きみの靴の中の砂

音の思い出





「暖かい音がするのね」とイチ子さんが言って、見慣れぬオーディオ・スピーカーの前に立つ。
「おととし、じいさんの土地を上物ごと売却したとき、家財道具の中でこれだけ形見代わりに残してロフトに仕舞いっぱなしだったのを久し振りに引っ張り出してみた」とぼく。
「昔のVOXのアンプを縦に置いたみたいなカンジね」
「うん。飽きないというか、まぁ、古いのか新しいのかわからない微妙なデザインだよね。それに真空管アンプだから、こうやってヴォリュームを上げるとサーッていうノイズが聞こえるでしょ、これがあるから生音に近いわけで、これを制御しちゃうと不自然に奇麗な音になっちゃってダメなんだ」

                    

「さっき食事してたときにかけてたレコードもおじいさんの?」とイチ子さん。
 ぼくがうなずくと、
「あの『ムーンリバー』のギター、誰の演奏?」
「ああ、あれ、バーニー・ケッセル。三原綱木も好きだってさ」




【Barney Kessel - Moon River】

 

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