夕食後。
「欧州大戦時にドイツの兵隊が野戦で配給される食料のメニューに玉葱いち日二分の一個って書いてある資料を見たけど、生のままかじって辛くないんだろうか、知ってる?」とイチ子さんに聞いた。
「それ、映画で観たことある。エシャロットも、なんにも付けずにかじるわよ、あの人達。日本人と違って、臭いのきついお酒や燻製や葉巻なんかに慣れてると、玉葱の辛みなんか曝さなくて平気なのかもね」と言う。
「そういやあ、六月に入って新玉もそろそろお仕舞いだけど、新玉は曝さない方が玉葱らしくて、ぼくは好きだな」
するとイチ子さんが、目を落としていた通販カタログから顔を上げて言う。
「そうね、新玉と生首は曝しちゃ駄目よ」
聞くなり、夕食時のマルゴーの酔いが、突然思い出したように回ってきた。