『晴れてきました。そちらはどうですか』とその半島住まいの人は尋ねていた。もちろんそれは、こちらの空模様を訊いているのだが、その時、僕は、とある結婚式・披露宴に呼ばれていて、ある急な事態に直面しているところだった。だから、その『そちらはどうですか』は、天気ではなく、身の置かれた状況を尋ねられているようにも聞こえたのだった。
かねてよりスピーチを頼まれてはいたが、両家交互に行う一連の祝辞披露の中で一言二言話せばいいものとばかり思っていた。だが、披露宴直前に示された着席表を見て驚いた。主賓ではないか! 新郎新婦とも二十代前半の未熟者だから、『主賓』という概念が薄かったのか、先月、出席を頼まれた時、それとは少しも聞かされずにいた。
この状況は、
「(最終回の攻撃も)四点差で負けてるし、これはまず出番はないな」と勝手に決め込み、二日酔いですっかり憔悴しきった身体をベンチ裏で持て余していた景浦が、ヒョイとベンチから顔を出した控えの選手に、こう言われたようなものだ。
「景浦さん、今、ツーアウト、二・三塁ですから、満塁になったら代打行くって監督が言ってますよ」
【スピーチの核心】
「十六世紀に日本にキリスト教が初めて入ってきた時、聖書の日本語訳に取り組んだ翻訳者達は、当初、“LOVE” という言葉を『愛』とは訳さず、『大切にすること』と訳したそうです。
二人が添い遂げるために、努力とか、忍耐というような抽象的な言葉を支えにするのではなく、ぜひ、お互いに『大切』にし合って暮らしていって下さい」
果たして、このスピーチは、有効な安打となったか?
***
晴れてきました
そちらはどうですか
午前11時、ディズニーランドの隣りにある『ヒルトン東京ベイ』の窓からは、暴風雨の中、道路一本隔てて大荒れの海が見えていましたよ。
披露宴が済んだ午後1時半の空は、すっかり雨も上がって晴れ。
私服に着替え、長袖のシャツの袖を二の腕まで巻き上げて帰りました。ミッキーのシャトル・バスに乗って.....。
FINIS