が公認会計士などの第三者からは
把握しにくい。

 今回、ASBJがルール作りに乗り出すのは、IT取引のうちソフトに関わる取引。
顧客から請け負うシステム開発において、
ITサービス企業が
「どの時点でどれだけの収益を計上するか」
「計上に必要な要件は何か」などを議論する方針だ。
例えば、検収時にユーザーから受け取る検収書に加えて、
「稼働テストを実施した」といった成果物の証明を収益認識の基準に
できないかなどを検討する。
メディア・リンクス事件などで粉飾決算の手口に使われたような
「仲介取引」は原則、議論の対象にはしない。
ただし、ソフト取引にかかわる仲介取引に関しては、
何重もの請負構造が外部から把握しにくい点を考慮し、
売上計上にルールが必要かどうかを検討する。
また、ITサービス業に特徴的な
「ソフト開発に、コンサルティングや運用保守などを一体化した
複合サービス」の取引に関してもルールの必要性を議論する。

 ソフト取引の会計処理については、米国で「SOP97-2」と呼ぶ
会計基準が既に運用されている。ASBJの専門委員会も
この米国基準を参考にしながら、ルール作りを進めていく方針だ。
新ルールの位置付けや今後のスケジュールは専門委員会で
これから議論するが、現在の予定では、06年3月をメドに、
実務上の処理方法をまとめた「実務対応報告」として公表。
直後となる06年4月から、顧客と取り交わす受託開発取引すべてに
新ルールを適用させる。
企業側が望めば、05年度分にさかのぼって新ルールを適用することも
認める方針だ。

 ASBJでは、ITサービス業界の会計処理問題に対して、まず
「情報サービス産業の収益検討ワーキンググループ(WG)」を7月に発足させ、
ITサービス業界や監査法人の関係者を交えて、論点整理を行なってきた経緯
がある。このWGが、今日開かれたASBJの総会で、専門委員会の設置を提言し、
同日に承認された。専門委員会の委員長には、ASBJの西川郁生副委員長が
就任する予定である。また委員には、ASBJの委員に加え、
ITサービス業界からはNTTデータ、TIS、富士通の財務・経理担当者が、
監査法人からはあずさ監査法人と中央青山監査法人の公認会計士が
委員に加わる予定だ。

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■引用・参考記事(2)
阪神タイガース上場構想に見る「六本木ヒルズ資本主義」
山崎元氏
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/yamazaki/at_ya_05101901.htm
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 通称「村上ファンド」ことM&Aコンサルティング社の
阪神電鉄株大量保有が明らかになり、その最初の狙いとして
発表されたのが、阪神タイガースの株式上場の構想だった。

 このニュースを目にした時、いかにも六本木ヒルズの連中が
考えそうな話だ、という意味で「六本木ヒルズ資本主義」という
言葉が頭に浮かんだ。

 ライブドアとニッポン放送の一件ですっかり有名になった通り、
六本木ヒルズには、ライブドアなどの新興IT企業、同じく
この件で有名になったリーマンブラザーズ証券のような
外資系証券会社などがオフィスを構えており、村上ファンドも、
あのビルの20階に入っている。
彼らに共通する価値観と行動様式、これらを総称して
六本木ヒルズ資本主義と名付けたいのだが、
これを「阪神タイガース上場」という構想は、
よく表しているように思う。
なお断っておくが、これは筆者の観察と感想であって、
特定の企業に対する非難のニュアンスはない。

 六本木ヒルズ資本主義の最大の特色は、
株式市場を通して儲けを早く、かつ大きく実現しようとする、
利益実現のスピードと市場の利用だ。
今回の阪神電鉄のケースでいえば、確かに阪神タイガースは
ビジネス上活用する余地の大きな資産だが、これを用いて、
現実に利益を積み重ねて儲けるのではなく、今後儲けるであろう
利益に対して、投資家が抱く期待を思いっきり膨らませて、
株価を形成してこれを売却して利益を得ようとする。

 六本木ヒルズ資本主義のマニフェストとでも言うべき文書は、
堀江貴文氏の著書「稼ぐが勝ち」だと思うが、同書の中にあるように、
株式が利益を「先取りする」性質をフルに使って、市場を利用して
早く稼ごうとする。
また、昨今のIPO(株式新規公開)ブームの影響もあって、
新規公開株には高い値が付きやすいことも計算に入っている。

 加えて、阪神タイガースという球団の人気は、ビジネスの期待値を
膨らませるにも、株主優待などの可能性を見せて株価への期待を
膨らませるにも有効な存在だ。
自分で球団を保有して利益を稼ぐよりも、上場する方が手っ取り早いし、
有利に儲かる可能性が大きい、と考えても不思議はない。
ライブドアの堀江社長がテレビ番組にも出れば、選挙にまで出たように、
知名度はビジネス上の価値だということをよく知っているのも、
六本木ヒルズ的資本家の特色だ。

 断っておくが、株式公開で儲けること自体は、
何らやましいことではない。それで公開した側が有利に儲かるとすれば、
高値を付けて買う投資家が賢くないだけのことである。
投資は自己責任だ。
しかし、そうした投資家の心理を(今回は阪神ファンのファン心理も含めて)
読んで、株式公開で儲けてやろうという発想が、
「いかにも」という感じであり、
敢えて言えば、少々「あざとい」。

 六本木ヒルズ資本主義を、一般に言われている資本主義
と較べると、「労働者からの搾取」については自覚的であり、
古典的な資本主義像に近い。
「稼ぐが勝ち」には、会社は人を使うための仕組みであること、
使われるよりも使う側が有利であることが正直に吐露されており、
実際、六本木ヒルズのIT企業の一般的な社員の年収は、
経営者層の実質的に100分の1程度といっていいだろう
(数百万円レベルが多く、しかも傾向として長時間労働だ)。
東京のかつての中心的ビジネス街であった丸の内、大手町などでは、
すれ違う通行人相互の間で、ここまでの所得格差はなかった。

 一方、マックス・ウェーバーが強調した資本主義の精神の基礎に
あるべきキリスト教の価値観(神に選ばれたものは、それにふさわしく
振る舞うはずだというカルヴィニズムの教義)に相当するのは、
「時価総額信仰」だろう。
時価総額が価値であり、株式の所有が「支配権」であり自分の
「力」だという、ゲーム的な競争感覚だ。この価値観のおかげで、
個人では使い切れないほどの富を持っていても、
六本木ヒルズの資本家達は、常にもっと大きな価値を目指しており、
いずれも常人のレベルをはるかに超えた働き者なのである。

読者は、彼らの仲間に入ろうとお考えになりますか?

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