きみの靴の中の砂

ある年の六月の終わりのことであった




 新潟県津川から福島県会津へ、峠道を車で越えた時のことだ。

 気付けば、車は日当たりの良い台地状の広い畑の一角を走っていて、ちょうどサトウキビのように人の背丈よりも高く、里芋のように葉ばかりがやたら大きな作物が見渡す限りに植えられている場所だった。
 それは、今までに遭遇したことのない風景だった。

「何を作っているのかしら」イチ子が言う。

 農道が交差する角の畑の一本の作物の幹に白いプレートが結びつけられているのをイチ子が見つけ、ぼくは面倒がることもなく、車をゆっくり後戻りさせた。

 車を停めて二人で読む文字-----初めてその一帯一面の耕作物が何であったのかがようやく判明した。と、その時だ-----梅雨の晴れ間の陽射しが急に強烈さを取り戻し、それまでに台地が含んでいた水分を陽炎に変え、突き抜けるような碧空に向けて一斉に解き放ち始めたのは・・・。

 二人で見上げた空が、大きく育ったタバコの葉の若い緑をフレームにして鮮やかに縁取られていたのは、暑い夏を予感した、ある年の六月の終わりのことであった。


FINIS

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