水口イチ子を実在の人物と理解している人がいるのを昨日知りました。それは、ほぼ想定してこなかったことです —— メグレやポワロ、シャーロック・ホームズやフィリップ・マーロウが実在しないと理解されていることと同様、水口イチ子も架空の人と理解されているものとばかり思っていました。
水口イチ子は、男性から見て、実際にはいるはずのない個性として登場してきます。もう少し詳しく言うと、人には必ず欠点があるものですが、『水口イチ子』では、女子としての致命的な欠点には一切触れられることがありません。つまり、ほとんど欠点と言われるほどの欠点のない、理想的な女子として描かれます —— これが、『いるはずのない個性』の理由です。もっともな話、他人の欠点に目をつぶれるほどの人格者ならば、世の中は、理想的な人々で溢れかえって見えることでしょう。