スタインベックのノーベル文学賞受賞作『怒りの葡萄』は当初、アメリカでは発禁本に指定された。世界にアメリカの恥部を知られるのを政府が嫌ったのが理由だ。かつては、アメリカも結構見栄っ張りなところがあった。
ところで、この『オキナワの少年』も戦後の日本の恥部を描いている。今の人がこれを読むとき、ここに至る時代背景を知らないと、この文学の神髄に触れられない。この時の芥川賞の選考委員が、日本政府の息のかかった人達で構成されていたら、最終選考に残ったとしても受賞はしなかったかも知れない。
コザ市のホテルに宿泊して、外を歩きたいから地図を欲しいとフロントで言うと簡易地図をくれる。フロントマンは、その地図のある地区をマーカーで囲んで、
「この地区には入らないで下さい」と言う。その地区が、第66回(1971年下半期)芥川賞受賞作『オキナワの少年』の暮らした町である。