◆「財務アナリストの雑感」 2024◆

会計士兼アナリストによる屈指の歴史だけがウリの会計・財務・株式・金融ブログ。異常な経済金融環境を一刀両断!できるかな?

財務分析では「利益の質」に注目しよう!

2006-06-04 | 会計・株式・財務

いつも冴えない記事ばかりで恐縮です。

証券アナリストジャーナル 2006年5月号に日本政策投資銀行の
一ノ宮主任研究員による論文「利益の質と利質分析」のご紹介。

このテーマ、実は私にとって非常に関心があるところでして、
自分のためにポイントを整理。その後で簡単にコメントします。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
利益の質と利質分析
<一部.JICPAジャーナル2005.8掲載の同氏論文
  「利益の質による企業評価の試み」も引用>

■要約:「利益の質」は米国の企業評価実務で長らく利用されてきた概念だが
     世界的な財務報告の信頼性回復の風潮を受け、
     近年脚光を浴びるようになったと。   
     定義・分析手法・評価基準などにつき確定的な見解は確立されていないが、
     利益の質による分析は、財務分析・経営分析を補完するものであり、
     今後の企業評価において、利益の金額だけでなく質も斟酌した良否評価が
     必要であろう。

■利質の評価:「利益の持続可能性」と「会計処理の保守性」の視点から、
          先行研究で指摘された複数の指標を組み合わせて実施

■使用した指標

 ① 利益の持続可能性

   a)安定性=一定期間(例えば5期)の当期純利益の標準偏差
    (利益の安定性が高い場合、将来の利益を予想することは容易であるため。
     この標準偏差が高いと利質は低いことになる)   

   b)リスク=資産項目のうち「有価証券・投資有価証券・繰延税金資産」合計金額
         の総資産に占める比率
    (いずれも利益の変動性を高めうる時価変動リスクあるいは回収可能性
     リスクのある資産。将来利益予想に対するノイズ要因として選択。
     この比率が高いと利質が低い)   

  c)成長性=一定期間(例えば3期)の売上高の平均成長率
    (売上高の成長性と利益の成長性は比較的相関が高い。この率が高いほど
     利質は高い)

  d)反復性=一定期間(例えば5期)における特別損益が、当期純利益に占める
          比率の平均
   (当期利益に占める特別損益の割合が高い場合、将来も安定した利益を
    計上できるか否か不確実で利益の持続可能性に問題があり、利質も低い)


 ②会計処理の保守性
  
  a)利益操作=一定期間(例えば5期)における財務データから
       「裁量的発生処理額」を推計し、裁量的発生処理額÷売上高で算出      
          (発生処理額=会計利益-キャッシュフロー
           このうち、経営者による裁量的な会計行動に相当する部分を
           推計。この比率が高いと利質も低い)

  b)裁量的支出=(設備投資+研究開発費)の変化率-売上高の変化率
          (裁量的支出のうち設備投資や研究開発費の水準は、
           企業の将来性に重要な要素。支出が政策的に抑制されると
           短期的利益を確保できるため、長期的利益を犠牲にしていると
           考えられ、利質評価でマイナス)

  c)堅牢性=一定期間におけるキャッシュフロー・マージン
          (営業キャッシュフロー÷売上高。利益とキャッシュフローの乖離
           の程度を示す。乖離が少なければ利益数値がキャッシュで
           裏付けられているということで利益の分配可能性高く、
           利質も高い。)


■評価ランキングの作成

 企業のスクリーニングに際しては、その母集団数に応じて、各指標ごとに順位
 づけをする(たとえば100社の母集団で1位ならば100点)。
 利質に与える影響の重要性を勘案して
 「利益の持続可能性のスコア合計×0.6+会計処理の保守性×0.4」により
 利質総合点を算出する。
 その結果については、例えば「二段階評価マトリクス」などで吟味。
  (縦軸:業績評価=一般的な財務分析の結果を踏まえ「良好」「不良」 
   横軸:利質評価=利質総合点から「高い利質」「低い利質」)
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 (コメント)

① 一ノ宮先生は会計士の大先輩でもあり(もちろん面識はありません)、
  利質分析中心に多数の論文を出されており、まさにこの分野での第一人者
  です。

  <日本政策投資銀行HPより>

  利益の質による企業評価
  http://www.dbj.go.jp/japanese/download/pdf/economy/24_3all.pdf

   税効果会計と利益操作
   http://www.dbj.go.jp/japanese/download/pdf/economy/25_6all.pdf

   利益操作の研究
   http://www.dbj.go.jp/japanese/download/pdf/economy/23_4all.pdf

  経験・知識レベルの差が大きく、私がどうこう言えるワケがありません。
  ただ、会計基準の保守性のところでは、私がこれまで触れてきた
  「関与監査法人」、「財務会計基準機構会員」といった定性項目も加味したい
  とは思いました。
  (でも、これを書くと怒られそうなので予め謝っておきます。 mOm)


②これまで書いてきた私の幾つかの記事でも、利益の質に関するコメントを
  しておりますのでご参考下さい。 
  例えば、
    5月30日 「益出し決算 企業ランキング」に思う
    http://blog.goo.ne.jp/dancing-ufo/e/57af354fe650a0eaf61282626e7014f8
    上記指標でいえば「反復性」にあたるのでしょうか。

     3月15日 ライブドア支援候補・USENに思う
     http://blog.goo.ne.jp/dancing-ufo/e/fade3317f25ed76d1eab044c2377c17a

  私の場合、時間的制約もあって、このブログでの短信・有報の分析コメントは
 断片的なものにならざるを得ませんが、今後は上記指標を意識したコメントを
 意識的に増やそうと思います。


③最後に蛇足。
 「ブログでOB訪問」というサイトがあり、そこでは有難いことに私のブログも
 紹介されているのですが、どうやって調べたのですかねぇ・・・・・。
 http://syukatu.client.jp/sonota.html
 
 でも私は、一ノ宮先生ではありませんので、お間違いなく。
 ご本人の名誉もありますので。


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2 コメント

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相互リンクの変更 (KANAI)
2006-06-05 12:16:09
お世話様です。相互リンクをさせて頂いております。「ヘッジファンドマネージャーの日本株推奨」です。いつも面白い記事拝見させて頂いております。

私事で恐縮です。

リンク先URLが変更となりました。大変申し訳ありませんが、リンク先の変更をお願できますでしょうか?大変お手数です。

今後もユニークな視点でのコメント楽しみにしております。

新しいURLは

http://newyorkoji.cocolog-nifty.com/

となります。
返信する
URL変更完了しました (dancing-ufo)
2006-06-06 00:13:29


KANAIさま



いつもお世話になります。

ご依頼の件、変更いたしましたので

よろしくご確認ください。

引き続きよろしくお願い申し上げます。

返信する

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