きみの靴の中の砂

夏の斜面




 近年、企業や社会の理解が進み、特殊学級を卒業した知的障害をもつ子供達のうち、八割程は社会で仕事に就くことができるという。しかし、残りの二割程-----つまり、計算が出来ないどころか、自分の名前も書けない子供達-----には、それは叶わない。そういう子供達が入所する養護学校が、栃木県足利市郊外の山中に自分達の畑を持ち、ワイン用の葡萄を作っている。そして、その葡萄からワインを醸造・販売し、子供達が生計を立てているワイナリーがある。
 その醸造所が醸した白ワインの一本を飲む機会に恵まれた。

 そのワイナリーで働く従業員の特殊性は、取りあえず脇に置いておいて、とにかく昨今、そこで作られるワインが大層美味しいレベルに達していて、マスコミで次第に採り上げられ始めている。難を言うなら、生産量が少ない点だけだ。
 味と値段を比べ、良心的な製品であれば取り扱うという、全国の特別な酒屋さんの店頭にも少しずつ並び始めている。

 夏の炎天下、機械を入れにくい斜度38度の山の急斜面に這いつくばって草取りをする子供達の中には、八十代の年長者もいるという。
 醸造所のホームページにある山の畑の写真を見ると、ケストナー(Erich Kästner, 1899 - 1974)が芝居の背景に使いたがるような風景がアップされている。そこで働く、子供達ののどかな生活が想像できるようだ。

 ところで、この醸造所で作られる Noumin(農民) というラベルのワインは、先の『沖縄サミット』並びに『洞爺湖サミット』の晩餐会公式ワインに選定されている。


FINIS
 

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