映画を学ぶと、撮影専攻でなくても教養の一環として『周辺減光』程度は学習するはずだ。
『周辺減光』とは、スクリーンの四隅が中央部に比べて光量が少なく(露出不足に)なる症状。理由は、丸いレンズを通して入ってくる光を受け止める側のフィルムもまた丸ければ問題ないのだが、それが四角いから四隅に光が届かず(足りなくなり)、暗くなる。
きのう、久し振りにルルーシュの『男と女(1966)』を観て『周辺減光』について書こうと思った。
それは冬のドーヴィル海岸(避暑地)のシーンだった。
当時、クロード・ルルーシュはまだ無名でスポンサーも付かず、自費で長篇を撮影していた。
とにかく資金がない。
カメラマン出身のルルーシュは、カメラは他のカメラマンの手には委ねず、自ら手持ち撮影もした。レンズとカメラの相性をテストして、理想の撮影環境を整えるなどは省かれたかも知れない。とにかく、あるもので用を足らしたロケだった。
脚本と映像イメージとをすり合わせてシーンを撮影するにあたり、ドーヴィル海岸のシーンは、当然、冬曇りの光量不足環境下での撮影となった。画面四隅の光量不足は、本来は、晴れた日に画角の狭いレンズを絞り込んで救済できるのだが、どうしても曇天のイメージで撮りたかったに違いない。ここは、増感現像している可能性もある。
ドキュメンタリー畑出身のルルーシュだから、イメージ優先で『周辺減光』などは問題にしなかったのかも知れない。その四隅の露光不足のおかげで、スポットライトを当てたような効果があり、単調な冬の海のシーンが、なぜかとりわけ印象深いものとなっている。
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映画は、とにかく脚本の出来が一番。つまらない脚本は誰が撮ろうとも面白くなるはずはない。
『男と女』の脚本は監督本人とピエール・ユイッテルヘーベン。ピエールは、後年の仕事内容から察するに、『男と女』の台詞部分を主に監修したようだ。
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『男と女(Un homme et une femme)』・・・カンヌ国際映画祭グランプリ(1966)、アカデミー賞(1967)脚本賞・外国語映画賞。
【Un homme et une femme(1966)】