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なぜ西武・涌井投手の年俸は上がらないのか?

2011-01-10 | 会計・株式・財務
そんなこと私の知ったことではありませんが、会計的に少し興味深い動きが見られたので邪推をしてみました。




まずは中日スポーツの記事。
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涌井 怒りまくり ダル5億円なのに…球団を批判
中日スポーツ 1月8日

契約更改を3度保留して徹底抗戦中の西武・涌井秀章投手(24)が7日、現状維持の年俸2億円の提示を変えない球団側の姿勢を痛烈に“けん制”し、最低でも2000万円増を訴えた。前日、年俸5億円でサインした同い年の親友ダルビッシュ(日本ハム)を引き合いに「ウチは頑張っても上がらない」と収まらない不満を吐き出した。

 2億円と5億円。涌井は、その差に落胆の表情を隠せなかった。この日、西武第2球場で本格始動したが、ダルビッシュの契約更改に話題が及ぶと「日本ハムもすげえな。ウチは投手の年俸が上がらない。下げるときはガツンと下げられる。2000万~3000万円アップを頼むよ、という感じです」と悲しげにつぶやいた。

 さらに「最初の交渉では1000万円ダウンと言われました」と初めて具体的な減俸額まで明らかにした。ダルビッシュは通算75勝で、最近4年間は58勝。涌井は通算70勝で57勝。ほぼ互角だが、涌井の年俸はダルビッシュの半分にも満たない。2年後輩で通算46勝の田中(楽天)にも年俸で並ばれた。2日前にはダルビッシュから同情メールが届いたという。
  
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涌井秀章―埼玉西武ライオンズ (スポーツアルバム No. 22)
クリエーター情報なし
ベースボール・マガジン社

(コメント)

まぁ、球団の母体企業の格の違い、球団の査定方針の違いでしょう?
さらに日ハムは、ダルビッシュの米メジャー移籍に伴う多額の権利金収入も考慮しているのでしょう。


しかし、これだけでは芸がないので、もう少し補足しましょう。


西武ホールディングスHPで興味深い動きを見つけました。

「西武グループ経営改革の歩み」というページの一番下をご覧下さい。連結決算の重要な開示項目である「事業セグメントの変更」をしております。



当社の説明によれば、グループの事業をより分かりやすく開示すること、また経営における意思決定単位の明確化を目的として、2010年度よりグループ各社が行う事業の内容、ビジネスエリア、管理体制などを基に変更し、開示も新しい区分で行うとのこと。

そこで私がオヤ?と思ったのは、100%子会社である「西武ライオンズ」が属する事業セグメントが、「レジャー・サービス事業」から「その他事業」へと変更されたこと。

背景には「セグメント情報等の開示に関する会計基準」の変更があります。2010年4月1日から始まる決算から適用されます。

変更のポイントは、経営上の意思決定を行い、業績を評価するために、経営者が企業を事業の構成単位に分別した方法を基礎とする「マネジメント・アプローチ」が導入されたことです。

「マネジメント・アプローチ」では、最高経営意思決定機関が経営上の意思決定を行い、また、企業の業績を評価するために使用する事業部・部門・子会社又は他の内部単位に対応する企業の構成単位に関する情報を提供します。
期待される効果としては、財務諸表利用者が経営者の視点で企業を見ることにより、経営者の行動を予測し、その予測を企業の将来キャッシュ・フローの評価に反映することが可能になることが挙げられております。

当社では、グループの構成単位のうち分離された財務情報が入手可能であり、取締役会が経営資源の配分の決定及び業績を評価するために、定期的に検討をおこなう対象として「都市交通・沿線事業」、「ホテル・レジャー事業」、「不動産事業」、「建設事業」及び「ハワイ事業」の5つを報告セグメントとしまして、球団経営は伊豆箱根事業・近江事業などと一括りに「その他」としたのです。

小難しことをダラダラと書きましたが、要するに、西武ホールディングスの経営者と同じ目線になるように事業セグメントを区分したということでありまして、その結果、球団経営は、西武ホールディングスの取締役会の定期的なチェックはを要さない(あるいは困難?)な「その他」事業ということが確認されたというワケです。


ここまでのお話ですと「まぁ会計基準の変更なんだから別に仕方ないんじゃない?」と思われるでしょう。
しかしこの変更により「球団収支の透明度が上がる」ということろがミソであります。

つまり、従来でしたら「レジャー・サービス事業」のどんぶり勘定で球団の赤字を吸収できていたワケですが、「その他」事業には球団のほか、伊豆箱根事業と近江事業しかありません。ごまかしがききにくくなるのではないでしょうか

上期の実績はどうか?
2011年3月期第2四半期の「その他」セグメントの営業利益は12億円。季節性もあって黒字を確保しております。しかし入場料収入などがほとんど無くなる下期と合わせて通期の収支がどうなるかは注目ですよね。
収支の透明度が上がった分、年俸も上がりにくくなっているのかも知れません。

因みに、楽天ではプロスポーツ事業(楽天イーグルス)で独立したセグメントを開示しており、2009年12月期決算では売上84億円、営業赤字▲8億円。しかし本業でカバーして全社営業利益でも400億円以上を確保しております。

一方、西武ホールディングスのH23/3期計画では連結営業利益274億円とまずまずの水準を見込んでおりますが、支払利息の負担重く経常利益は124億円、純利益は僅か26億円にすぎません。

しかも、西武に関しては経営上の最優先課題として「株式の上場」が掲げられております。
米投資ファンド・サーベラスから1,400億円、持株比率30%の出資を受けたものの、上場計画は先送りとなっており(当初は08年を予定していたとか)、球団社長も兼務する後藤社長にも色々なプレシャーがかかっているようです(参考:月刊FACTA 2009年5月号

ですから、球団経営と上場準備を両立させていくには、球団経営にかかるコストを少しでも下げ、業績への負担を減らさざるを得ません。いきおい年俸交渉もシビアとなるのではないでしょうか。 
涌井投手も怒る前に、親会社の懐事情も察してやってください。時期が悪かったよね。


……しかし、ダルビッシュよ、アンタは貰い過ぎ!
まぁ、一部報道によると、慰謝料やら養育費の負担も日本最高峰になりそうだけど・・・・・・。



なかのひと

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7 コメント

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Unknown (おもしろかったです)
2011-01-15 09:48:00
ただの時事ネタを、自分の専門分野から切り取るとここまで書けるのか、尊敬いたします。

>慰謝料やら養育費の負担も日本最高峰
笑えました。。。
返信する
Unknown (Unknown)
2011-01-14 13:00:08
ただ西武の会計的な話をおもしろくこじつけてみただけなのに、いろいろ言う人も多いんですね。大変でしょうけど、頑張ってください。
返信する
涌井選手も「ライオン丸」で寄付しよう! (dancing-ufo)
2011-01-13 00:55:34
涌井投手は年俸調停を申請したらしいですね。

調停もいいけど、その結果増えたお金の一部は、世の中に還元したらどうでしょうか?

最近はやりの「タイガーマスク」に対抗して
「風雲ライオン丸」っていう名前で、大金をドーンと寄付したら、プロ野球選手の地位向上に大いに貢献することでしょう。
返信する
コメント有難うございます。 (dancing-ufo)
2011-01-10 22:55:45
多数のコメント、有難うございました。ご指摘の点はごもっとも(私も選手を責めているつもりはないですけどね)。
返信する
Unknown (通りすがり)
2011-01-10 20:05:05
たびたびすみません。
先ほど途中で送ってしまいました。

今回の涌井問題の焦点は、「優勝を僅差で逃した西武というチームが、一選手である涌井に責任を取らせ、懲罰的な査定をした」事に対する是非であると考えます。
しかもその涌井は一番働いた選手であり、他の選手は怪我で長期離脱した主力選手を除きほぼお咎めなしです。

経営実態が厳しいことは選手側も重々わかっていると思います。

通りすがりに失礼しました。
返信する
Unknown (通りすがり)
2011-01-10 18:21:18
少し反論させてください。
今回の涌井の扱いは西武グループの経営状態とは全く別物ですよ。
なぜなら西武の他の選手は軒並みアップや緩い査定をされていて新聞に「暖冬交渉」などと書かれたぐらいです。
片岡や栗山という選手は西武にしては驚くほどあがっています。
ところが涌井にだけはまるでリストラ対象者のようになぜか異常に厳しい評価をしているのです。最初のダウン提示を飲んでいれば規定投球回に届いていない石井一久と同額になる所でした。
返信する
Unknown (hage)
2011-01-10 14:02:42
親会社の事情を涌井に理解するよう求めるのは酷でしょう。単純に「涌井じゃダルほどは客が呼べない」ということと理解すべきだと思います。
返信する

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