「緑が枯れていくのって、どこか名残惜しげで寂しげよね」とイチ子が思い出したように言ったのは、休日に出かけた多摩川の河原でのこと。秋が冷めた陽射しを投げかけ始めていた。
「人の一生ってよく季節に例えられるけど、ぼく達は、そろそろ秋の初めの頃か...」
上流に架かる橋から車のエンジン音が唸るように絶えず聞こえている。
「微妙なところね。でも、もうしばらく夏のままがいいな」とイチ子は言うと、釣り人が残した踏み後を早くも川上へ向かって歩き始めている。
【Barry Manilow - It Never Rains In Southern California】