ニューヨーク。11月にしては暖かいある日曜の朝、お金には不自由していなさそうな30代後半の夫婦(マイケルとフランシス)が五番街を腕を組んで歩いている。夫は、すれ違う若い女性に視線を向けてばかり。
せっかくの休日だから、妻は、夫婦二人だけで一日を過ごしたかったが、年長の知人の夫婦が郊外をドライブしようと誘ってきていた。
夫は、不満をいう妻を誘ってカフェに入るとブランディを二杯。男は相変わらず、舗道を行く女性ばかり見ている。
妻は夫の考えとは異なり、午後、田舎をドライブするのは気乗りしなかったし、夫が若い女性ばかり見るのも気に入らなかった。
夫は妻にニューヨークの若い女性が好きだと言う。冬が終って、陽気が良くなってからの【夏服を着た女たち】なら尚更だとも....。
妻は次第に、夫が自分のことを本当に愛しているのか疑いたくなってきた。そして会話は、夫婦の別れ話にまで発展しそうになる。妻は、(もう絡むのを止めにするから)どうか自分の前で他の女の話をしないでくれと夫に頼む。夫が了承した代わりに、夫が行きたがっている午後のドライブを妻は受入れることにした。
知人の夫婦に、午後に行くと電話をかけるために席を立ち、カフェの奥の電話のある方へと歩いていく妻の後ろ姿をじっと見詰めながら、夫は《なんてきれいな女なんだろう、なんてきれいな足なんだろう》と思うのだった。
*
日本語訳でさえ400字詰原稿用紙15枚程度。短編にしても余りに短い一篇である。
このショート・ストーリー “The Girls in Their Summer Dresses (1938), Irwin Shaw (February 27, 1913 – May 16, 1984) ” の初出は、The New Yorker Magazine である。この週間誌の特徴は、掲載広告がまったくないのと、全編にわたりイラストは使うが写真は一切使わないというところにある。作品が掲載されるWriterのキャリアは不問であるが-----小説、詩、批評、コミック、ルポ-----各分野に渡り、ひたすら都会的でハイブローであることが求められる。創刊以来八十有余年、この編集方針は今も貫かれている。
特に今夜取り上げたアーウィン・ショーの『夏服を着た女たち』以来、掲載される短編の Writer には、他にも増してひときわ都会的で垢抜けたセンスが要求されるようだ。
掲載された小説群は、そのまま『ニューヨーカー・スタイル』と呼ばれ、現代小説のひとつの規範となっている。
もちろん、このコラムの Writer も Sophisticate された『ニューヨーカー・スタイル』をめざしてはいるのだが、なかなか難しく、いまだ成就する予感はない。
FINIS
最新の画像もっと見る
最近の「これくしょん」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
2007年
人気記事